EMOTION 40th Anniversary Program「『攻殻機動隊ARISE』10周年記念上映&トークショー」レポート公開!
映像レーベル「EMOTION」の40周年記念企画「EMOTION 40th Anniversary Program」の一環として、士郎正宗原作、Production I.G制作によるOVAシリーズ『攻殻機動隊ARISE』(以下『ARISE』)の10周年記念上映&トークショーが、2023年6月22日(木)、TOHOシネマズ新宿にて開催された。『border:1 Ghost Pain』(以下『border:1』)と『border:3 Ghost Tears』(以下『border:3』)上映後のステージには総監督・キャラクターデザインを務めた黄瀬和哉さん、シリーズ構成・脚本を務めた冲方丁さんが登壇。10年を経ても愛され続ける本作について、深く語り合ったトークショーの模様をレポートする。
「『攻殻機動隊ARISE』10周年記念上映&トークショー」レポート公開!
雨が降る平日の夜に駆けつけた熱いファンが待つ劇場内に、黄瀬さん、そして真っ赤なロジコマスニーカーを着用した冲方さんが登場し、トークショーがスタート。当時の多忙ぶりを振り返る冲方さんは、『ARISE』を経験したことで「どんな球が来ても驚かなくなりました」と皆の要求をまとめる脚本家の大変さを語った。一方の黄瀬さんは「現場は人に任せて、上がってきたものの判断だけをしろと石川さんに言われた」と総監督の特殊な立ち位置を説明した。
ここからは当時の制作スケジュールを振り返りながら、具体的に10年前を振り返っていく。Production I.Gの石川(光久)社長(当時)から2012年末にそれぞれ本作品の企画に誘われていたお二人。なかなか実現に至らなかった企画が遂に動き出し、「関係者それぞれが微妙に異なる“攻殻像”を抱いているので、ピントを合わせる作業が大変で」と当時の心境を語る冲方さん。4人の監督とのやり取りは楽ではなかったようで、「キャッチャーは1人なのにピッチャーは4人いるようなもの(笑)」と嘆き、さらに「黄瀬さんは総監督と言っておきながら結局『border:3』で監督してますからね」と突っ込む。
それぞれ掲げられたテーマは、『border:1』がサスペンス、『border:2 Ghost Whispers』がアクション、『border:3』がラブロマンス、『border:4 Ghost Stands Alone』がオマージュ。「オマージュだけは最初から決まっていて、あとは各監督がやってみたいテーマ」と黄瀬さん。それらのテーマを一方的に投げられた冲方さんは「『攻殻機動隊 新劇場版』(以下『新劇場版』)だと最後は桜が見たいと。じゃあ“全員に学ラン着せてやろうかな”なんて思いました(笑)」と冗談を交えながら答えつつ、「刺激にはなりました。情報化社会で天才ハッカーをどうやって騙せるんだと悩み、新しいテクノロジーとして疑似記憶を採用したり」と続けた。さらに、『border:3』が今まで関わったアニメ作品の中で一番好きだと明かし、「テーマとストーリーがマッチしているのと、サイボーグをもっと生々しいものとして捉えることができたのは嬉しかったです」と語る冲方さん。その後も、機械工学と生命工学の接近、恋愛感情をセリフ以外で表現することなど、小説家・脚本家ならではの専門的な目線で『border:3』の魅力を分析した。
後半は、黄瀬さんによる初期の設定画、各作品のキービジュアル、そのキービジュアルのラフをスクリーンに映していきながら、デザイン面を語っていく。草薙素子の髪型について「あの頃は若手の女優さんとか前髪パッツンが流行ったんですよね。電車の中でそういう女の子を見て、ここまでやってもいいのかな」と当時を回想した。自分の中に明確な攻殻像がないと言う黄瀬さんは「最初の『攻殻』(1995年公開の『GHOST IN THE SHELL/ 攻殻機動隊』)からやっているのは僕だけなので、緊張も何もなく。またやるのかと思うだけで(笑)」と淡々と語り、「今までと全然違うことをしないとやる意味がなかった」と言い切った。さらに、当時お二人が参加した舞台挨拶やイベント、広告宣伝物などを振り返り、昔の想い出を語り合った。黄瀬さんが今回のために描き下ろした10周年記念イラストは、本編ではほとんど見られなかった柔らかな表情の草薙素子が描かれ、本イベントの入場者プレゼントとしてイラストシートが配られた。
するとここで、もし今『ARISE』を作るとしたらという質問が投げかけられ、冲方さんは「当時、トグサの娘を主人公にしたハイテクノロジーのSF警察ものを提案したらなぜか反対されました(笑)」と語り、「『ARISE』で既成観念を少しずつ削った今だったらできるかも」と回答。黄瀬さんは「自分ではやりたくないので、外から見ています(笑)」と回答し、会場の笑いを誘った。その後も、10年を経た視点から、シリーズにおける『ARISE』の位置づけ、テクノロジーの進化による感覚の変化、身近になったロボットやAIなど話題は尽きない。
濃密なトークが繰り広げられたイベントも終わりが近付き、最後は劇場内のファンにメッセージを届ける。「コロナ禍が明けてイベントができるようになったことが大変嬉しいです。また皆様とどこかでお会いできることを願っております」と冲方さん。最後は黄瀬さんが「自分自身は終わった作品をあまり見返すことはないので、今回の上映で楽しんで頂けたなら嬉しいです。本当に今日はありがとうございました」と締め、イベントは幕を閉じた。
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