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『攻殻機動隊 新劇場版』黄瀬和哉&冲方丁スペシャル対談全文掲載

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攻殻機動隊結成前夜の物語『攻殻機動隊ARISE』と、攻殻機動隊結成最初の事件を描いた『攻殻機動隊 新劇場版』。『ARISE』シリーズからコンビを組む黄瀬総監督と脚本の冲方さんが作り上げた『新劇場版』は、クラッシュ&ビルドから誕生することで『攻殻』シリーズをひとつの輪で繋いだ。

『攻殻機動隊』の世界をひとつにした『新劇場版』。

――『攻殻機動隊ARISE』から繋がる劇場版ですが、これは『ARISE』当初から予定されていたのですか?

黄瀬和哉(以下、黄瀬) 「やるよ」って話はあったんですけど、内容とかは何も決まってませんでしたね。

――ということは士郎先生の原作・「攻殻機動隊」へと繋がるエピソードという前提があったわけではなかったと?

黄瀬 ええ。なので最初は「好きなことだけやり逃げしちゃえ」って気持ちだったんですけど、やっぱり周りがそれを許してくれなくて(笑)。

――『新劇場版』が動き出したのはいつ頃ですか?

冲方 丁(以下、冲方) 2年ぐらい前?

黄瀬 そもそも『ARISE』は最初全6話(『border:1~6』)だったんです。その『border:3』の脚本制作が終った頃に「これ2本分(『border:5』と『border:6』)は劇場版でやりましょう」という話をいただいて。そこからですね、じゃあどういう話をしましょうか?って。

冲方 第6話で終らせればいいやと思っていたら、最後の2本が映画になると決まって、この時点で初期のプロットはなくなりましたね(笑)。ただ僕の中にあったのは、(士郎先生の)漫画の世界に最終的に繋がれば、自然と今までのアニメシリーズにも橋渡しとなるものとしてファンも見てくれるだろうと。

――それでは『ARISE』のTV版『ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE』のオリジナルエピソード前後編は当初のシリーズ構成にはなかった物語なのでしょうか?

黄瀬 『ARISE』のオリジナルエピソードがTVでオンエアされるって決まったのは『新劇場版』よりも後です。劇場公開の前に『ARISE』をTVで放映するよって決まって、それならやっぱりサプライズ的なものがあった方がいいよねって無茶ぶりされて(笑)。TVアニメの場合、1クール(13話)だけど(『ARISE』は『border』を前後編に分けても)8話しかない。あと2話ぐらい、せめて全10話にはしたいかなって。

――過去のシリーズ作と『ARISE』とを繋ぐ橋渡しとして『新劇場版』があって、シリーズ全体をひとつのものにしていると。

黄瀬 そういう形に徐々になっていったんです。単純にそこまでは考えていなかったんですよ。今までの作品に繋いでいくっていうのは、ぼんやりとはあってもいいけど、具体的に繋げなくてもいいかなって感じで。でも、だったら繋いでもいいじゃんって流れになって、そういう方向に近付いていったなと。結果オーライというか。


もっと素子をはっちゃけさせたかったですね。

[V-STORAGE online 限定]――押井監督作、神山監督作とさまざまなシリーズ作に黄瀬総監督は関わられてきましたが、『ARISE』シリーズを監督するにあたりプレッシャーはありましたか?

黄瀬 ないよ(笑)。

冲方 (黄瀬さんは)綺麗サッパリないですね(笑)。

黄瀬 周囲の人の思い入れがすごくて。僕はそういう人たちの思考を壊す側の役目でしたね。「観なくていんだよ、これまでのシリーズは」って。

冲方 僕はガチガチでしたけど、黄瀬さんの言葉に救われましたし、キャストの皆さんもそうだったと思いますね。「責任は全部僕(黄瀬)が取るから」って(笑)。

黄瀬 作品が成功したらプロデューサーの手柄、失敗したら僕のせい(爆)。大変な重責です。

――『ARISE』はリセットに近い意識をされていましたか?

黄瀬 最初からではないですね。士郎先生が出してきたプロットの中に、生まれた直後から全身義体化した素子の過去話がアイデアとして書いてあって。「これやっちゃっていいのかな? (士郎先生)漫画で描かないのかな?」って逆に気になって。でも士郎先生は特に描く予定がないとのことだったので、つまりそれは(原作者からの)「やってくれていいよ」って意味にもとれるなと。だったらそこから昔の話にしちゃいましょうと。それなら新しいエピソードも出せるし、キャラクターも未熟な状態で描くこともできるしって感じでしたね。

――キャラクターの過去を描くことは、後の成長に繋げるという制約があったと思います。脚本執筆は難しかったですか?

冲方 難しかったですが、割と楽しんで出来たかなと思いますね。各人の若さを描くにあたり、その描き方にもバリエーションがあって。(こいつは)周りが見えているとか、(こいつは)腐っているとか。(9課メンバーの)サイトーなんて戦争が終って何もすることがなくって、金しか信じられなくなっていて、暇つぶしにギャンブルやっているとか。プライドはみんな高いはずなんです、能力の高い人としては。それがイジけてるバリエーションを作っている。イシカワは、若さというよりも周りに頼まれると文句をいえなくて、ずるずる仲間に引きずられる意思の弱さ。そんな男たちを素子が引きずり出し、殴って更生させていく(笑)。バトーなんかひどいやられようですよね。

