『月とライカと吸血姫(ノスフェラトゥ)』レフ・レプス役 内山昂輝インタビュー
『月とライカと吸血姫』Blu-ray BOX上巻の発売を記念して、メインキャストへの連続インタビュー企画がスタート。トップバッターを飾るのは、レフ・レプス役の内山昂輝さん。真っ直ぐな夢と優しさを持つキャラクターをどのようなイメージを持って演じたのか? 作品の全体の感想と合わせて語ってもらった。
──初めてこの作品に触れた時は、どのような印象を持たれましたか?
内山硬派な作品だと思いました。ライトノベルの作品だと聞いて、例えば学園生活を描いたラブコメみたいな、ステレオタイプのイメージを思い浮かべましたが、実際に読んでみると、そういうジャンルとは異なる、かなりハードな設定の作品で。そして、架空の国を描き、架空の吸血鬼という種族も登場するわけですが、そのベースには現実の歴史を連想させるような、重厚な宇宙開発のストーリーがある。もちろん、宇宙開発に関しても細部は実際の歴史とは違いますが、それを掘っていくと史実に通じる要素も出てきます。そういう意味で、掘れば掘るほど、いろんなポイントや語りどころが見つかる作品だという印象でした。
──きちんと事実を調べた上で、ある程度事実に沿いつつ、フィクションとして再構成しながら、しっかりと描写をしていくような書き口は、確かに一般的なライトノベルとは印象が違いますね。
内山もちろん、宇宙開発の歴史にあまり興味がない人でも楽しめる作品になっているので、間口が広い感じがしますね。一方で、歴史や宇宙について学んできたり、好きでいろいろ調べたりしてきた人には、より深く刺さるのかなと思います。「こんな風に歴史を読み替えたのか」とか「この設定は現実にあった、これを解釈し直しているのかも」などと楽しめるのではないかと。僕は宇宙についてもそんなに詳しくないですが、原作者の牧野さんや横山監督をはじめとするスタッフの方々からお話を聞いて、幅広い楽しみ方ができるなと感じましたね。
──原作もしっかり読み込まれているんですか?
内山台本と同時に読み進めていくような形でした。小説を原作にしてアニメ化された作品には、これまでもいくつか出演したことがあって、作品によって小説をどう映像化するかという点で、アプローチが違ってくることがあるんです。「小説ではこう書かれていたけど、アニメの際は設定をいじっている」とか、それぞれのメディアの違いを活かすアレンジがあると思うので、全てを再現しようと思って原作を徹底的に吸収してしまうと、それが逆に邪魔になることもあります。だから、どのように小説から映像に変わっているのかを、比較しながら同時進行で読んでいくような形でしたね。
──レフというキャラクターを演じるにあたって、どのような部分を大事にしようと考えられましたか?
内山レフはまずピュアだし、宇宙に行きたい、空を飛びたいという憧れの気持ちを子供の頃から持っているんですよね。その思いをずっと持ち続ける熱いハート、そして彼なりの正義感も持っていて、悪いことにはきちんと「NO」と言える。それがたとえ夢の実現の障害になっても、自分のキャリアに傷をつけることでも、目の前にある悪事に対して「これはいけない」と言うことを厭わない。こういうところが、彼のポイントになるだろうと思いました。とにかくすごく真っ直ぐで、あまり邪なところが無くて。ただ、そういう個性をアニメの中でリアルなキャラクターとして演じるのは難しかったですね。
──確かに、清廉潔白過ぎると嘘くさくなってしまうかもしれないですね。コンプレックスや卑屈な部分などがあった方が人間味が出せると思いますが、清廉潔白さをどうリアルに見せるのかは大変そうですね。
内山心の中の黒い部分や後ろめたい感情というのは、見ている人の心のどこかにあるものなので、多かれ少なかれ、そうした要素があるキャラクターの方が伝わりやすいかもしれません。逆に、そういう部分が見あたらない人物となると、「こんな良い奴いないだろう」となってしまいがち。でもそれを、「いるかもしれない」と思わせる表現にはどうセリフを表現したらいいのか、というのが難所でした。これに関しては、要所要所のセリフのディテールを調整して、リアルさを出そうとしたという感じです。あとは、熱さ一辺倒ではなく、冷静に考えるシーンも結構あったので、そこでメリハリをつけて単調にならない複雑なキャラクターになればいいなとも思いました。
──劇中で印象的なセリフやシーン、シチュエーションなどはありますか?
