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「名作ヒストリー」トップをねらえ![特集サイト「プレイバックエモーション」]

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感動の高みと超絶のスケール感覚――
庵野秀明監督の本格的デビュー作は必見!

庵野秀明は2016年の『シン・ゴジラ』以後、ヒット作を連発している注目のクリエイターだ。その原点をたどると、初の本格的監督作品『トップをねらえ!』にたどりつく。同作は『機動警察パトレイバー』とほぼ同時期の1988年から1989年にかけて、各30分、全6話でリリースされたOVAである。アニメーション制作はGAINAX、製作はバンダイ(※1)、ビクター音楽産業(※2)。キャラクター原案は美樹本晴彦、メカニックデザインは宮武一貴と『超時空要塞マクロス』(82)のメンバーを中核に置き、ハリウッド映画『トップガン』と山本鈴美香の漫画『エースをねらえ!』を合成した題名から分かるとおり、「商品として売ること」が大前提の企画であった。

GAINAXは1987年にバンダイ初の映画『王立宇宙軍 オネアミスの翼』を完成させる目的で設立された会社だった。公開後、赤字解消目的でその後いくつかOVAを制作することになった1本として、本作は開発された。『王立』で戦闘と宇宙ロケット打ち上げを迫真の作画で実現した庵野秀明は、GAINAXで打ち合わせの待ち時間に、岡田斗司夫と山賀博之の書いた脚本の第2話を偶然通読する。いたく感動したものの、企画が中座されていることを知り、一念発起して監督に名乗り出た。つまりこの作品が無ければ、1990年のテレビアニメ『ふしぎの海のナディア』、1995年のテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』が誕生せず、1990年代以後のアニメの歴史は大きく変わっていたのだ。

背景には、80年代にバブル経済と並走して拡大した「オタク文化」があった。1977年に劇場版『宇宙戦艦ヤマト』がヒットしてアニメブームが到来し、専門知識を持つファンが激増する。さらにファンが社会に出てもアニメを受容し続けるようになったのが『超時空要塞マクロス』が放送された1982年ごろだった。GAINAXの母体となったDAICON FILMもこの流れに乗り、1981年に日本SF大会のオープニングアニメを自主制作して有名になった。庵野秀明がメカとエフェクト、赤井孝美が美少女キャラクターを作画した同作は、この時期に男子ファンの関心が「メカと美少女」に集中していく流れを考えると非常に象徴的である。そして1983年末に誕生したOVA(オリジナルビデオアニメーション)は、作品の価値がダイレクトに金銭と交換される画期的なメディアとなった。そんな時期、『トップをねらえ!』は商売を前提として開発された。

超高速航行で宇宙進出を遂げた人類は、宇宙怪獣の襲撃によって絶滅寸前の危機が、まず大状況として設定されている。その対抗手段が、露出の多い体操服のようなスーツを着た美少女パイロットの操縦する巨大ロボットである。そしてその候補生が訓練学校で成長ドラマを演じれば、完璧ではないか。

実際、第1話はその路線でスタートする。当初はロボットが器械体操をしたり、パイロット候補生が鉄ゲタを履いて訓練するなど、笑いを取る描写が多く、パロディ的要素も散りばめられていた。主人公・タカヤ・ノリコがコーチに才能を見いだされ、「お姉さま」ことアマノ・カズミとともに戦艦ヱクセリヲンに乗艦すべく宇宙に出る展開も『エースをねらえ!』の枠組みを踏襲している。

様子が変わり始めるのが第2話である。ノリコの亡き父とのドラマはSF的な仕掛け、相対性理論に基づく「ウラシマ効果」によって「時空を超えた絆」として、力強く描かれる。第3話のノリコは、知り合った男子生徒スミス・トーレンと作戦行動中に死別。しかしその描写は、シビアな現実を突きつけるシリアスな演出で描かれる。続く第4話は彼の死に戦意を喪失したノリコが、艦隊全滅の危機を前に決意を固め、建造されたての超巨大ロボット、ガンバスターに乗りこんで逆転劇をドラマチックに達成させる。馴染みある導入から始まり、笑いと絶望を交えて起伏を持たせながら、気がつくと感動の高みにいる。これは庵野秀明監督の近作でも採用されているセオリーである。

第5話では、ここまでをふまえ、地球に残った人びとと同じ時間を共有することができないノリコの悲哀、カズミの苦しみが「ウラシマ効果」を前提として描かれる。そのダウナーな状況から、完成したガンバスターが放つ無敵の攻撃を見せるカタルシスは、驚きをもって受け入れられた。

最終回の第6話は白黒にワイド画面とルックを根底から変え、銀河系サイズの総力戦が展開する。さらに決戦の頂点としてブラックホール爆弾が作動すると、地球とノリコたちの時間差が1万2千年と、超巨視的な断絶がもたらされる。この絶望が希望に転換し、感動の結末へ至る大転換のカタルシス、そして銀河系規模の比類なきスケール感は、後続の多くの作品へと影響をあたえた。

その「高みへと展開していく感覚」は、「オタク文化から始まった作品が超感動的作品に結実する」という本作が実現した成果と相似形を描くものでもある。『トップをねらえ!』の成り立ちと達成を理解することで、歴史の大事な筋道がキラリと光って見え始める。そうした位置づけにある必見の作品と言える。

text/氷川竜介(アニメ特撮研究家)

※1=バンダイが製作し、現在はバンダイナムコフィルムワークスが映像事業を継承しています。
※2 現:FlyingDog

 

<上映情報>

『トップをねらえ!』2023年5月26日(金)より
『トップをねらえ2!』2023年6月9日(金)より順次劇場上映!
劇場情報はこちら

 

<発売情報>

トップをねらえ! Blu-ray Box Standard Edition
好評発売中
税込価格:¥10,780
品番:BCXA-1836


トップをねらえ2! Blu-ray Box Standard Edition
好評発売中
税込価格:¥10,780
品番:BCXA-1837

 

▼『トップをねらえ!』シリーズInfomation Site
https://v-storage.jp/gunbuster/

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