【幽☆遊☆白書 霊界通信】スペシャル対談 佐々木望×千葉繁
TVアニメ25周年『幽☆遊☆白書』25th Anniversary Blu-ray BOXシリーズの発売を記念し、去る7月29日に催された劇場版『幽☆遊☆白書 冥界死闘篇 炎の絆』上映イベント。上映後には佐々木望さん(浦飯幽助役)、千葉繁さん(桑原和真役)、緒方恵美さん(蔵馬役)、 檜山修之さん(飛影役)によるトークショーも開催されました。ここではイベント直前に行った佐々木さんと千葉さんの対談を掲載。お二人には当時の思い出や25周年を迎えた心境などを語って頂きました。
──それぞれ役を演じる上で意識された事は何でしょうか?
千葉何かを意識してキャラクターを構築するのではなく、現場の空気で自動的に役になり切れるんですよ。キャラクターを「活かす」ための芝居ではなく、キャラクターを通して「生きる」気持ちで声を入れていました。それは正義も悪も同じです。敵だって必死に生きているわけだし、彼らから見れば主人公たちが悪ですからね。だから誰も「正義らしい芝居」「悪らしい芝居」はせず、生々しいほどに人間らしい芝居をしていました。
佐々木現場ではメンバーを役で呼んでいましたよね。
千葉そうそう、この人も佐々木望という役者ではなく「幽助」だと思っていました。それは蔵馬や飛影たち他のメンバーも同じです。スタジオは「劇団 幽☆遊☆白書」という感じでしたね。
佐々木僕もスタジオでは千葉さんを桑原だと思っていました。千葉さん以外にも『幽☆遊☆白書』の現場は何人も先輩がいらっしゃいましたが、アフレコ中は皆さんを先輩とは意識しないようにしていたんです。僕が戦う相手は玄田哲章さん(戸愚呂弟役)や納谷六朗さん(仙水役)など強敵ばかりなので、こちらも全力を出さなければ対等な勝負はできませんからね。この作品だけでなく、どの現場もそういう感じでした。
千葉そうだよね。アニメーション作品はチームで作るものなので、あまり先輩後輩を意識すると仕事が出来ないんですよ。
佐々木今思うと、そうやってベテランの方々と戦えたのは幸せな環境だったと思います。当時は必死だったのではっきり意識はしてなかったと思いますが、後々振り返ってみて、その幸せを実感しています。
千葉あと『幽☆遊☆白書』って役者同士の仲も良かったよね。
佐々木そうですね。単にふんわりとした感じではなくて、互いにほど良い緊張感がある「仲の良さ」なんですよね。
千葉役者同士が良い意味で競い合っていたんですよ。「コイツ、上手いなぁ。なら俺はこうしてやろう!」みたいなやり取りが続いていました。収録の度に互いの「創作するエネルギー同士」がぶつかり合う良い現場でしたね。
佐々木新人・若手・ベテランと幅広いキャリアの声優が揃うのも、今の現場ではあまり見られない光景で、音響監督の水本完さんが誰に対してもビシッと指導をくださるので、収録中は常に緊張感が漂っていました。でもその緊張感も楽しみながら演じていました。
──作中では幽助と桑原の名コンビぶりが見どころですが、二人のコンビネーションについて話をお聞かせください。
佐々木幽助と桑原を名コンビと呼んでくださって嬉しいです。それはきっと、千葉さんが上手くフォローしてくださったお陰なんでしょうね。千葉さんはデビューの頃からお世話になっている先輩で、僕にとっては雲の上にいるような存在なんです。
千葉なんだか死んじゃった人みたいだね(笑)。
佐々木いや、まだまだ生きていてください(笑)。だから収録前、桑原役が千葉さんと知った時はすごく嬉しかったんです。桑原って幽助と同等のポジションじゃないですか。この作品で「浦飯幽助」という千葉さんと同等の役につけた事は僕にとって大きな意味がありました。
千葉二人は良い意味での漫才コンビですからね。桑原は幽助とは戦う理由もベクトルもまったく違っているんですよ。訳の分からない男気と、雪菜さんのためなら死ねる覚悟、その無謀さだけで強敵に挑み続けましたから。そんな桑原は幽助からすると頼りない存在かも知れませんが、二人の関係は互いを補い合っていると思います。
佐々木桑原は幽助にとって一番の親友なんですよ。もちろん蔵馬と飛影も大事な仲間ですが、あの二人とはちょっと違う、相棒のような存在ですね。だから自分も、幽助と桑原の距離感は常に意識していました。普段は悪口を言い合っている二人ですが、本心では互いを気遣っているんでしょうね。
千葉互いに通じ合っているから、言いたい事が言えるんだよね。きっと。
佐々木二人の関係は男同士の友情をリアルに描いていたと思います。
千葉いわゆる「ダチ」ってヤツだよね。ダチ(笑)。
──当時の現場で覚えていらっしゃる事はありますか?
