※一部作品のネタバレを含みます。
AV評論家 鳥居一豊が観た『人狼 JIN-ROH』
押井守がコミックや実写映画で展開した「ケルベロス・サーガ」に連なる作品で、2000年劇場公開作である『人狼 JIN-ROH』。架空の戦後日本を舞台とした物語。セクトと呼ばれる過激派による武装闘争に対応すべく、より戦闘に特化した「首都圏治安警察機構」通称「首都警」が発足。さらに闘争を激化させていた。というなかなかに骨太な舞台設定だ。本作では、首都警の戦闘部隊である特機隊の隊員である伏一貴という男に焦点をあて、彼の目の前で自決した少女の姉だという謎の少女との出会いと別れを描いていく。
本作の見どころはCGやデジタル技術をほとんど使わずに丁寧に手描きで描かれた人物や戦闘シーンの描写だ。手提げ鞄に隠された投擲爆弾に点火する少女の思い詰めた表情。ふだんはあまり感情を表に出さないものの、謎の少女との関係が深まるほどに優しげな顔をするようになる伏一貴など、表情芝居が巧みだ。4K 化された映像は手描きの描線ならではのデリケートな筆致を鮮やかに蘇らせ、男女の複雑な機微を丁寧に再現していく。まさしく生のセル画を見ているような感覚だ。
また、プロテクトギアと呼ばれる戦闘用の装甲服を装備した首都警の隊員たちの動きに合わせて装甲服がガシャガシャと揺れる様子やMG42機関銃を撃つ姿、銃弾を装填する動作などが、細かく描かれる。これらを手描きならではの緻密な動きで描かれるのも見どころ。手描きアニメならではの動きの面白さを鮮明な映像で楽しめる。
架空ではあるものの、実際の戦後復興期の日本とも重なる繁華街の町並みや百貨店の屋上にある遊戯施設などを描いた背景美術も美しい。やや色あせたトーンで描かれるものの、近景は鮮やかな色も豊かで復興期の活況が感じられる。そうした景色が遠景になるほどに色を失っていくように描かれ、独特の都市の奥行きを感じさせる。フィルムノワールを思わせる劇画調の美術と独特の世界観を堪能できるのも色の再現範囲の広さがわかる。公開当時の劇場上映どころか、設定画を見ているような鮮度の高い映像だ。
そして、音響もいい。地下の下水道施設を舞台にした追跡での反響の多い音はドルビーアトモス化によってさらに広がりが豊かになり、一般の警察官や過激派が使う拳銃や機関銃のカン高い音に対して、MG42機関銃の低く重みのある銃撃音の違いも鮮明かつ重厚で、特機隊の異様がはっきりとわかる。また、溝口肇による劇伴は日本の映画ともハリウッド映画とも異なるムードがあり、男と女のせつないロマンスを盛り上げているが、その音質の良さも観る者を作品に引き込む魅力がある。4K化とドルビーアトモス化で作品が持つ本来の魅力が見事に蘇った。闘争と策謀に満ちた時代の中で心を通わせていく男と女の物語をじっくりと味わうことができるはずだ。
PROFILE
鳥居一豊
オーディオ・ビジュアル専門誌での編集スタッフを経て、フリーライターとして独立。月刊「HiVi」誌のほか、さまざまな媒体でオーディオ、ビジュアル関連の記事を執筆中。アニメとの付き合いは小学生以来。趣味として膨大なテレビアニメや劇場用アニメ、OVAを見続けている。自宅には約15畳強のサイズの専用シアタールームがあり、4K映像とドルビーアトモス対応の9.4.4ch音響システムで映画やアニメを堪能する日々を過ごしている。
※UHD BDのご視聴にはULTRA HD Blu-rayに対応した専用プレーヤー、再生環境が必要です。4K(HDCP2.2対応)及びHDR(ハイダイナミックレンジ)に対応していないテレビ等でご覧になる場合は、本来の画質では再生されません。※“ULTRA HD Blu-ray™” および “4K ULTRA HD”ロゴは、ブルーレイディスクアソシエーションの商標です。
©1999押井守/BANDAI VISUAL・Production I.G
▼『人狼 JIN-ROH』特設サイト
https://patlabor.tokyo/