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「イマレコ!」機動警察パトレイバー the Movie 1+2[特集サイト「プレイバックエモーション」]

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時代を変えた2本の映画
――その再確認は現在の情況を照らし出す

『機動警察パトレイバー the Movie 1+2 SET Blu-ray』は1989年と1993年に公開された2本の劇場アニメをまとめたパッケージである(以下、『P1』、『P2』と略)。平成初期、日本のアニメはどのように変わっていったのか、時代性とどう関わっていたのか、近代史的な観点でも楽しめる映画である。
「もし警察に巨大ロボットが配備されたら」と「ロボットアニメ」の設定を使い、難事件に立ち向かう多彩なキャラクターたちを描いてきた「パトレイバーシリーズ」。OVAやテレビでは物語のバリエーションや登場人物の魅力が連続ものの中で展開された。
この2本の劇場版では若者よりも後藤小隊長という中年の策士を「観察者」として配置し、「現実に存在する問題」をあぶり出して「始まりと終わりのある物語世界」を提示することで、風格あふれる「映画体験」を可能としている。そして押井守監督を主軸として提示された問題意識は、世界が不安定な今だからこそ再考に値するものである。

公開当時の日本アニメは劇場アニメとOVAに濃厚さを求めるクリエイターが結集し、「緻密さと正確さ」の点で従来の基準が次々と更新されていた。パッケージ販売が定着したため、宣伝もその濃密さを「クオリティ」と言語化し、購買に結びつけていった。同じ時期、ハードの進化にともない、表現、内容ともに高度化していったゲーム文化のムーブメントとも歩調が合い、背後には高度化していくIT産業界の歩みがあった。
1991年には、携帯電話がデジタル化されている。このインフラの激変が象徴するように、電子デバイスの高集積化によってネットワーク通信を媒介とする個々人の意識が大きく進展した時期に、この2作が作られたことも注目に値する。実際、同時代的にはアニメ雑誌など紙媒体よりも、初期のパソコン通信に参加したメンバーの方が作品の主張をリアルタイムで正確にとらえ、高く評価していたのだった。

30年分をまたぐこの種の「時代の検証」をしてみると、本パッケージは「なぜ2020年代の今がこうなってしまったのか」と再考するヒントをいくつもあたえてくれる。だから鑑賞に際しては、「当たり前」と見過ごしがちな部分こそ観察してほしい。
代表例は、1989年公開の『P1』で使われた犯罪の道具、人型機械レイバーの基本ソフトOSに仕込まれたコンピューターウイルスだ。当時のパソコンはMS DOSマシンを専門家とマニアが使っているに過ぎなかった。OSがオペレーティング・システムの略語だと周知され、ネット通信が社会全体を根底から変える影響力を有していることが発覚するのは、1995年のWindows 95以後のことなのだ。

さらに1993年公開の『P2』は、「武力行使による現状変更」が発生し、戦争が議論されている現在だからこそ、再見に値する作品である。注目すべきは先述のような「IT時代の戦争」が的確に描かれていることだ。1990年、湾岸戦争の報道映像がテレビで流れたことをふまえ、兵器やミサイルなど人間でない者の「主観映像」や「モニターグラフィックス」が多用されている。
さらに防空システムへのハッキングによる敵機のフェイク情報と同士討ちへの誘導も、ネット情報に汚染されて敵意をむき出しにする大衆が激増した現在のほうが、恐ろしさが身近に感じられるはずだ。警察、自衛隊と日本に実在する2大武装組織による衝突も、世界中で続く「内戦」とすり合わせることで、迫真度が増すだろう。都心の要所でアンテナや橋梁が戦闘ヘリに空爆され、地下施設も爆破によって破断されて通信網がブラックアウトさせられる。この『P2』最大の見せ場も、日常生活が通信インフラに強く依存するようになった現在、切実に感じられるに違いない。

もちろん古びた部分も少なくはないが、このように「何を訴えたかったのか」という中核部は、むしろ鮮明さを増した。それは人の営みの「本質」が正確に描かれた上で、サイバー時代以後に生じる新たなコンフリクトが、的確にとらえられていたからだ。
この2本に共通する注目ポイントを、さらに挙げておく。それは「現実に近い東京の姿」である。時代設定は西暦2000年前後とされ、携帯電話やスマートフォンの実現、あるいは湾岸地域の急開発など、ある部分では未来予想が追いついていないとは言え、「東京の景観」が引き写されているがゆえに、現実との地続き感は健在である。

それはこの2本の劇場作品が、日本アニメの制作手法に大きな影響をあたえることになったことと無関係ではない。水路など視点を変えて東京の実風景をロケハンし、画面に反映する手法は、デジタルカメラが一般化した21世紀以後、いわゆる「聖地巡礼」のブームを呼んで大きく発展した。動くセル画部分と動かない背景部分を「最終画面の設計図」としてまとめる「レイアウト」に時間を割き、演出の意図を反映すべく入念にチェックする方法論は、現在どのアニメ制作の現場でも重視されている。
であれば、その元祖である『P1』と『P2』の再確認には大きな意義がある。たとえば「手描きの絵」だからこそ、「東京のエッセンス」を迫真の力で表現することが可能となっていることは、元の写真を単に引き写しただけの背景が増えている現在、要注目だ。「人が描いた力」が映画に緊張感をあたえ、鑑賞者に「これはどういうことなのか」と思索をうながす触媒となる。「人の意識の媒介」は映画のテーマとも響きあうものだ。
「なぜそういうことをしたのか、どんな効果があったのか」を再確認することで、単なる技法ではなく、思索を触発するものだったと、目的意識が明らかになるだろう。そしてその思索を2023年現在に起きている様々な事件と重ねてみれば、これから起きることへの対応力を向上できるかもしれない。
以上のように、刻々と変わる時代相に対応できうるこの2本の映画こそ、まさに「古典」と呼ぶにふさわしい作品と言えるのである。

文:氷川竜介(アニメ特撮研究家)

 

<発売情報>

機動警察パトレイバー the Movie 1+2 SET
Blu-ray(期間限定生産)

2023年8月10日発売
税込価格:¥8,910
品番:BCXA-1857

 

▼機動警察パトレイバー 公式サイト
https://patlabor.tokyo/

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