日本で最も権威あるSF文学賞「日本SF大会星雲賞」のアート部門を2000年(第31回)、2001年(第32回)、2013年(第44回)、2023年(第54回)の4回受賞した漫画家・鶴田謙二原作のアニメーション『Spirit of Wonder』。
この度、「Spirit of Wonder Blu-ray BOX」が2024年3月27日に発売されることを記念したトーク&上映会が2024年3月2日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷にて開催された。トークショーには原作・鶴田謙二と、メインキャストでチャイナ役の日髙のり子、ドラマCD主演出・庵野秀明らが登壇。MCはアニメ・特撮研究家である氷川竜介が務め、プロデューサーの杉山潔(バンダイナムコフィルムワークス)を交えて貴重なトークが繰り広げられた。
『「Spirit of Wonder Blu-ray BOX」発売記念トーク&上映会』オフィシャルレポート
▲写真左から 氷川竜介、庵野秀明、日髙のり子、鶴田謙二、杉山潔
<イベント概要>
「Spirit of Wonder Blu-ray BOX」発売記念トーク&上映会
場所:ヒューマントラストシネマ渋谷
日時:2024 年3 月2 日(土) 16:00 開演
登壇: 鶴田謙二(原作)
日髙のり子(チャイナ役)
庵野秀明(ドラマCD『チャイナさんの逆襲』主演出)
杉山潔(プロデューサー)
MC:氷川竜介(アニメ特撮研究家) ※敬称略
▲氷川竜介(アニメ・特撮研究家)
満員御礼の会場で「チャイナさんの憂鬱」「チャイナさんの盃」の上映後、温かい拍手に迎えられて鶴田氏ら5名が登壇。それぞれの挨拶後、まずはOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)が発売された当時を振り返った。
▲日髙のり子(チャイナ役)
▲庵野秀明(ドラマCD主演出)
本作のOVAアニメ化のオファーがあった際、原作はまだ単行本化されていなかったとのことで、鶴田氏は「まだ単行本にもなっていないし、ならないかもしれない作品をアニメ化したいと言われて、最初は驚きました」と笑い交じりに語った。杉山プロデューサーに経緯を聞くと、大学時代に連載で本作を読み、鶴田氏の映画的な絵や間で魅せるストーリーに惚れ込み、ぜひ映像化したいと思っていたとのこと。当時、OVAが実験しやすいメディアであったこと、ちょうど当時所属していた東芝EMIがアニメ事業を始めたばかりで、周囲の上司がアニメをよく知らなかったタイミングだったため、企画書を出したら通ったことを語ると会場から笑いが漏れた。杉山プロデューサーが初めてアニメ化を打診した際、鶴田氏からは「すごい塩対応」だったようで、鶴田氏は「誰も知らない漫画をなぜアニメ化するんだろうと、最初冗談かと思った」と、当時の心境を語った。そうした経緯を経ながらも、杉山プロデューサーの強い作品愛で鶴田氏を説得し、アニメ化が実現した。
▲杉山潔(プロデューサー)
杉山プロデューサー同様、庵野氏も鶴田氏の才能をいち早く見抜いていたようで、「最初『モーニング』でシリーズ1作目を読んだとき、『すごい人が出た』と思いました」とコメント。さらに『チャイナさん』シリーズが単行本化される前に、庵野氏自身が出資して同人誌として2冊出していたことも明かされた。ちなみにその同人誌は好評となり、後にプレミアがついたとのこと。そんな経緯もあって、ドラマCD「チャイナさんの逆襲」(1993年制作)では庵野氏が構成・脚本・演出を務めることになった。ドラマCDが発売された経緯について庵野氏は「鶴田さんから、OVAがとても真面目な作品だったのでそうではないものも見たいと聞き、ドラマCDを作りました」と語った。ドラマCDの内容は原作者の意向だったという話を受けて、日髙さんは「そうなの!?」と驚いた表情で反応。「ドラマCDは原作のキャラクターを壊すような内容だったので、これは鶴田さんが悲しむんじゃないかなと思っていました」と日髙さんが言うと、すかさず庵野氏が「逆です。鶴田さんの望みを叶えてあげたんです」と答えて会場から笑いが起こった。また、ドラマCDの楽曲に庵野氏がコーラスとして参加していることにも触れられ、「お金が無かったので、身内でやりました」とし、杉山プロデューサーや、日髙さんの当時のマネージャーなど、収録現場にいた男性はほとんどコーラスとして参加していた裏話も明かされ盛り上がった。
