『超時空要塞マクロス』と全てが逆の異色作
『マクロス』シリーズの中で、もっとも異質な作品に映るのが、1994年にTVシリーズ作品として放送された『マクロス7』である。そもそも本作は、2作品の同時進行で誕生した企画であり、その1つである『マクロスプラス』が、原点である『超時空要塞マクロス』のリアリティや重厚な描写を突き詰めた作品であることに対し、『マクロス7』は真逆のコンセプトで送り出された。
歌って戦わない主人公・熱気バサラに、口があるファイヤーバルキリー、襲い来る敵はモンスターのようなプロトデビルン……。そのどれもが『マクロス』とは対照的だった。
「同じことは二度とやらない」と誓っていた企画者・河森正治にとって、2作品同時進行という挑戦、そして『マクロス』のセオリーをあえて裏切る『マクロス7』のコンセプトは、シリーズ復帰を決意する大きな理由となった。
94年に放送がスタートした当初、「あの『マクロス』の復活」を期待していたファンからは、大きな批判が巻き起こったとされる。その矛先は、バルキリーで戦場にあらわれながらも、歌うだけで戦わない主人公・熱気バサラに向けられた。
「なぜ戦わないのか?」
序盤のガムリン木崎の言葉は、視聴者の気持ちを代弁したものだった。
だが何も語らず、ただ歌い続けたバサラの姿を見続けたファンたちの反応は、いつしか変わっていく。それを象徴するのが、第28話「サウンド新兵器」。歌が通じないことにもどかしさを感じたバサラが、まさかのミサイルを放ってしまった瞬間だった。
「なぜ撃つ? 熱気バサラ! お前は唄うんじゃないのか!?」
今度はその真逆の言葉に、視聴者が大きな共感を抱くことになった。それはバサラの生き様が、ガムリンを、視聴者の心を、大きく動かした瞬間だった。
戦わず歌う主人公が魅せる“音楽の力”
バサラの生き様は、『マクロス7』の作品性すべてと言ってもいい。それは全49話のエピソードを通じて何も変わらない。ただ、その生き様を垣間見た人々の気持ちが、画面の中と外で、それぞれ大きく変化していっただけだ。
こうした作風が実現したのは、河森正治が送り出した空前絶後のコンセプトを、監督アミノテツロー、シリーズ構成・富田祐弘の作風ががっちりと噛み合ったことによる。
アミノは「人が死なない作品ならOK」という条件で監督を引き受けたといい、それがバサラの「敵ですら歌で説得する」というコンセプト、そして「敵を倒す爽快感だけで物語を終わらせたくはない」という河森正治の想いに見事に合致。そしてアミノらしい「1年かけてじっくりと描く」という、4クールアニメ黄金期のキャラクター描写は、バサラの主人公像を深く視聴者に刻み込んでいった。
一方、いまやだれもが知る名言である「俺の歌を聞け!」は、アニメ脚本界屈指の名言ヒットメーカーである富田祐弘が生み出したもの。どこかユーモラスでありながら、圧倒的な熱量ですべてを吹き飛ばしてしまうような『マクロス7』の作風は、富田を中心とした脚本チームの手腕によるものだった。
そして忘れてはならないのが、Fire Bomberの楽曲である。劇中でバサラやミレーヌが結成したFire Bomberは、そのまま現実世界においても、歌唱パート担当の福山芳樹(ボーカル、ギター)とチエ・カジウラ(ボーカル)を中心として活動。
圧倒的な熱量とともに、どこか懐かしく、視聴者の気持ちに突き刺さる楽曲の数々は、劇中でもセリフ以上の存在感を示した。その豊富な楽曲数ゆえに、「音楽予算を早々に使い果たしてしまった」と言われているが、ファーストアルバム『LET'S FIRE!!』は、オリコン第4位、30万枚の売上という大ヒットを記録。今なお楽曲の熱量は衰えることはなく、普遍的な魅力を放ち続けている。
「歌で銀河を救う」をもっとも純粋に具現化
メカニック面に目を向けると、バサラが駆るファイヤーバルキリーは、バサラの生き方を具現化したような機体である。戦場で歌うならば「口」が必要で、手にした銃はスピーカーを射出するスピーカーポッド、肩部にはスピーカーシステムを備える。脚部にミサイルを搭載しているものの、徹底的に「歌う」ことへの意思が貫かれている。
これが『マクロスプラス』でイサム・ダイソンが駆るYF-19とベースデザインは共通であることも衝撃だった。同じデザインながらも、YF-19は徹底したリアリティ描写を追求する一方、ファイヤーバルキリーは少年漫画的なノリでファンを魅了する。変形構造をはじめとする基本デザインは共通ながらも、作風に合わせてスタイリングを変えることにより、ここまで対極に位置するデザインを実現できたのは、河森が「VF-1 バルキリーを超える」デザインを追求した結果だといえる。
振り返れば、最終話「銀河に響く歌声」は、1年間4クールをかけてバサラと向き合ってきた視聴者にとって、最高の瞬間であった。「歌だけで世界を救う」という結末の重みは、49話を積み重ねてきたからこそ成立したものだ。『マクロス』シリーズの中でももっとも異質である『マクロス7』は、実は「歌で銀河を救う」というシリーズのコンセプトを、もっとも純粋に具現化した作品だったのかもしれない。
文:河合宏之
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