インタビュー | 君のことが大大大大大好きな100人の彼女
2024.7.16 UP
TVアニメ『君のことが大大大大大好きな100人の彼女』矢野茜(キャラクターデザイン・総作画監督)インタビュー
2023年10月に放送されたTVアニメ『君のことが大大大大大好きな100人の彼女』(『100カノ』)。原作漫画の魅力ある絵柄を再現し、他作に類を見ない本作独自の可愛さを存分に発揮したことで、視聴者の間で大きな話題を呼んだ。25年1月より放送予定の第2期でも、第1期に引き続きキャラクターデザイン・総作画監督を担当する矢野茜さんに、第1期の振り返りとこだわりをメインアニメーターならではの視点からたっぷりと語っていただいた。
──矢野さんにとって初の漫画原作の作品。キャラクターデザインをするうえで、それまで手がけてきた作品との違いはありましたか?
矢野 ライトノベル作品などを主にやってきたので、原作が小説であれば文字とたまに挿絵が入る程度。すべてのシーンにキャラの描写があるわけではないので、表情などを想像して考えながらやることが多かったのですが、今回はすべて原作に正解が載っていることもあり、キャラが掴みやすかった印象があります。普段はどこまでやっていいのか、振り幅もいろいろと考えるのですが、『100カノ』に関しては結構ぶっ飛んだ表情をやらせてもらい、ギャグはかなり振り切って、ある意味本編では自由にやらせていただけています(笑)。
──大変さや難しさを感じたのはどんな点ですか?
矢野 漫画の巻数が進むごとに、絵柄も少しずつ変化していくので、デザインの基準をどこに置くのかは結構悩みながら、佐藤監督に相談しながら決めさせてもらいました。
──インタビューで佐藤監督が絵的には何も言うことがなかったと絶賛されてました!
矢野 すごくうれしいです。直接言ってくださっていいのに(笑)。普段はすごく寡黙な方なのですが、絵に関しては褒めてくださることも多くて。佐藤監督自身もめちゃめちゃ絵が描ける方なので、最初のデザイン出しはものすごく緊張しました。変なものや力の足りないものを出したら恥ずかしいなと思いながら、最初のやりとりをしたのを鮮明に覚えています。
──矢野さんから上がってくるものを見るのが楽しみだったとおっしゃっていました。
矢野 本当にそういうことは直接言ってほしい(笑)。信頼してもらえるような仕事ができていたと感じられて、すごくうれしいです。
──アニメ『100カノ』でのキャラクターデザインのこだわりを教えてください。
矢野 彼女が100人も出てくるのに、一人一人の個性はすごく強くて、その魅力をちゃんとキャラデザに落とし込めるようにと思いながら、“個”の特徴を誇張した形で描いています。作画の野澤先生が描くキャラの目が大きくてキラキラしていてすごく可愛い。どのキャラも目尻のまつ毛は顔の輪郭を飛び出すくらいシュッと描かれているので、恋太郎以外は目尻のまつ毛は“シュパー”っと印象的になるようにしています。
恋太郎は彼女たちの個性がものすごく強い分、個性的なパーツである眉毛以外は割とノーマルに描いています。普通の男キャラの2~3倍はある太眉と、鼻の上にあるタッチが可愛らしさのポイントです。最初ラフを提出した際に、野澤先生からもうちょっと男らしくというリクエストがありました。全体的には可愛らしい絵柄の作品だけど、100人もの彼女を受け止められるぐらいの男らしさを意識して、恋太郎に関しては可愛らしくなりすぎないように心がけました。あとは身だしなみをしっかりすること。ネクタイはちゃんと上まであげた感じで、緩めたりはしない。ポージングもどこから映り込んでも真面目な感じが分かるように、シュッと立たせること、片足重心にならないように意識しました。ちゃんとしている好印象な感じの男の子にしています。
──彼女たちはいかがですか?