▲庵野秀明・日髙のり子
続いて話はキャスティングについてに移行。日髙さんはボイステストを受けて役が決まったとのことで、「~あるよ」といった“中国訛りっぽい言葉”で演じるのが初めてだったため、当時「らんま1/2」のシャンプー役で同じような言葉使いをしていた佐久間レイさんを参考にしたことを語った。さらに、ブレッケンリッジ博士役の羽佐間道夫氏や、ジム役の柴本浩行氏との共演が新鮮で嬉しかったと振り返った。鶴田氏はチャイナさんの配役について、「もともと日髙さんのファンだったのですが、既に『ふしぎの海のナディア』や『トップをねらえ!』で演じられていたので、被りたくないと思っていて……」と話し、第1候補に渕崎ゆり子さん、第2候補で日髙さんを考えていたと語ると、「えー!」と再び日髙さんは驚いた様子で「でも渕崎ゆり子さんも『トップをねらえ!』にキミコ役で出ていましたからね!」と笑顔でツッコミ。ほか、羽佐間氏や渕崎さんの起用は鶴田氏のたっての希望だったこと、当初は洋画のような雰囲気を目指していたことなど、当時の想いが語られた。
※キャスティングや、アニメ化に際しての鶴田氏の想いは下記インタビューをぜひご参照ください。
▼特設ポータルサイト
「Spirit of Wonder Blu-ray BOX」発売記念 原作・鶴田謙二インタビュー
▲氷川竜介・庵野秀明・日髙のり子
その後、『チャイナさん』シリーズの舞台設定についてや、「少年科學倶楽部」のアニメ化の際に実際に海外へロケに行ったことなど、制作当時の思い出話に花が咲いた。鶴田氏の引っ越しを杉山プロデューサーが段ボールに荷詰めするところから手伝い、トラックの運転までしたというエピソードも飛び出し、日髙さんは「原作者とプロデューサーの域を超えて、家族のようですね」とコメントするなど、まるで同窓会のような和やかなムードで終始笑いの絶えないトークが繰り広げられた。
その後、写真撮影を経て一人ひとりファンへメッセージを贈った。杉山プロデューサーは「とてもお気に入りの作品なので、次世代にちゃんと残したいと思い、今回Blu-ray BOX化を企画しました。原作者描き下ろしイラストやコミックも収録され、ブックレットには氷川さんの解説も入っているので、末永く愛して頂ければと思います」。続いて庵野氏にも一言をと振られると「本日はどうもありがとうございました」と感謝を述べて拍手を受けた。日髙さんは「オープニングやエンディングを歌わせて頂き、私にとってもとても大切な作品です。キャスティングの秘話もありましたが(笑)、楽しくやらせて頂きました。ぜひお手元に置いて楽しんで頂けると嬉しいです」。鶴田氏は「『チャイナさん』のアニメ化はかなり前の話ですが、その後僕に漫画のアニメ化の話が来たことはないので、杉山さんには心からありがとうございますと言いたいです」と伝えて大きな拍手が沸き起こった。
最後に『Spirit of Wonder〜チャイナさんの憂鬱〜』『Spirit of Wonder〜少年科學倶楽部〜』『Spirit of Wonder〜チャイナさん短編集〜』の見放題及びレンタル配信決定や、『Spirit of Wonder 新装・完全版』が史上初のB5判で発売されることなど、嬉しい新情報が発表された。観客からは祝福の拍手が沸き起こり、本イベントは大盛況の内に幕を閉じた。
▼商品HP
https://v-storage.jp/sp-site/spiritofwonder/
©2001・2003 鶴田謙二/講談社・バンダイビジュアル ©1992・1993 鶴田謙二/講談社・UNIVERSAL MUSIC LLC