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「名作ヒストリー」マクロスプラス[特集サイト「プレイバックエモーション」]

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「2作品の『マクロス』を同時に作る」という空前絶後のアイデア

 1982年にTVシリーズが放送され、1984年には劇場映画化も実現した『超時空要塞マクロス』は、絶大な人気を誇った作品だったが、当時のメインスタッフが再び続編制作に携わることはなかった。
 「マクロス」の企画を作り上げた中心的人物である河森正治は、基本的に「二度と同じことはやらない」ことを信条としており、もう「マクロス」を作るつもりはなかった。だが、それは裏を返せば「何か新しいことができるなら取り組む」ということに他ならない。そして河森は思い付いてしまったのだ。「2作品の『マクロス』を同時に作る」という空前絶後のアイデアを──。
 ひとつはTVというメディアで、「マクロス」とは真逆な漫画チックな方向性を打ち出した『マクロス7』。そしてもうひとつが、OVAという形態を活かした『マクロス』のリアル路線を継承するハイクオリティな『マクロスプラス』。相反する2つの方向性の「マクロス」を実現できるならば、もう一度過去の作品に関わる意味が見出せるのではないか…? かくして不可能と思われた河森の企画は承認され、『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』(以降「愛・おぼえていますか」)公開から10年が経過した1994年に、2作品が同時に送り出されることになった。

 『マクロス7』は監督のアミノテツロー(現:アミノテツロ)をはじめ、王道のTVアニメを手掛けてきたメンバーで構成されたことに対し、『マクロスプラス』のスタッフィングは、初監督と初アニメ脚本という意外なものだった。
 監督に起用されたのは、『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』の現場で、河森が注目していた演出家、渡辺信一郎。渡辺は本作が初監督となったが、河森自身も23歳で初監督に抜擢された経緯から、「別に不思議なことではない」と考えていた。
 一方、脚本は実写ドラマで実績のある信本敬子に依頼された。OVAという形態は、話数を広げられない反面、30分という枠組みにとらわれず、人数を絞ればキャラクターの側面を深堀りできるというメリットがある。TVシリーズよりも、実写ドラマの経験が活かせるフィールドと言えた。
 アニメへの参加が「初」という点では、菅野よう子が本格的にアニメーション音楽を手掛けたのも本作である。渡辺、信本、菅野の3人は、その後『カウボーイビバップ』という名作に携わることになるのだから、このスタッフィングには先見の明があったと言わざるをえない。
 本作の舞台として描かれるのは、『超時空要塞マクロス』からおよそ30年後となるA.D.2040。惑星エデンで行われる次期全領域可変戦闘機開発計画「スーパーノヴァ計画」を題材に、YF-19パイロットのイサム・ダイソンと、その学生時代の親友であったガルド・ゴア・ボーマンの対立、そしてヴァーチャル・シンガー、シャロン・アップルのプロデューサーで、2人の幼馴染みの女性、ミュン・ファン・ローンを交えた三角関係が軸になる。



 試作機開発競争という題材は、そもそも「大規模戦闘を描かずにメカアクションを集中して描ける」という点を考慮したうえでの河森の狙いだった。その狙いは適格で、破天荒なイサムが駆るYF-19と、冷静さの中にゼントラーディの熱さを持つガルドのYF-21は、魅力的なキャラクター性を生み、長きに渡ってファンに支持されることになる。
 一方、20代前半の若者だった河森も30代のベテランとなり、作家としてテクノロジーやサイエンスへの憧れを描くだけでは済まないことを理解していた。特に集団催眠というテーマは、河森自身が注目していたトピックで、「現代人は知らないうちに集団催眠という洗脳を受けている」という危険性を作品のテーマとして取り入れられている。シャロン・アップルによる洗脳、AIへの警鐘は、逆に現代だからこそ実感できる要素と言えるかもしれない。

 そして忘れてはならないのが、現在では実現不可能と言われる手描きによるハイクオリティメカアクションである。本作で実質的にバルキリー対バルキリーの本格戦闘シーンが描かれたわけだが、超絶的な空戦アクションである「板野サーカス」を存分に味わえるだけではなく、バトロイド同士の格闘戦も大きな見どころとなった。
 このメカアクションを実現させたのは、『超時空要塞マクロス』からシリーズを支えてきた特技監督の板野一郎。アニメのハイクオリティ化が進むなかで、板野は「これが最後の有人飛行(最後の手描き作画)」ととらえていた。板野はメカアクションのリアリティ向上を狙い、アメリカ取材で河森とともに模擬空中戦を体験。劇中のメカアクションやコクピット描写など、取材で得られた経験は、本作の様々なアクションにフィードバックされている。


 そんな板野を慕い、村木靖ら「マクロス」のメカアクションイズムを受け継いだ作画マンが参加。『マクロスプラス』のスタッフクレジットは、オールジャパンアニメーターと言っても過言ではない布陣である。
 特に『マクロスプラス MOVIE EDITION』で追加されたリミッター解除されたYF-21と、ゴーストとの戦闘シーンは、無数のミサイルを回避する超絶的な作画を描き切り、「伝説の5秒」と称される名場面となった。『マクロスプラス』を象徴するシーンとして、現在も語り草となっている。

 かつてハイクオリティアニメの代名詞だった『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』は、その後生み出された多くの作品に影響を与えた。それから10年、再び時代に楔を打った『マクロスプラス』は1990年代を代表する作品となっただけではなく、「マクロス」のシリーズ化を決定付けることになる。「マクロス」シリーズとして紡がれたハイクオリティアニメを作り出す志は、その後表現方法が変わったとしても、絶えることなく受け継がれているのである。

文:河合宏之

 

<発売情報>

マクロスプラス MOVIE EDITION
好評発売中
税込価格:¥5,500
品番:BCXA-1060

 


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