インタビュー ココだけ | アイドリッシュセブン Second BEAT!
2020.3.19 UP
アイドルになりたいと思ったことはありますか?
V-STORAGEをご覧の男性諸君。
突然で大変恐縮なのだが、恥ずかしがらないで答えてほしい。
──貴方は男性アイドルになりたいと思ったことはないだろうか?
「そんなコト思うなんておこがましい」「人前に立つなんて嫌だ」「アイドルなんてイケメンしかできないんでしょ?」「女の子にキャーキャー言われてるだけっしょ?」
諸々、反対意見はあるだろうがそれらをすべて吐き出し終えたあとで、それでも改めて自らの胸に問うて欲しい。大丈夫、大丈夫。誰にも言わないから大丈夫。
──本当に僕たちはアイドルになりたいと思ったことはないだろうか?
幼い頃にテレビで男性アイドルを見て、女性が沸いているのを見て、「ケッ」と思ったことだろう。でも、誰にも見えないように部屋の端っこに急いで蹴飛ばした気持ちをこっそり拾い上げてほしい。なんて書いてあっただろうか?
……皆さんが言わないなら、恥ずかしながら、僕から言おう。
正直、僕は憧れた。アイドルになりたかった。
僕がもっと格好良くて、もっと運動神経が良くて、もっと才能にあふれていて、もっと他人に愛される覚悟があったならば、なりたかった。そりゃね。ステージでキラキラしてみたかったよ。
もちろん、そんな気持ちは大人になっていくにつれて薄れていくわけだ。
それは『自分がこの世界の主人公ではない』と知っていくのとちょうど同じスピードで。
『自分がアイドルではない』と諦めながら少しずつ大人になっていくのだろう。
そう、僕らはアイドルって存在を『完全な人間』の職業だと思っている。
だってそうだろう。欠陥だらけの僕らがアイドルを目指したって想像を絶する苦悩が待っているだけだ。なにせ自分の劣等感と向き合わなければならない。触れられたくないコンプレックスを刺激されるだろう。……想像するだけで耐えられない。
アイドルがこの世で最も光り輝く存在だって知っているから、その光量によって僕たちの後ろ暗い闇の部分が照らされてしまうことを恐れているのだ。
──輝くことは、怖いことだ。
そんな状況でも、アイドルに立ち向かう男たちを描いた作品がある。
その名を『アイドリッシュセブン』という。
不完全な人間がアイドルという光にもがきながらも立ち向かう話だ。
仮に、僕らにすべてを投げ打つ勇気があれば、どこかで起こり得たかもしれないお話だ。
あなたは何故『アイナナ』と出会っていないのか?
2019年末、突如バンダイナムコアーツさんから打ち合わせの連絡がきた。
普段僕はゲームやアニメのプロデューサーや脚本家などをしているため、バンダイナムコさん系列には大変お世話になっている。2019年にはSDガンダム三国創傑伝というアニメ作品の脚本をさせていただいているためかなり縁深い。
「ガンダム関連かな~」と思いながら、打ち合わせに伺ってみると予想外のお仕事依頼だった。
バンダイナムコアーツさんから、与えられたお題は『ガンダムやラブライブ!を好きなお客さんにも“アイドリッシュセブン”の良さを知ってもらえるような文章を書いてほしい』ということだった。
僕は2019年に人の勧めで遅ればせながらアイドリッシュセブン(以下、アイナナ)をプレイし、そのあまりのシナリオの完成度、プロジェクトとしての強度に所構わず褒めまくっていた。自分が持っているWebコラムでも大層褒めちぎった。
それがついにTVアニメ「アイドリッシュセブン」側からお仕事をもらうことになるとは……嬉しいやら恥ずかしいやらだ。人生何が起こるかわからない。
さて、僕も男性を32年ほどやらせてもらっているため、未体験の男性がアイナナになかなか興味を持てない理由は正直よくわかる。
原作のゲームは既に4年目に突入しているコンテンツだし新規が今更入れないとかもあるだろう。ただ、それは本質的な問題ではないように思う。
誤解を恐れず言うと、未体験の男性はアイナナのことを『キラキラしたイケメン完璧王子様が歌ったり踊ったりして活躍しているコンテンツ』だと思っているというのが一番大きな理由だろう。ビジュアルの段階で「自分が作品のターゲットでない」と察知し、興味を持つ機会もないというのが正直なところではないだろうか。
男性の多くが少女漫画より少年漫画を好むように、女性ターゲットコンテンツが『Not for me』だと思ってしまうのは仕方のないことである。
僕がたまたま幼少期から女性向けも嗜む雑食性の人間だったおかげで、アイナナに出会えたのはあくまで幸運でしかない。
その幸福を噛み締めた上で、そうでない男性にも伝わるようにアイナナの魅力を解説するというミッションに挑みたい。