佐々木よく聞かれる質問なんですが、実は、現場で「面白い何か」が発生する事はあまりないんです。スタジオに集まったら役作りに没頭し、本番では演技に集中して戦い、そのように粛々淡々と仕事をするのが基本なので。
千葉最初に通し稽古をして台本をチェックし、台詞を修正したらすぐに本番と、収録はシステム化された中で進むんですよ。だから「朝から酒を呑みまくっていたら今日が収録日だと気付き、ベロベロになったままスタジオに行き、台本を落としながら収録しました」なんて話を期待してもダメです(笑)。収録中にマイクが爆発したら面白いですが、そんな事も滅多にありませんからね。いや滅多ではなく、まったくないんですけど。
佐々木役になり切って芝居をして、「お疲れ様」と言って現場を離れ、また次の現場で別の役になり切る。その繰り返しですからね。
千葉当時は収録の掛け持ちが普通でしたからね。ウンコにたかるウンコバエのようにワーッと集まり、また次のウンコにワーッと集まるんです。我ながら酷い表現ですけど(笑)。
佐々木(笑)。
千葉ただ一つだけ不思議な事があって、あのスタジオって真冬でも蚊が出たんですよ。収録中に「プーン」と羽音を出すので迷惑でしたね。
佐々木いました、いました(笑)。あと最終回の収録中に火災報知器が鳴ったのは覚えています。それで収録を一時中断したのですが、特にボヤも何もなかったので再開したんです。僕はあれは皆の「終わりたくない」という気持ちが鳴らせたのだと勝手に思っています(笑)。
──以前の緒方恵美さんの取材で「千葉さんはお当番の方にキムチうどんを食べさせていた」とお聞きしましたが。本当ですか?
佐々木『幽☆遊☆白書』は幽助以外の3人にも台詞が多い「お当番」回があったんですが、「頑張ったね」というお互いを労う気持ちが、なぜか収録の後でキムチうどんを食べさせる行為に繋がったんです(笑)。
千葉辛いものを食べると粘膜が活性化し、むしろ喉に良いんですよ。人体の修復能力が早くなるんです。
佐々木千葉さんは当時もそんな事をおっしゃっていて、我々は半信半疑だったんですけどね。
千葉いや本当だって。それに、その店のキムチうどんが本当に美味しかったんですよ。
佐々木スタジオの近所にあったうどん屋さんです。収録後によくランチを食べに行ったのですが、キムチうどんは本当に美味しかったですね。
千葉ね、本当でしょう(笑)。たまたま激辛だったので誤解を招いただけで、決して後輩を虐待していたわけではありません。
佐々木(笑)。たしかに、皆自分から進んで食べていました。お当番の人は喉が痛くなりますが、それも含めて仕事の達成感として味わっていたのかも。
千葉あれはクセになる味だったよね。痛いのに、また食いたくなるんですよ。あの頃のレギュラーメンバーは全員忙しかったので、一緒に食事に行ける機会も少なかったんです。一つの現場が終わったら、次の現場が待っていますからね。たまたま次の収録まで時間があった時、皆でご飯を食べに行った時のエピソードです(笑)。
──Blu-ray BOX魔界編の特典映像『TWO SHOTS』、『のるか そるか』の収録をされたそうですが、久々に役を演じた感想はいかがでした?