黄瀬 バトーはね。こっちに行った方がいいことあるよって言っているにもかかわらず殴られてますもんね。

冲方 なのでキャラクターの描写についてはスムーズに書けましたね。思い切りよくさせてもらえたので。(過去作に)ずんずん引きずられると書けなかったと思います。

黄瀬 過去作を考えなくていいような(攻殻機動隊結成前の)時間軸にして、徐々に成長していくようにしたので。今までの素子だったらやらないよって言われても、そこに行く(成長の)過程だから問題ないでしょと。今までのキャラと違う部分があっていいと。そっちの方にシフトした方がやる方は楽だし。ただやってみると、みんなの頭の中での素子っていうのはスーパーマンなので、それを壊すのがすごく大変でしたね。スタッフの中で『攻殻機動隊』っていうのが出来上がってしまっていて。影響受けるから(過去作を観るのは)止めなさいって言うんだけど「やっぱり知識として観ておかないと」とか言って彼らは観ちゃうんですよ。

冲方 ただ、もっともっと素子をはっちゃけさせたかったですね、今思うと。

黄瀬 ここまでやっていいのかって、最初の時には不安感もありましたよね。(ファンに)何言われるかわからないなと。


恋愛は照れたら負けですからね(笑)。

――『border:3』の素子のロマンスとかですね。

冲方  MAXですよね。あれはもう振り切ったなと思って。あれやると結果的に女性客が増えたっていう。それが最初から狙いどころ(のエピソード)でしたと。

黄瀬 デート映画にしたいと(笑)。

冲方 『攻殻機動隊』をデートムービーにしようっていう発想自体がやっぱり振り切っていますよね。

黄瀬 いや、そうすると結構見栄えいいじゃないですか。男性客だけではないので入場客数も倍になりますし(笑)。

――冲方さんも素子のロマンスには苦労されましたか?

冲方 たいがいの監督さんというのは難しいオーダーだったり、簡単に見えてややこしかったりするんですけど、黄瀬さんのそれはもう明白に「これまでの『攻殻機動隊』ガン無視」っていう(笑)。コンセプトが明確だったので、逆にメチャクチャ大変でしたけどやりがいはありましたね。まぁ、死にそうにはなりましたけど。素子がどうやったら恋愛に走るのかっていうのと、恋愛にはしゃげばはしゃぐことで人間って喋らなくなっていくので、セリフにしづらいんですよ。24時間「好き、好き」言ってられないので。だんだん信頼関係が構築されてくると、全然違う動作でお互いの信頼関係を確かめ合うのが普通なんですけど、(素子に)何をさせよう、何も持ってないし、と。

黄瀬 そう言われると、触れる距離感だけをフックにしてやっていましたね。すぐそこに手があるとか。

冲方 この情感(を表現するっていうのは)、黄瀬さんでないと描けないだろうと思いましたね。このいちゃいちゃ。難しいですよ、アニメーションで恋愛の距離感とか、いちゃいちゃとか、頭突きをしたりとか(笑)。よく描けるなって。最初からこれを狙ってたんだろうなと。

黄瀬 恋愛は照れたら負けですからね(笑)。

――逆に黄瀬総監督が冲方さんの脚本に舌を巻かれたことは?

黄瀬 毎回毎回、どっからこのアイデア持ってきたんだろうとか。とにかくカロリー高いんですよ。本来の尺の中で収まりきらないような情報量なんですよ。セリフにしても。

――『新劇場版』で、それぞれのお気に入りの部分はありますか。

黄瀬 まだ出来上がってないからね~(笑)。

――ではシナリオ・ベースでの見どころは?

冲方 素子の選択と、仲間の選択っていうのがかみ合うところですかね。ずーっと素子が腐っていた男たちに言うことを聞かせていたんですけど、それぞれが(自身の)ゴーストに従うようになると。本作のテーマにも繋がっていますね。

[V-STORAGE online 限定]――仮に新たな『攻殻機動隊』制作の話が来たら、どんな話にされますか?

冲方 ちょっと考えているのが、素子がいない時代。

黄瀬 どこでも素子が出て来ることができる状態にしてやったほうが面白いだろうと。逆に弱い主人公を用意して、そいつがピンチになるとぶわ~っと出てきて、なんか手助けするっていうような『攻殻』なら作れるけどって冗談で話していました。だからトグサの娘を主人公にすりゃいいねと(笑)。こういうものだったら出来るけど、今の状態で素子を出せっていう『攻殻』はもう限界。自分の中では出し切りましたから。こんなきついものはない。

冲方 だから新たなものを作れるのは既成概念にとらわれない世代ですよね。若い世代。

黄瀬 若い人たちが自由にやってくれるなら、全然思いもつかないものになってると思うんで。未来の捉え方も違うでしょうし。もう自分の中ではこれ以上ね…作るならトグサの娘を出す(笑)。もう素子は完全に伝説化していていい世界なら。そのあたりなら出来るのかなって思いますけど。


PROFILE

黄瀬和哉(きせかずちか)
1965年3月6日、大阪生まれ。『機動警察パトレイバー THE MOVIE』(98)を契機にProduction I.Gへ。アニメーターとして『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95)、『イノセンス』(04)などに参加。『攻殻機動隊ARISE』シリーズに引き続き『新劇場版』でも総監督・キャラクターデザインを手掛ける。

冲方 丁(うぶかたとう)
1977年2月14日、岐阜生まれ。作家。96年デビュー。小説「マルドゥック・スクランブル」で第24回日本SF大賞、「天地明察」で第7回本屋大賞などを受賞。小説のほかコミックやアニメ、ゲームなどでも幅広く活躍。『攻殻機動隊ARISE』シリーズに引き続き『新劇場版』でも脚本を担当。

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