『いただいたお仕事』というのもあるが、それ以上にメインターゲット外だからという理由でこの素晴らしい作品に触れていない人がいることが悲しいし。
『アイナナ』は『職業モノ』である。
確かに『アイナナ』は女性向けアイドルモノであることは間違いない。
そこを取り繕うことに意味はないと思う。イケメンがたくさん出てくるし、視聴者は彼らのマネージャーである小鳥遊紡ちゃん(超可愛い)の視点で彼らをマネジメントする形でコミュニケーションをとっていく。これは典型的な女性向け作品の構図だろう。
しかし、その実態を紐解くとその本質は“アイドル”をテーマにした『職業モノ』であるということを強く訴えておきたい。
自分の中での定義を解説すると、“男性アイドルの素晴らしさを描くためにアイドルを描いている”のは『男性アイドルモノ』だ。こちらはこちらで素晴らしいし大好きだ。たくさんのハッピーを摂取できる。
対して、“人間の素晴らしさを描くために特定の職業をテーマにしている”のが『職業モノ』だ。アイナナはどちらかというとこちらに当たると考えている。
つまり、アイドルとなるべく生まれた男の子たちがその魅力を存分に発揮してアイドル道を駆け上がる話ではない。
『アイドルという職業』に挑む人間があらゆる苦難に耐えながら向き合っていく話だ。
それは『職業モノ』ならばサラリーマンでも、政治家でも、寿司屋をテーマにしても一緒だが、登場人物は自分の持ち物とその職業の禍福に一喜一憂しながら進んでいくことになる。
僕たちが『職業モノ』を魅力的に感じる理由はひとつ。僕たちは一人分の人生しか生きることができないからだ。
僕もあなたも人生でコレ!と選んだ職業を全力で生きることができない。転職も副業も盛んな時代だが、専門性の高い職業は人生の序盤でハンドルを切らないと体験することができないわけだ。
つまり『職業モノ』は別の人生の追体験という側面が強い。そこが自分の人生を生きるしかない僕たちを強く惹きつけるのだ。
さて、優れた職業モノを体験したときに、僕たちが感じるのは『共感』だ。
不思議なもので、僕たちは政治家でも寿司屋でもアイドルでもないが、職業をテーマにされると登場人物の感情に『共感』してしまう。
職業は違えど、登場人物と僕たちは同じ『人間』だからだ。
その作品の人間の描き方の解像度が高ければ高いほど、想像力を掻き立て『自分がこの職業・立場だったらどう思うだろう』というIFへの没入をさせてくれる。
その点、アイナナは『アイドル職業モノ』として、人間の描き方が抜群に上手い。
キラキラした見た目からは意外なほどに、彼らは不完全だ。集団生活ができなかったり、自己主張が薄かったり、勤勉さに欠けていたりと、“王子様”には程遠い。
「男の子たちがかっこよければいいんでしょ?」なんて思い込みを捨てないままに、アイナナを体験するとあまりの生々しさに驚くはずだ。
そして、そんな登場人物の『王子様じゃなさ』は彼らのバックボーンに根付いており、思考の一貫性がある。「あ、これフィクションだな」と冷める瞬間を筆致によって極力減らしてくれているのだ。
(ちなみにこれは僕が作品の好き嫌いを決めるときに、一番大事なことだったりする。「嘘じゃん……」「今、画面のこっち側見たじゃん……」と一度感じたら急激に冷める。)
僕たちはアイドルとして生まれた完璧な王子様にはどうあがいても共感できない。
でも不完全に生まれた人間がアイドルという大きな光に挑むならば、その苦しみには痛いほど共感できる。
『アイナナ』男子は『二階堂大和』を見るべし。
さて、アイナナの作品としての魅力をお伝えしたところで、もう少しミクロに具体例を出して説明していこう。
男性諸君におすすめする注目キャラクターは、IDOLiSH7のリーダーである二階堂大和くんだ。見方がわからない場合は、ひとまず彼に注目してみるといい。
大和くん……いや大和さんと呼ぼう。僕の10個下だが、そう呼ぶほうがしっくりくる。
実際男性アイナナファンの中での大和さんの支持率は相当高いと聞いている。
それは大和さんが、“理想の温度”を持った上司だからだ。
大和さんはIDOLiSH7の中で最年長22歳。ポイントは僕たちの視点を担ってくれる小鳥遊紡ちゃん(超可愛い)よりも歳上というところである。
具体的なところは言わないが、どうもアイドルを始める前に、別の人生があったらしき描写も存在する。IDOLiSH7に待ち受ける数奇な運命にもとにかく動じない。
『もうすでに経験済みだ』と言わんばかりに。
つまりマネージャーである僕たちに管理される側でありながら、人生経験として既に2周目。こちらより遥かに上というわけだ。
