『スペース☆ダンディ』を観ていると――優れたアニメーション作品を観るときには、いつも感じることなのだが――アニメはもっともっと自由であってもいいのだ、と思う。総監督を務める渡辺信一郎が、旧知の仲である制作スタジオ・ボンズの南雅彦(プロデューサー)とタッグを組み、2014年にオンエアされた本作は、新種の宇宙人を追い求めてさすらう宇宙人ハンターのダンディが、旧式のポンコツ掃除機ロボット・QTや猫のように見えて猫じゃない、ゆとり世代の宇宙人・ミャウらとともにドタバタ騒ぎを繰り広げる各話形式のSFスペースコメディ。「大宇宙を舞台に、はぐれ者チームが旅をしながら、各地で騒動を巻き起こす」というと、渡辺総監督の大ヒット作『カウボーイビバップ』を連想してしまうのだが、事実、この『スペース☆ダンディ』は『カウボーイビバップ』のヒネりまくった陰画というか、かの人気作を土台にしつつも、よりラディカルに、原型を留めないほどにチューンナップしたリミックス・バージョンとでもいった趣きがある。
あるエピソードではゾンビの群れに襲われ、また別のエピソードでは美麗な宇宙レーサーと過激なレースを繰り広げるダンディたち。かと思えば、次元が違う者同士による『ロメオとジュリエット(ハードSFバージョン)』が展開し、はたまた未開の惑星で幻の魚をかけたフィッシング・バトルが静かに幕を開ける。ときに笑えて、ときに頭を抱え、ときには涙なくしては観られない感動篇が綴られる。その振り幅の大きさは、よくある「バラエティ豊か」という宣伝文句を吹き飛ばしてしまうほどに過激、かつ意欲的だ。
次に一体、どんなモノが飛び出してくるか、わからない。その予測不可能ぶりにブーストをかけているのが、各話に参加している豪華なクリエイター陣。湯浅政明や谷口悟朗、山本沙代、タムラコータロー、三原三千夫、和田高明、名倉靖博など、それぞれ監督・演出家としてアニメーションの第一線で活躍する面々が各話演出・コンテとして参加。特に、湯浅が脚本・演出・コンテ・作画監督を手掛けた第16話「急がば回るのがオレじゃんよ」は、冒頭からラストカットにいたるまで、びっしりと湯浅監督節を詰め込んだ一本に仕上がっていて、強烈な印象を残す。また、銀河を支配するゴーゴル帝国の人型兵器(機動戦士)をかの大河原邦男が、ゴーゴル帝国と敵対するジャイクロ帝国の超大型ロボット兵器を樋口雄一がそれぞれデザイン。その衝撃的なビジュアルは、本作のクライマックスのひとつといっても過言ではない。
もちろん、ベテランたちの暴れっぷりばかりが『スペース☆ダンディ』の見どころではない。本作オンエア時には、新鋭~中堅だったクリエイター陣が数多く参加している点も大きなポイントだ。例えば、ゲストキャラクターとして登場する宇宙人のデザインを多数手がけた押山清高。シンプルな線とそこから広がるアニメーション本来の動きの快楽を徹底的に突き詰める、押山の魅力は、彼が脚本・演出・コンテ・作画監督を務めた第18話でも堪能できるが、その押山はこの夏、話題の映画『ルックバック』(藤本タツキ原作)が公開予定。また渡辺総監督のもとで、本作の監督を務めた夏目真悟は、この『スペース☆ダンディ』の後、『ワンパンマン』や『ブギーポップは笑わない』『Sonny Boy』といったユニークな作品群を世に送り出している。
また本作をきっかけに大きく飛躍したといえば、脚本で参加しているうえのきみこの存在は忘れることができない。ボンクラなダンディたちがハチャメチャな騒動を展開する本作がよほど肌に合ったのか、8本のエピソードで脚本を担当。本作の後も『クレヨンしんちゃん』シリーズやその外伝で、スラップスティックな持ち味を活かしたストーリーテリングを存分に発揮し、注目を集めた。また脚本でいえば、小説家として活躍する円城塔がいかにもSF畑出身らしい、思弁性の高いエピソードを2本担当し(第11話・第24話)、『スペース☆ダンディ』世界の広がりに一役買っているのも忘れがたい。
ほかにも、キャラクターデザインを手掛けるとともに、作画監督を務めた伊藤嘉之を初めとするアニメーター陣の活躍ぶり、あるいは岡村靖幸、やくしまるえつこ、牛尾憲輔、向井秀徳、難波弘之など、ジャンルの枠を越えてミュージシャンが結集した劇伴、各話ゲストとして参加した豪華キャスト陣の怪演ぶりなど、触れておきたいポイントは多い……のだが、残念ながら紙幅が尽きた(ネットの記事にもかかわらず「紙幅」とはこれいかに)。
とにもかくにも、「広大な宇宙」というトンでもなく大きな器に、シュールなギャグから難解なハードSF、さらには涙なしでは観られないメロドラマまで詰め込んで、アニメーションならではの面白さを徹底的に追求した本作。「アニメはもっともっと自由でいいじゃんよ?」。そんなダンディのつぶやきが聞こえてきそうな、必見の一作である。
文:宮 昌太朗
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