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「名作ヒストリー」機動警察パトレイバー[特集サイト「プレイバックエモーション」]

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20世紀末が近づく6年間——
「パトレイバーシリーズ」の提示した先駆的な挑戦

1983年末に『ダロス』から始まった新メディア「OVA(オリジナルビデオアニメーション)」は、日本アニメに大きな変革をもたらした。テレビ放送から離れ、反復視聴可能な作品を個人へ直接売ることで、菓子や玩具販売目的の制約を離れ、中身(コンテンツ)で勝負できるようになったのである。1988年4月に発売されたOVA『機動警察パトレイバー』全6話シリーズ(後に1話追加)は、その変革の第二段階に位置づけられる。
初期OVAに対しては、送り手も受け手も戸惑いがあった。1本数千円から1万円を超える価格設定に対し、何をもって満足とするか、定まっていなかったのである。「テレビ以上・劇場未満」の認識はあるものの、前例がないため予算や収益面でも振れ幅が大きく、メーカーや制作会社にとってはリスキーであることが、次第に判明し始めた。
その結果、「複数本でシリーズ化してコストダウン」というアイデアが出る。その方向性にフィットしたのが、原作者集団ヘッドギアが開発したオリジナル企画『機動警察パトレイバー』であった。「もし警察に巨大ロボットが配備されたら」という「リアルロボット路線」の発想に加え、組織をハミ出すユニークなキャラ集団「特殊車輌二課」(通称「特車二課」)が用意され、人気の要素が仕込まれている。毎回起きる事件へキャラが対処することでストーリーを転がせる構造の点では、限りなくテレビ寄りであった。その全6話の構成は「テレビの1クール(13話)の半分」に由来する。これは現在の「1クール深夜アニメ」の原点なのであった。


▲アーリーデイズ

ヘッドギアは漫画家・ゆうきまさみ、メカデザイナー・出渕裕、キャラクターデザイナー・高田明美、脚本家・伊藤和典で結成されたユニットで、骨子が固まった後に押井守監督が合流する。ゆうきまさみのコミック版を「週刊少年サンデー」に連載することで認知度を高め、商品にCMを挿入するなどの工夫で徹底した低価格路線を打ちだし、スマッシュヒットを実現した。現在では識別のため「アーリーデイズ」と添えられた本シリーズが成功した影響で「4~6話シリーズのOVA」が急増した。
とは言え、OVAはニッチ市場である。普通なら「次はテレビへ」と展開するのだが、シリーズの隔月リリース中に劇場映画化が発表される。それが1989年7月公開の『機動警察パトレイバー劇場版』であった。
ヘッドギアとメインの関係者は、劇場には多彩な観客が訪れることを意識し、ファンムービーではなく「娯楽映画としてのパトレイバー」を極める方向性へと大きく舵を切った。作品をまとめる押井守監督の作家性が、これに大きく貢献する。
東京生まれの押井守は、東京を舞台とする「パトレイバー世界」を使い、バブル経済に浮かれる日本の時流に批評的な疑問を提示した。地上げが続いて古い建物が壊されて情緒が消失し、投機目的の無機質なビルが立ち並ぶ。正体不明のエンジニアが都市の破壊を企むが、自死した犯人に代わり、人型機械レイバーのOSに仕込まれたコンピューターウイルスがテロを実行する。後世を先取りする非常に高度な内容となった。アニメーション制作はOVA同様にスタジオディーンが担当し、実際の現場はアイジー竜の子(現:Production I.G)が手がけて、緻密な映像表現が実現する。


▲劇場版

この長編と並行し、10月からのテレビシリーズが急遽決定した。現在では『機動警察パトレイバー ON TELEVISION』と呼称されている作品で、物語もテレビ用に仕切り直している。これは夢の実現であったが、あまりにも短期間となった。監督は押井守からOVA第7話を手がけた吉永尚之に交代、ロボットアニメの老舗サンライズが現場となり、突貫工事的に放送がスタートする。
当初は2クール(全26話)の予定であったが、人気が出たため全47話、約1年間と延長が決まる。ストーリーをまとめる伊藤和典は苦心の末、コミック版のグリフォン編を参照するなどして題材不足を補強しつつ、日常的な行動を掘り下げることで、より身近な生活感あふれる色彩を濃くして毎週の放送を乗りきった。各キャラクターの人気も、ここで盤石なものとなる。


▲TVシリーズ

ところが、さらなる長期化が続いた。1990年代に入り、レーザーディスクが普及したことを前提に、テレビアニメをパッケージ販売するビジネスが立ち上がっていた。その多くは1巻4話収録、毎月発売の体裁だったが、1990年11月と放送終了直後から始まったパッケージは「1巻あたりテレビ版(パッケージ化にあたりSE・BGMをステレオ化)を3話、新OVAを1話収録」と、異色のフォーマットを取ったのだ。(上記パッケージが“P(パーフェクト)バージョン”、新OVAだけを収録した“S(スタンダード)バージョン”も同時にリリースされた)現在では『機動警察パトレイバー NEW OVA』とされる新シリーズの開始である。
大きな意図として、グリフォンとの戦いに決着をつけることがあった。これに全4話と長尺が割り振られ、その他もテレビの続編やバリエーションが多く用意され、全体を掘り下げることで、何度も繰り返し鑑賞可能とする手厚いサービスであった。このリリースは全16巻、1992年4月まで1年半にわたって続く。最初期から4年の歳月が経過していた。


▲新OVAシリーズ

1993年8月、『機動警察パトレイバー2 the Movie』が劇場公開される。成立、内容ともにこれまでの流れとは隔絶した部分を多々有する作品だ。特車二課メンバーはそれぞれ別部署に転属し、後藤と南雲、2人の小隊長を中心にストーリーが展開する。湾岸戦争で兵器類が電子制御主体となった現実をふまえ、「もし東京を舞台にIT技術を駆使した内戦情況が出現したら」という仕立てで、現実世界に起き得る事象を照らし出し、「戦争を考える」というテーマを前面に押し出した。アニメ映画におけるリアリティ・レベルを格段に向上させた作品としても後続に大きな影響をあたえ、シリーズを完結させたような内容も話題となった。


▲2 the Movie

以後10年近く、「パトレイバーシリーズ」は休眠状態となる。21世紀になって作られた作品群については、詳細を略す。1988年から1993年まで、6年間で日本のアニメ全体に大きな影響をおよぼした本シリーズ、興味を惹かれたタイトルから入り、気に入ったら縦横に展開した足跡をたどってみてはいかがだろうか。先駆的だった物語の全貌を追体験する中で、明日へのヒントが何か見いだせるかもしれない。

文:氷川竜介(アニメ特撮研究家)

 

<発売情報>

機動警察パトレイバー the Movie 1+2 SET
Blu-ray(期間限定生産)

2023年8月10日発売
税込価格:¥8,910
品番:BCXA-1857

 

▼機動警察パトレイバー 公式サイト
https://patlabor.tokyo/

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