マネージャーを含め、何事も未経験で手探りで進むIDOLiSH7においてとっても頼りになる存在であることは想像できるだろう。
しかし、二階堂大和はそういったバックボーンを持ちながら、絶対に主張しない。スポットライトが当たるのを好まず、先回りして道を示すためにその力を使うのではなく、仲間たちが迷い悩んでいるときにそっと助けの手をさしのべる。そういう人間なのだ。
一例、そんな大和さんのムーブを紹介しよう。
あるときIDOLiSH7が起こした問題によりマネージャーである小鳥遊紡(超かわいい)が、相手先の会社に謝罪にいかなければならない事態となる。所属アイドルの失敗は、会社の責任だ。この時点で社会人経験のある皆様なら、それはもう胃がキュッとなるシチュエーションだろう。
IDOLiSH7のモチベーションを下げないように誰にも何も告げずに、こっそり謝罪にいこうとすると、会社を出たところでなんとスーツ姿の大和さんが待っている。
同じく誰にも告げずに先回りし、「謝りに行くんだろ? 俺も行くよ」と待っている。
僕はこのシーンを見たときに思わず「優勝……」と呟いた。これなんだ。この距離感なんだ。恩着せがましくもなく、手柄も主張せず、自分の経験を活かし、他人の不安にそっと寄り添ってくれる。これこそ、理想の上司の温度感だ。
だから皆大和さんが大好きだ。
しかし、同時に大和さんの弱点もまた『もう既に経験済』であることだ。
おそらく既に一度目の人生で何かを知ってしまっている。知っているからこそ、そこに熱を持つことができない。未知の世界に飛び込む他のメンバーとはモチベーションの持ち方が異なる。
だからこそ一歩引いて、「お前らがやるならサポートするよ」というようなスタンスでメンバーの最後尾で微笑んでいる。
……カッコイイ、カッコイイけれど、あえて苦言を呈するとそれは決して美徳ではない。きっと過去の何かが、大和さんに『呪い』をかけたのだろう。
皆様も経験がないだろうか? 一度何かに失敗したとき、もう一度そこにすべてをベットすることはとても怖い。『どうせ無理だろう』と、賢さが邪魔をするときがあるのだ。僕たちと大和さん、職業は違えど、これは大人の持つ普遍的な苦しみで『呪い』だ。
そしてきっとそれを解呪してくれるのもまた、無知で夢見がちなIDOLiSH7のメンバーが持つ熱なのだろう。
物語が進み、大和さんの解呪がなされ、彼の魂が本当の意味で着火するとき……そのとき僕たちも勇気づけられるはずだ。
男性にこそ、男性だから、『アイナナ』を楽しめる。
前述のとおりアイナナが現実的な人間の描き方のベースが優れているからこそ、僕たちにとって非現実であるアイドルという職業に挑む、彼らの苦しみが現実味を帯びて伝わってくる。
苦しみが現実味を帯びて伝わってくるからこそ、その紆余曲折に負けず重たい一歩を踏み出す若者たちの勇気が心を躍らせてくれるのだ。
その艱難辛苦のドラマを乗り越えて初めて見えてくるのは、アイドルという職業に従事する人間にしかない喜びだ。
そう、僕らが知らない職業の追体験……これもまた優れた職業モノの醍醐味だ。アイドルの酸いも甘いも、圧倒的な説得力と共にそこにある。
更には男性諸君は幸運にも彼らと“同性”であるという共通点がある。
男性だからこそ、アイドリッシュセブンの『男性アイドル職業モノ』としての一面をより強く共感して楽しめることができるわけだ。
改めて、聞いてみたい。
──貴方はアイドルになりたいと思ったことはないだろうか?
僕たちは不完全を理由にアイドルに挑めなかった。勿論アイドルじゃなくてもいい。宇宙飛行士でも、サッカー選手でも、政治家でもなんでも、不完全を理由に僕たちは何かを諦めてきた。
しかし、アイナナの登場人物は不完全でも、アイドルという大きな壁に挑んでいるのだ。
僕たちが無理だと思った壁に全力ダッシュで挑んでいるアイドルたち。
僕たちにできなかったことをやってのける彼らに、同性として勇気づけられるのだ。今僕たちが挑んでいる壁が「ひょっとしたらたいしたことないんじゃない?」なんて思えたりするのだ。
それは僕たちにしかできない視点であり、体験だろう。
彼らは僕たちの、友達だ。
女性マネージャーが羨ましくなってしまうほどに、男性マネージャーとして彼らを愛そうじゃないか。
<放送情報>
2020年4月5日よりTOKYO MX、BS11ほか、初回一挙2話にて放送開始!
<配信情報>
4月5日(日)よりAbemaTV、ニコニコ動画にて毎週日曜22:30~地上波同時配信!
©BNOI/アイナナ製作委員会
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