「イマレコ!-今コレをレコメンド!」『プラネテス』(前編)[特集サイト「プレイバックエモーション]
NHK Eテレにて毎週日曜 午後7時00分より放送中のTVアニメ『プラネテス』をイマレコ<-今コレをレコメンド!->!
漫画『プラネテス』をTVアニメ化するにあたって、より作品の魅力を増幅させるに至った新設定を前編・後編で紹介!
「登場人物たち=会社員」という設定
TVアニメ『プラネテス』は幸村誠による同名マンガが原作だ。原作もアニメも、デブリ(宇宙ゴミ)回収を仕事とする主人公ハチマキを中心とした物語という点は変わらないが、アニメ化にあたり大きく設定が変わっているポイントが2つある。その1つが、ハチマキがテクノーラ社という企業に所属しているという設定だ。
テクノーラ社は宇宙産業関係の大企業という設定。ハチマキが所属するデブリ回収チームも「デブリ課」という同社の一部署という位置づけになっている。そしてこのデブリ課は「半課」と呼ばれ、社内でもお荷物扱いされている、問題のある部署なのだった。
このアレンジは『プラネテス』という作品に「お仕事もの」という切り口を与えるためのものだ。「低軌道でデブリを回収する」という、一般視聴者には縁遠い題材を「会社の仕事」という設定にすることで、身近に感じてもらおうというわけだ。このアレンジに伴って、デブリ課の課長や、事業部長のドルフ、ハチマキの同僚として管制課のクレア、航宙課のチェンシンなどのオリジナルキャラクターが新たに配された。
こうして「お仕事もの」という切り口が加わった結果、『プラネテス』の世界の“解像度”は大幅にあがった。原作ではキャラクターの内面に近寄っていた“カメラ”が、アニメでは少し引き気味になり、そこに「人々の暮らし」や「社会情勢」というものが映り込むことになった。ハチマキたちがどんな世の中で生きているかが、よりくっきりと見えてくることになった。
現実世界との共通点が垣間見えるリアルなドラマに共感!
この方向性が一番明確に伝わってくるのがアニメオリジナルのエピソード、Phase5「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」とPhase11「バウンダリー・ライン」だ。
「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」は、月へ向かうルナフェリーの中でハチマキやタナベたちと乗り合わせた乗客たちが繰り広げる、ややドタバタ色のある内容だ。登場するのは、借金を理由に心中を覚悟した親子連れ、タナベの財布をするスリ、それにあやしげな映画(AV)撮影クルーなどなど。彼らはそれぞれの立場で人生を語る。
これだけ取り出せばごく普通のエピソードなのだが、実は彼らは、その後のエピソードの中でも折に触れてその姿が点描されていく。彼らもまた彼らの人生の中では“主人公”であり、そういう多くの人々によって世間は構成されているのである。
「バウンダリー・ライン」は、小国エルタニカの技術者テマラが、独自に開発したEVAスーツを採用してもらうために奮戦するという内容。エルタニカは経済封鎖と内戦で国情はボロボロ。テマラはそんな国を立て直すには技術立国しかないと思い、仲間とともにEVAスーツを開発したのだった。このエピソードには「内戦」「南北格差」「非常な国際政治」といった要素が詰め込まれている。
「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」が「世間にはいろいろな人がいる」だったのに対し、「バウンダリー・ライン」はこの世の中にはどうしようもないこと(不条理)が存在することを描く。バウンダリー・ライン(国境線)はその象徴といえる。
「お仕事もの」を入り口に、そのような世の中のあり方を見せてくれるのがアニメ『プラネテス』なのである。
text/藤津亮太
<再放送情報>
2022年1月よりNHK Eテレにて毎週日曜夜7時~放送中
▼『プラネテス』公式サイト
http://www.planet-es.net/
©幸村誠・講談社/サンライズ・BV・NEP