矢野 羽香里と唐音は対照的に描くよう意識しました。目はタレ目とつり目だし、スタイルも対照的です。羽香里は太ももが魅力的なキャラで唐音の2倍くらいのボリュームで。私はちょっと変態脳なので笑って読み流してほしいのですが(笑)、女の子を描くときは触った時の感触まで意識しています。割と肉質もイメージして描きます。例えば触った時の弾力。羽香里は柔らかいけれどちゃんとハリのある感じ、唐音なら骨ばった感じがありつつ引き締まった筋肉、ささみみたいなヘルシーな筋肉がついているイメージです(笑)。
──イラストを見ながら伺うと、すごく分かりやすいです!
矢野 「100カノ展(君のことが大大大大大好きな100人の彼女展 Love for Family)」用のデザインを描いた時に、自分が膝フェチであることに気づきまして。よく見ると彼女たちはみんな膝に個性が出ていて、違う膝になっているなって。影のつけかたから結構こだわっています。羽香里は膝にもお肉がついているから丸い影、唐音は骨張っている影で、静は見えないけれど外にも出ないし、体を動かすのも得意じゃないから無理のない筋肉がついていると想像して、すべすべで滑らかなイメージで影は少なめ。凪乃はモデル体系だから膝がちゃんと出るように、楠莉はわんぱくさを出してちょうどいい質感の膝に絆創膏を貼ったりして。お肉で言うと、羽香里と羽々里は親子だから同じ肉質。年齢の違いをハリの違いで出すみたいなところは意識しました。お風呂のシーンでは胸のハリもしっかりイメージしながら描いています。
──キャラクターを描いていく中で彼女6人のバランスも意識されていましたか?
矢野 羽香里と唐音は第1話で同じタイミングで登場したこともあり、最初の立ち絵は並べて描きました。他のキャラは順番に登場したので一人ずつ描くことが多かったです。でも、描いているうちにこのキャラのここを変えたから、こっちも変えようということはよくあって。同じ要素は増やしたくないという思いで、一つを変えたらこちらもと無意識に調整していた気がします。
──描きやすいキャラクターはいましたか?
矢野 静です。等身低めのキャラはすごく描きやすいんです。小さいキャラって服がオーバーサイズで萌え袖になりがちだけど、原作を見ても静って萌え袖になることがほぼないんです。勝手な想像ですが、野澤先生が描く静の袖の感じから強い意志みたいなものを感じて。制服を着ていてもちゃんと手首が出ている。ここはこだわりだと思って、あえて萌え袖にはしませんでした。膝はめくれずにちゃんと隠れる長さで、手首はちゃんと出すことはしっかり意識しました。
Blu-rayの特典でこれまでで一番綺麗に描けたと感じたのは凪乃です。「まつ毛長っ!」って言われるシーンもあるから、結構誇張して描いているところは多いです。髪の毛も印象的ですし、ビューティー!という感じは他のキャラよりも強めに出しています。
ギャグ顔を描くのが一番楽しかったキャラは楠莉です。自分の中でどんどんハマっていったキャラかなって思っています。楠莉は静と同じ癖っ毛だけど、柔らかすぎない髪の毛でちょっと硬めな感じ。眉毛も短く太いまろ眉の手前くらいの感じですごく可愛くて。他キャラとは違って8歳と18歳の姿があるので、2回楽しめて妄想が広がるんですよね(笑)。
──思わずニヤッとしてしまいますよね(笑)。
矢野 そうなんです。原作ファンなので個人的に勝手な妄想もたくさんしてしまうのですが、すべての彼女たちに恋太郎ともっといちゃついてほしくて。いけー!と何度心の中で叫んだことか(笑)。恋太郎は屈強な男だと感じることはすごく多かったです。
──総作画監督として心がけていたことを教えてください。
矢野 可愛いシーンはめちゃくちゃ可愛く、ギャグシーンはぶっ飛んでいるからめっちゃ顔を崩すようにしていました。可愛いシーンでは絵を1枚見ただけでは別作品かと思うくらいディテールを描き込みました。アップの時にはまつ毛まで、それはもう細かく描き込んで、逆にギャグのときはシンプルな絵に落とし込んでみたり。ギャップはすごく心がけていました。ただ、自分の中にそこまでレパートリーがなくて、どうしたらもっとぶっ飛んで見えるのか、アイデアが出てこない。なので、まずはできる限り遊び心を入れられるところは入れていこうという思いでやっていました。1話で唐音がギャンギャンツッコミをいれているシーンで、口の中に顔を描き込んだのは原作にはない部分。オンエア後に原作の中村先生が、ご家族の作ったアニメの映像のぬいぐるみの写真をSNSに載せてくださっていたのを知り、楽しんでもらえたのかなと感じられてすごくうれしかったです。