千葉25年ぶりにメンバーと再会しましたが、年月を感じるような違和感はありませんでした。違っていたのはスタジオの場所だけですね。まるで先週も収録があったかのような感じで、「久々にやるぞ!」と気張る事もなかったです。
佐々木自分もそうでした。自分の気持ち的にも、他の出演者の誰に対しても、違和感がありませんでした。皆が皆、すんなり粛々と自分の役を演じる光景は、25年という歳月が経った事を考えると不思議に思われるものかもしれないですけどね。その時も「25年経った感想をお聞かせください」と取材を受けましたが、おそらく全員が25年経ったという意識はなかったように思います。
千葉レギュラー作品をやっていると、たまに出番のない回もあるんですよ。その間がたまたま25年だったという感覚ですね。
佐々木分かります。自分の中で役や作品、相手役への気持ちが継続しているんですよね。
千葉他にも10何年ぶりって作品は多いですけど、スタジオに入ると違和感なく演じられますからね。今回も皆、ごく普通に演じて戦っていましたね。
佐々木「また来週」って感じでしたね(笑)。
──『幽☆遊☆白書』が長く愛されているのはなぜだと思いますか?
千葉見ている人たちの想いを代弁している作品だからだと思います。登場人物の思いが見ている人の考えに近いほどリアルなんですよ。それは敵側も同じです。ただ殺戮を楽しんでいるだけなら「早く医者に行きなさい」で済みますが(笑)、ただ主人公たちと立場が違っていただけで、それぞれ何かを貫くため必死に戦っていたわけですからね。そんな思いが各キャラクターに内在しているので、見ている人も「分かる、分かる」と自分との共通項を見付ける事ができるんですよ。だから人気があるのだと思います。話も面白いしね。
佐々木ストーリーの軽快さ、真剣さ、キャラクターの個性、それらの要素が今もまったく古くなくて、どの時期でも「今の作品」として楽しめるからでしょうか。それから、登場人物に「誰かを立たせるためだけに存在するキャラ」がいなくて、どのキャラクターもその人自体が存在する必然があってそこにいて、自分のために生きている、というキャラクターの描かれ方も『幽☆遊☆白書』の魅力のひとつだと思います。それは、ぼたんや螢子、雪菜といった女性のキャラクターも同じで、幽助たち男性のキャラクターを立たせるための存在ではなく、一人一人が自立しているんです。だから先ほど千葉さんが仰ったように、ファンの方が感情移入できるキャラクターばかりなのだと思います。そういう意味でも、『幽☆遊☆白書』に出演した声優は皆さん演じ甲斐があったと思います。
写真:Johney! TERASAKA
PROFILE
佐々木望(ささきのぞむ)
1月25日生まれ。TVアニメ『ドテラマン』で声優デビュー。独特の存在感がある声で熱血少年からクールな悪役まで幅広い役柄を担当。代表作は『AKIRA』(鉄雄役)、『MONSTER』(ヨハン役)、『テニスの王子様』(亜久津役)、『銀河英雄伝説』(ユリアン役)、『DEATHNOTE』(メロ役)、『うしおととら』(蒼月潮役)、『21エモン』(21エモン役)、『テツワン探偵ロボタック』(ロボタック役)など。また『ビバリーヒルズ青春白書』(デビッド役)など吹替にも出演。近年は朗読公演の出演やプロデュースでも活躍中。
PROFILE
千葉繁(ちばしげる)
2月4日生まれ、熊本県出身。81プロデュース所属。役者としての活動中に『ドカベン』で声優デビュー。以降、俳優、声優、音響監督として活躍し、近年では俳優養成所「C&O ActorsStudio」所長や日本工学院八王子専門学校の声優演劇科講師も務める。『紅い眼鏡/The Red Spectacles』、『獣電戦隊キョウリュウジャー』、『THE NEXT GENERATION -パトレイバー-』などに役者として出演。アニメの代表作は『うる星やつら』(メガネ役)、『北斗の拳』(ナレーター他)、『ハイスクール!奇面組』(一堂零役)など。
<再放送情報>
毎週月曜日19時〜TOKYO MXにて[暗黒武術会編]2話ずつ放送中
※計26話をセレクション放送。
※放送日時は都合により変更となる場合がございます。
幽☆遊☆白書TVアニメ化25周年記念 公式サイト
『幽☆遊☆白書』25th Anniversary Blu-ray BOX発売記念特集サイト
『幽☆遊☆白書』霊界通信
原作/冨樫義博「幽☆遊☆白書」(集英社「ジャンプコミックス」刊)
©Yoshihiro Togashi 1990年-1994年
©ぴえろ/集英社