ニュースココだけ | 機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争
OVA(オリジナルビデオアニメーション)のリリースを続けていたエモーションレーベルが、それまでの作品単体のリリースをするのではなく、複数話でシリーズ化することで作品制作のコストダウンを図った「低価格OVA」戦略。その第1弾となったOVA『機動警察パトレイバー』(1988年4月発売開始)の成功を受けて、第2弾として企画され、約1年後の1989年3月に発売開始されたのがOVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』(以下、『0080』)だ。
『機動警察パトレイバー』は、原作集団ヘッドギアによるオリジナル企画であり、1話完結(5、6話のみ前後編)のスタイルが取られており、各話ごとにテイストが異なるバラエティ豊かな内容で制作された。ヘッドギアに参加したクリエイターの知名度と、目新しさが含まれた企画性の高さから大ヒットとなった『機動警察パトレイバー』に続いて、OVAの次なる展開に向けて白羽の矢が立ったのは、富野由悠季が生み出した『機動戦士ガンダム』シリーズのOVA化だった。
筆者がかつて『0080』について取材した際、プロデューサーを務めた内田健二は『機動戦士ガンダム』シリーズのOVA化に向けた思いを次のように語っている。
「(『機動戦士ガンダム』では)富野監督が第二次大戦後の日本人のあるジェネレーションの疑似的な戦争体験とも言えるこれだけの世界を作ったので、第二次大戦物の小説や映画と同じようなフィールドは(OVAに)成り立つと思ったんです。それを『機動戦士ガンダム』を体験した人達が作ってもいいんじゃないかという考えは、わりと自然にありました」(機動戦士ガンダム ハチゼロ/ハチサン/ゼロハチ:太田出版 より抜粋)
当時、『機動戦士ガンダム』は、続編である『機動戦士Zガンダム』、『機動戦士ガンダムZZ』という2本のテレビシリーズを経て、劇場映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』が公開されることで、富野監督が描いてきた宇宙世紀の物語はひとつの大きな区切りを迎えていた。そのシリーズ転換点とも言えるタイミングで求められたガンダム初となるOVA化において、最も大きな挑戦となったのは、富野監督以外が『機動戦士ガンダム』の世界を描くことだった。
先の内田の発言にあるように、OVA化にあたっては『機動戦士ガンダム』を体験したクリエイターに参加の打診がなされた。OVA化にあたり、『逆襲のシャア』よりも先の宇宙世紀の物語は富野監督以外が手掛けることは考えられない。そこで、一年戦争の世界をベースにした作品の制作を行うことが決まり、メカデザインと世界観の構築にあたっては、『逆襲のシャア』に参加した出渕裕に声がかけられ、キャラクターデザインは安彦良和の影響を受けた美樹本晴彦が担当。そして、監督は『超時空要塞マクロス』でしっかりとした人間ドラマを描くことができる演出手腕に注目が集まっていた髙山文彦に依頼される。そこで、メカデザインのアップデートと、より人間ドラマによった作劇がなされることになる。
もうひとつのガンダムシリーズとしての転換点と言えるのは、『機動戦士ガンダム』の舞台として描かれた「一年戦争」を別の角度からオフィシャル作品として映像化したことだろう。『機動戦士ガンダム』の物語では、主人公のアムロ・レイとその仲間が乗り込むホワイトベースの視点を中心に戦争の状況が描かれていた。しかし、地球圏規模に広がっている戦争状況に関しては劇中のセリフなどで触れられるのみで、深い描写はなされておらず、それを手掛かりにファンを中心に余白部分の想像がなされるという状況だった。
その後、1981年にみのり書房から発売されたアニメムック『宇宙を翔る戦士達 GUNDAM CENTURY』が発売され、その誌面ではスタジオぬえのスタッフが中心となって、設定の補強がなされた。一方、ガンプラブームが隆盛の中、模型誌などの作例では劇中で描かれなかった一年戦争のさまざまな戦場のジオラマ化がなされるなど、作品世界を広げる動きも強まっていた。そうした映像の余白に想像を広げられる要素が、当時のガンダムシリーズが人気を博した理由でもあり、『0080』ではそんなファンの思いを具現化する形で物語が編まれることになる。
『0080』の舞台となるのは、宇宙世紀0079年12月。一年戦争の趨勢が決しようとする中、地球連邦軍の新型ガンダムを追うジオン公国軍の特殊部隊「サイクロプス隊」の作戦を軸に、新米パイロットのバーニィと中立コロニーのサイド6に住む少年アルとの交流が描かれる。戦争の趨勢を決する戦いからは外れた場所で、もうすぐ戦争が終わろうとしている中で起こる悲劇を少年の視点から描写するストーリーは、戦争の残酷な現実を戦争映画とジュブナイルな要素を織り交ぜる形に昇華し、ガンダムの世界観が持つ新たな可能性を示すことに成功している。そして、その後に続く形で『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』や『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』などのOVAシリーズが展開していく礎となった。
また、『0080』はOVAのリリーススタイルとしても、新たな挑戦を行った作品でもある。初期のOVAは、30分のテレビアニメと90分から120分の劇場アニメの中間に位置するスタイルで、1本1時間程度の長さの単発作品としてリリースされていた。その後、OVA『機動警察パトレイバー』では、冒頭で解説したとおり、1話完結のスタイルで全6話というテレビシリーズ1クールの半分というスタイルとなっている。この1話完結の構成は、シリーズ全話を購入しなくても1本で完結した形で楽しめるという配慮とも考えることができる。しかし、『0080』は1本の繋がったストーリーの長編映画を6本に分けるような新たなスタイルが取られており、全話を通して見なければひとつの作品として楽しむことができない形となった。このリリース方法は、後半になれば売り上げが落ちてしまうというリスクもあったが、最終的にはそうした不安を払拭するほどの大ヒットを記録することになる。『0080』の成功を受けて、長編ストーリーを分割してリリースするスタイルは他の作品でも取り入れられ、多くの名作OVAが生まれることへと繋がっていく。
改めて振り返ると『0080』は、ガンダムシリーズのスタッフ面とストーリー面での新たな可能性を拡大しというガンダムの歴史的ポイントと、OVAの新たなリリーススタイルを確立するという大きな成果をもたらしたという点を併せ持った作品であることがわかるだろう。それゆえに、OVAのヒストリーを語る上で『0080』は重要なポジションに位置する作品であることは間違いない。
文:石井 誠
◆ニコニコ生放送にて12月24日(日)21時半より
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