──Blu-rayでアニメ第1期をご覧になる方の参考として、第1期での矢野さんのお気に入りエピソードやシーンを教えてください。
矢野 2話の教頭先生の登場シーンです。声を担当したくじらさんのアドリブもあって、音のリズム、テンポの面白さがすごくマッチしていて、アニメならではの楽しめるポイントだと思います。あとは11話のエンディングです。監督がめちゃくちゃ考えてくださって。
──自分でもお気に入りだとおっしゃっていました。
矢野 ですよね。アイデアを聞いた時、「これを描くのか~」とは正直思ったのですが(笑)、スタジオのアニメーターさんがみんな頑張ってくれました。作業時には音源が仕上がっていたので、洗脳されるくらいずっとリピート。もう本当に歌えますってくらいの勢いで聴いていました。相当聴いたけれど、まだまだ聴ける大好きな1曲です。
──矢野さんはBlu-rayの収納ケース&インナーデジジャケットのイラストも担当されています。制作秘話を伺えますか?
矢野 最初は別の案をいただいていたのですが、私が無理やり「キス顔を描かせてほしい!」とお願いして(笑)。しかも顔のアップで。他の作品でもなかなかないことなので、めちゃくちゃディテールを盛り込みました。アニメ1期の彼女たち全員のキス顔をコンプリートして並べられるじゃないか!という個人的な思いが爆発したキス顔シリーズです。
──ケースから取り出したら、目を閉じていて…というのも矢野さんのアイデアだったのでしょうか?
矢野 目を開けさせるか、閉じさせるかって話になった時に、やっぱり表のケースでは目を開いていた方が印象としてはいいので、「中で閉じればいいんじゃないか」というアイデアをいただきました。ケースから出した時に目を閉じて…のほうがテンションが上がると思いました。ちなみに彼女との最適の距離感は、目を開けているイラスト(収納ケース)は14センチで、目を閉じているイラスト(インナーデジジャケット)は5センチです!
──キス顔のこだわりはありますか?
矢野 彼女たちの唇、そして表情にも個性を出しています。今回インナーデジジャケットのイラストの唇に艶加工を入れていただいて。インナーなのにしっかりテカリを入れてくださったのは本当に感謝です。
羽香里はいつも通りあざとい表情で、割と余裕そうな口に。近づいた時には唇を突き出してくる感じです。毛先もこんなに丁寧にはなかなか描けないってくらい丁寧に描いているので、クルンとしているところにも注目してください。
唐音は表と中の表情のギャップを楽しんでほしいです。強気な感じが滲み出ていて、チューの口もちょっとぎこちなくしています。リボンもしなしなになっているのはキャラ萌えとしてはポイントになるところだと思います。
静は小動物感を出しました。静とチューをする時、恋太郎は他のキャラの時よりも屈んでチューをしてあげるというイメージで、恋太郎が静をちょっと見下ろしている感じを出したつもりです。あとは照れている様子を表現するために鼻の上にタッチを入れました。
凪乃は一番ビューティーに描きました。いつもの平然とした感じはありつつも、キス顔は若干柔らかく。ちょっと照れている要素を入れたかったので、いつもはシュッとした眉毛もちょっと柔らかめにしました。髪の毛もまつ毛もめちゃくちゃうまく描けました!ファビュラス、上質な感じを漂わせてみました。
楠莉はちょっといたずらっ子な表情で。目はバッチリ開かずに、ドヤ顔ではないけれど「キスするのだー!」ってちょっと楽しんでいる感じが強めです。楠莉には二つの姿があるので、インナーを18歳バージョンにしてお姉さん感を出してみました。ハイライトにハートを入れていますが、他のキャラも瞳の中や唇にハートを忍ばせています。
羽々里は大人の余裕を意識して。唇の艶加工も一番ふんだんになりそうですね。羽香里と羽々里、親子で並べて、左を向いたら羽香里、右を向いたら羽々里みたいに挟まれて楽しむのもいいんじゃないでしょうか(笑)。
──矢野さん流の楽しみ方まで、ありがとうございます! 改めて伺います。矢野さんが思う『100カノ』の魅力とは?
