ニュースココだけ | 超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか
TVシリーズ『超時空要塞マクロス』(1982年放送)の劇場版作品として、1984年7月21日に公開された『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』(以降「愛・おぼえていますか」)は、「メカと美少女」という一大ムーブメントを巻き起こし、ハイクオリティアニメ作品の発端とも言われ、のちのアニメーションシーンに多大な影響を及ぼした。
『超時空要塞マクロス』は「話数ごとのクオリティの落差」が目立ったものの、三角関係、歌、可変戦闘機というアイデアはアニメファンから高い人気を獲得。当時発売された主役メカ、VF-1 バルキリーの玩具も爆発的にヒットし、TVシリーズの3クールへの延長と、映画化決定を後押しした。
そこで幸運だったのは、「愛・おぼえていますか」が完全新作劇場作品として送り出されたことにある。「愛・おぼえていますか」が公開される数年前、アニメ映画といえば『機動戦士ガンダム』ですら総集編映画という時代だった。が、決定的に状況が変わったのは、1983年に相次いでオリジナルアニメ映画が公開され、明確に世の中のアニメ映画への取り組みが変わったタイミングだったのが功を奏した。もし「愛・おぼえていますか」が完全新作映画でなかったら、その後のアニメの歴史は変わっていたかもしれない。
劇場版の制作に当たり、メインストーリーの「文化を知らない異星人との星間戦争」という基本はそのままに、TVシリーズ第27話「愛は流れる」までのストーリーを再構成。「歌で戦争を終わらせる」ことを結末にする物語へとまとめ上げられた。
一条輝、リン・ミンメイ、早瀬未沙というメインキャラクター3人の関係は改められ、輝はプロフェッショナルの軍人、ミンメイはすでにアイドル、未沙と輝は冒頭で初めて知り合う……といった変更が加えられた。また、敵異星人は男性のゼントラーディと女性のメルトランディのわかりやすい対立という構図へと改められている。
プロットを手掛けたのは、本作で初の映画監督(共同)を務めることになった弱冠23歳の河森正治。TVシリーズでは、メカデザインのほかに設定監修(黒河影次名義)という不思議なポジションとしてクレジットされていたが、もともと企画の中心としてまとめてあげていた河森だけに、「マクロス」を再構築するという意味では最適な人物といえた。
劇場版の構成に取り組むにあたり、河森は徹底的に映画の構造を学んだという。そこで導き出したのは、自分の本職であるデザイナーとしてのアプローチだった。「シナリオもデザイン的なロジカルで構成されている」という結論に達したとき、様々な贅肉はそぎ落とされ、「歌で戦争を終結させる」ことに特化した映画へと昇華した。
一方、驚くべきはビジュアル面がすべてに渡って刷新されていることにある。劇場版の大スクリーンに対応する結果だったとしても、バルキリーやマクロスのリデザインだけではなく、美術やプロップまで新規に起こされている。
TVシリーズの「マクロス」では、たとえば艦内の街並みは、どこか70~80年代の既存のアニメ作品を想起させる。そもそもTVシリーズは、スケジュールや制作体制の関係から、ハイクオリティな設定は再現できないために、致し方ない部分ではある。だが、それを良しとしないスタッフがいた。「プロダクションデザイン」としてクレジットされた宮武一貴である。プロダクションデザインとは、1カテゴリのジャンルにとらわれず、すべてのデザインを統括するポジションということを指す。
宮武は、河森のイメージボードを元に、劇場版で膨大な新規デザインを描き切り、「マクロス」という作品を構成するほぼすべてのものを、統一した世界として再生した。そこには部分的に妥協せざるを得なかったTVシリーズへのリベンジがあり、「スタジオぬえの本気とはこういうものだ」という、圧すら感じさせる仕上がりとなっている。その設定画は現在の目で見ても、息をのむほどの完成度であり、アニメーション設定のレベルを数段上げている。
無論、過度なディテールはスタッフの疲弊を招くだけだが、河森は「動画のいらない艦船や構造物は、いくらハイディテールを加えても辛くはない」「むしろ画面がリッチに見える」ということを、TVシリーズで学んでいた。あのハイディテール、ハイクオリティアニメの象徴のような「愛・おぼえていますか」で、「ここは手を抜くことができる」という周到な計算があったことには驚かされる。
こうした点を踏まえると、TVシリーズという(言葉は悪いが)プロトタイプが存在したことは重要だった。多くのスタッフの中で、「マクロスとはなにか?」というイメージを醸成する期間が設けられたのは大きな意義があったといえる。
たとえば本作にはTVシリーズに参加したスタッフのみならず、「劇場版の「マクロス」に関わりたい」という新規の作画マンが参加。彼らは『マクロス』のメカアクションとはなんたるか」を理解しており、結果としてメカ作画監督の板野一郎は作監作業に集中することが可能となり、TVシリーズでは描けなかった「パイロットごとのアクションの描き分け」という描写を実現したという。
『超時空要塞マクロス』の企画時に描いた「新しいアニメを送り出す」という挑戦とは裏腹に、TVシリーズの完成度はスタッフにとって「忸怩たる思い」があった。胸に秘めていたのは「このままでは終われない」という思い。TVシリーズの素材はほぼ流用せず、すべてが刷新されたのは、そうした思いの表れといえる。
「愛・おぼえていますか」で描かれたのは、スタッフが思い描いた「マクロス」であり、ファンが見たかった本当の「マクロス」。その強烈なまでの情念が、「愛・おぼえていますか」という不変的な映画を作り上げたのである。
文:河合宏之
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