内山完成した作品を見て、映像として面白いなと思ったのは、パラシュート降下訓練シーンですね。ヘリコプターから飛び降りて、しばらく落ちてからパラシュートを開くという一連の流れがあるわけですが、落ちる時の浮遊感や身体に風圧を受けている感じ、うまくバランスをとれないと身体がクルクル回ってしまう描写、自由に身動きが取れない中でのコミュニケーションなど、さまざまな要素が複雑に絡み合っているのが見事に表現されていて、印象に残っていますね。
──他のアニメーション作品だと簡単に流されてしまうような訓練シーンも描写がすごく丁寧ですよね。
内山訓練シーンは細かい描写の印象が強いですね。宇宙に行くことを目指すアニメなので、宇宙の場面が作品として大きなウエイトを占めるイメージがあったんですが、実際にはなかなか行かないという(笑)。前半はとにかく訓練シーンが多かったです。しかも、室内の装置を使った訓練や、外でのランニングなど、なかなかパラシュートまで辿りつかない。史上初の宇宙飛行士とか、その候補生と聞くとかっこいいイメージを持ちますが、ひとつひとつ地味な積み重ねを繰り返さないと目的を達成できないということも伝わってきました。そういう意味では、全体的にリアルさを重んじている作品だったと思います。
──―劇中では大きな見所となるロケットの発射や宇宙への到達のシーンに関してはどのような感想を持たれましたか?
内山物語のクライマックスの一つとして大いに盛り上がったと思うんですが、個人的には、狭い船内から窓ガラス越しに地球が見えているという描写が心に残っています。この時代に宇宙に行くというのはこういうことなんだなと思って。でも、その「最初に宇宙に行く」ということがとても大きなハードルだったんですよね。例えば、このアニメよりもっと先の時代を描いた映画の『ゼロ・グラビティ』なんかは、船外活動をしているところで事故に巻き込まれてしまって、無事地球に帰れるかというストーリーですが、それに比べると、窓の外に宇宙や地球を見て戻ってくるだけ、ともいえる。でも、それが当時のリアルなわけだから、そのギャップに思いを馳せてしまいますよね。そして、本編のラストでは「今度は月に向かう」ということが語られるわけですが、そういう順序があって現代の宇宙開発に繋がっている。やっぱり、今までの宇宙開発の歴史の積み重ねについて改めて考えさせられるところが、この作品の面白さなんだろうと思いましたね。
──キャラクター同士のドラマも本作も大きな見所ですが、そちらで印象深いやり取りはありますか?
内山物語の中心になるのはレフとイリナの交流で、序盤は特にそこに重きが置かれています。吸血鬼と呼ばれる種族がいて、彼らについて知らないことがたくさんあって、無知からくる恐れも描かれる。一方、イリナ側も人間が大嫌いで、他人を寄せ付けない。そういう風にお互いに誤解しあっていて、すごく心の距離があったふたりが、どう歩み寄っていくのかというのが、この作品における重要なドラマだと思いました。
──タイトルにある「吸血姫」と「宇宙開発」にはどのような繋がりがあるのかと思っていたのですが、それが「人種差別」とも言えるテーマに繋がっていきます。そうした設定に関してはどのような感想を持ちましたか?
内山明らかに「差別」を描いているドラマだと思います。宇宙飛行士候補生や技術者たちの中には、イリナを毛嫌いする人、吸血鬼に対してあからさまに差別的な態度を取る人もいて、彼らにどう立ち向かうのかも重要な見どころでした。
──イリナを演じた林原めぐみさんの演技も素晴らしかったですが、一緒に演じてみた感想はいかがでしたか?
内山林原さんとこんなにしっかりと、毎週お会いしてお仕事をするのは初めてだったんのですが、台本を読んだ段階では自分が想像しなかったような表現が横から聞こえてきて、毎回「そうやって演じるんだ」と驚いたり刺激を受けたりしていました。
──イリナとレフのやり取りで印象的なシーンはありますか?
内山訓練が続く日々の中で、イリナと一緒に食事をしたり、彼女が知らない飲み物を教えたりさまざまな形で交流を図ろうとするところが印象的でしたね。炭酸水の存在を教えてから始まるコミュニケーションや行きつけのジャズバーに行くシーンなど、厳しい訓練の合間に束の間の休息を楽しむ様子は結構存在感があったなと思っていて。イリナとアーニャの交流もそうですが、話の本筋である宇宙に関するシーン以外のところが、実は意外に自分にとっては印象的でした。
──アーニャ役の木野日菜さんとのやり取りはいかがでしたか?