矢野 ギャグと真面目が最高にバランスよく盛り合わさっている感じが大好きです。どちらもしっかり存分に盛り込まれていて、ちゃんと笑えるし、ちゃんと感動して泣ける。そこがすごくいいところだと思っています。アニメになると声優さんの声も入ってリズムが出て、テンポ感やギャグの勢いもすごく活きてきます。そこが楽しんでもらえるポイントだと思っています。
──Blu-rayで楽しむ方たちに向けたおすすめポイントはありますか?
矢野 初回の1話から羽香里・唐音以外の彼女たちもこっそり登場していたりするので、ぜひ見つけてほしいです。あとは、原作とアニメ、あわせて楽しんでほしいです!私自身、最新話を追っているくらい原作も大好きで、常にキャラの存在を近くに感じながら楽しんでいます。私は割とキャラへの思いが爆発してしまうことがあるので、中村先生と野澤先生には読者・視聴者として好きな気持ちと、作り手としての気持ちの折り合いの付け方について伺いたいなんて思っています(笑)。カップルとしてもファミリーとしても素晴しいというのは『100カノ』ならではなので、いろんな妄想で楽しんでいただけたらうれしいです。
PROFILE
矢野 茜(やの あかね)
アニメーター。13年からアニメーターとして第一線で活躍し、『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』(16)でキャラクターデザイン・総作画監督を初担当。『りゅうおうのおしごと』(18)、『弱キャラ友崎くん』(21)、『プリマドール』(22)など多数の話題作でキャラクターデザイン・総作画監督を担当し、注目を集め続ける実力派。
<発売情報>
君のことが大大大大大好きな100人の彼女 5(特装限定版)
Blu-ray
2024年7月24日発売
税込価格:¥7,700
品番:BCXA-1887
君のことが大大大大大好きな100人の彼女 6(特装限定版)
Blu-ray
2024年8月28日発売
税込価格:¥7,700
品番:BCXA-1888
『君のことが大大大大大好きな100人の彼女』作品概要
君のことが大大大大大好きな100人の彼女
第2期 2025年1月より放送開始!
あらすじ
中学で失恋100回を達成した愛城恋太郎は、高校でこそ彼女を!と願い訪れた神社で、現れた恋の神様から「高校で出会う運命の人は100人いる」と告げられる。しかし神様いわく、運命の人と出会った人間は、その相手と愛し合って幸せになれなければ死んでしまうという……。次々に待ち受ける運命の人との出会いーーどうする恋太郎? どうなる100人の彼女!?
放送情報
2025年1月より第2期放送開始!
配信情報
第1期配信サイトにて配信中
原作情報
集英社「週刊ヤングジャンプ」にて好評連載中!
原作コミックス1~18巻&ノベライズ好評発売中!
▼君のことが大大大大大好きな100人の彼女 公式サイト
https://hyakkano.com/
▼君のことが大大大大大好きな100人の彼女 公式X
/ 推奨ハッシュタグ#アニメ100カノ
©中村力斗・野澤ゆき子/集英社・君のことが大大大大大好きな製作委員会