内山木野さんはとてもいいお仕事をされていたと思います。結構厳しい展開も含むこの作品の中では、アーニャというキャラクターが本当に心の安らぐムードをつくってくれていて。アーニャが登場すると和みますし、木野さんの声はキャラクターにぴったりでとても良かったです。
──前半の展開は、「なかなか宇宙へ行かないな」と思いながら見ているのに、だんだんお話が宇宙に向かい始めると、今度は日常的なシーンが大切に思えてくるという絶妙な構成になっていますね。
内山そうですね。物語の中心は、緊迫感のあるドラマですし、国家や組織などシステムの厳しさも様々な場面で目に付きますからね。そんな厳しい世界の中で、いろんな人との交流、人の優しさや思いやりが描かれていて。システムの厳しさを描きつつも、その内部の限定された空間では人と人との温かいやりとりもあって、ホッとできる。そのギャップがいいんですよね。
──社会主義国家は、そこに住む人々も冷たいんじゃないかという印象を勝手に持っている部分があるわけですが、それは国家の体制の話であって個々の人間はそんなことはないという描き方がしっかりとされてもいますね。
内山一方で、レフの友達で訓練の技術者として現れたフランツが、とある行動をきっかけにいきなり「元からそんな人物はいなかった」と消えてしまう展開には驚きました。国家や組織の怖さを描いているなと思いました。振り返ってみると、いろんな要素がありましたね。宇宙に行くまでの訓練や、人間ドラマ、日常シーンもあって、そのベースには時代と国家がある。人々は立場によって考え方が違ってくるし、いくつかの難しい局面で彼らがどう自分の意思を貫けるか、あるいは貫けないか。そういうあたりも見どころだったと思います。
──演じている時と、完成映像では印象は違いましたか?
内山この作品に限った話ではないんですが、アフレコ時の印象と、実際に完成した映像を観た感触って全然違うんですよね。アフレコをしている時は、「このシーンをどう表現するか?」とか、「このセリフはどうやって言おうか」とか、細かいところに必死になるので。映像もアフレコ時は未完成ですから、どんな絵になるのか100%は分からないんです。それが完成して、音楽や音が加わると、作品の印象は大きく変わって、音楽によって突然エモーショナルに見えるシーンも出てきます。だから、収録期間中は「どんな作品になるんだろう」と想像し続ける感じなんです。
──改めて、完成した映像を通して見直した感想はいかがでしたか?
内山序盤、中盤、終盤で作品のカラーが変化していったように感じました。最初にレフとイリナの出会いがあり、厳しい訓練が始まり、イリナが宇宙に行き、その後にレフが宇宙に行けるかどうかという選抜があり、見事レフが宇宙に行って戻ってきて、最後はイリナを生存させられるかどうかというハードな展開が待っている。中心となるキャラクターは変わらないんですが、それぞれのパートごとにストーリーの雰囲気が変わっていきましたね。レフやイリナを巡る状況は刻一刻と変わっていくし、彼らの気持ちは考慮されないままに知らない間に危機的状況へと追い込まれていて。あんなに頑張って偉業を達成したイリナが殺されてしまうかもしれない、という不条理が描かれる。次々と変わりゆく周囲の状況が物語をさらに盛り上げていたと思います。
──では最後に、作品を楽しんでいただいたファンにひと言お願いいたします。
内山この作品は、テレビアニメとして毎週放送されて、それを1話ずつ追いかけていく面白さがあったと思いますが、まとめて一気観すると、何部作かの映画シリーズのように感じられて、違った印象も出てくると思います。Blu-ray BOXで、ぜひそういう楽しみ方をしてもらいたいです。また、作品は1960年代を舞台に描いていますが、現代の世界にも通じるテーマがいくつもあったと思います。この作品を通して、自分の生活や身の回りのこと、そして日本だけじゃなく世界中のことに思いを巡らせていただけたら、エンターテインメント作品によって、世界がより良くなることにちょっとだけ繋がるのではないかと思いました。観た人の心にずっと残る作品になると嬉しいです。
PROFILE
内山昂輝(うちやま こうき)
8月16日生まれ。埼玉県出身。主な出演作に『機動戦士ガンダムUC』バナージ・リンクス役、『呪術廻戦』狗巻棘役、『メガトン級ムサシ』雨宮零士役、『takt op.Destiny』朝雛タクト役、『ヒロインたるもの!〜嫌われヒロインと内緒のお仕事〜』染谷勇次郎役などがある。
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▼月とライカと吸血姫公式サイト
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@LAIKA_anime
© 牧野圭祐・小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会