レポートココだけ | 王立宇宙軍 オネアミスの翼

10月28日公開『王立宇宙軍 オネアミスの翼』4Kリマスター版 先行視聴レポート

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アニメ変革期に生まれた、奇跡的な作品

1987年に公開された『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(以下、『王立宇宙軍』)。この作品が今なお伝説的に語り継がれるには、いくつかの理由がある。
『王立宇宙軍』の制作を行ったのは、後に『トップをねらえ!』や『新世紀エヴァンゲリオン』・『ふしぎの海のナディア』などを世に送り出す、庵野秀明や樋口真嗣が参加していた映像制作集団「GAINAX」。
「GAINAX」のその後の実績や代表作の完成度、参加していた錚々たるスタッフの名前を見れば、『王立宇宙軍』が高い評価を得ていて当然のように思えるかもしれない。だが、『王立宇宙軍』が制作された35年前、1987年当時のアニメーションを取り巻く状況から見てみると、ある種の「奇跡」によって作り上げられた作品なのだ。

「GAINAX」の前身となったのは、1981年に大阪で開催された第20回日本SF大会(大阪で3回目の日本SF大会の開催だったためで、「DAICON 3」と呼ばれる)のオープニングアニメを制作し大きな注目を集めた自主制作映像集団「DAICON FILM」。アニメやSFをファンとして楽しんでいた大阪芸術大学の生徒たちを中心とするメンバーで構成されたDAICON FILMは、自主制作の特撮映像作品を世に送り出すなどの活動を積極的に行っていた。
そうした創作活動をきっかけに、DAICON FILMの主要メンバーたちは東京のアニメ制作関係者たちからの誘いを受けて上京。本作の監督である山賀博之やスペシャルエフェクトアーチストを務める庵野秀明は『超時空要塞マクロス』(1982年放送開始)などの現場に参加し、プロの現場に入ってさらなる経験を積み、プロのアニメーターとして成長していった。
ちょうどこの時期、アニメーション業界にも大きな変化の波が訪れていた。70年代までのアニメ作品は、玩具会社や菓子会社などのスポンサー企業の商品を売るために制作される「宣伝番組」というスタイルであり、クリエイティビティよりもスケジュールや制作費、スポンサーの要望が重要視されていた。また、その現場で働くアニメーターたちもファン的な視点はほとんど無く、プロとして「職人」的に仕事をこなす風潮が強かった。
しかし、80年代に入ると、子供の頃からアニメーション作品を鑑賞し、影響を受け、アニメーターに憧れて業界に入る人材が増えていくことになる。彼らは、それまでのアニメーターに比べるとファン的な視点を強く持ち、よりハイクオリティな作品を制作したいという意欲に溢れていた。
また、同じタイミングで、ビデオデッキの普及に伴い、オリジナルビデオアニメ(OVA)というテレビアニメとは違う映像カテゴリーが登場する。アニメーションを商品の宣伝目的ではなく、映像自体を商品とし、ビデオソフトを売るという販売形態は、アニメーション制作の方向性を大きく変えることとなった。映像自体を商品とするため、作画のクオリティは高くなり、作家性の強さが全面に押し出され、より意欲的な作品も作られていくことになる。
『王立宇宙軍』は、そうした人材的にも映像発展史的にもターニングポイントとなった80年代のアニメ変革期とも言える時代性を象徴する作品でもあるのだ。
元DAICON FILMの主要メンバーで本作のプロデューサーである岡田斗司夫と、本作の監督を務めた山賀博之とが中心となって企画を進め、劇場映画製作決定にともないDAICON FILMの元メンバーとそれに賛同する若いアニメーターたちが集まり、映像制作会社GAINAXが設立されることとなった。そこに集まったスタッフの平均年齢は24歳。子供の頃からアニメを観て育ち、ファン的な視点を持つ世代であり、設定やストーリー、映像表現などのクオリティに対して高い理想を持つ若者たちだ。そんな彼らに用意された、ある意味一世一代の大舞台が、『王立宇宙軍』という劇場作品でもあったのだ。
まったく新しいものを、自分たちの熱意のままに作るという、アートフィルム的な感性で作られた映像は、それまでのアニメ作品では挑戦することが無かった、隅々までこだわり抜いた作画で作り込まれており、そのクオリティの高さは、アニメーション業界の常識を覆す隕石のような巨大な一石を投じることになった。

4Kリマスターだからこそより鮮明になる、オネアミス王国のある世界

こうした背景を持つ『王立宇宙軍』が、35mmマスターポジフィルムから4Kスキャンを行い、4Kリマスター化が実現。令和の時代に昭和のアニメ業界を震わせた映像がより鮮やかになり、再びスクリーンに登場する。
本作の映像的な見所をまず挙げるとすれば、作り込まれた世界観描写だろう。
舞台となるのは、1950年代に近いテクノロジーを持つ、現実の世界とは異なる別世界の地球に似た惑星。軍事的に対立するオネアミス王国と共和国は、本格的な戦争状態には突入していないながらも、軍事衝突がいつ起きてもおかしくないギリギリの状態が保たれており、軍事開発が積極的に行われている世界が描かれている。レシプロ戦闘機からジェット戦闘機へと移行しようとする程度に軍事技術が発達し、本編で描かれる有人宇宙飛行が技術的に可能なテクノロジーレベルが背景にありながらも、建築、都市開発、文化、風習、テレビや電話といった家電、自動車やバイクなどの乗物、鉄道などの交通インフラ、軍服や宇宙服に一般生活の衣装に至るまで、我々の住む現実世界とは異なるデザインや方向性の異なる機能が施され、現実世界とは似て非なる、もうひとつの架空の世界が完全に構築されている。

細部までこだわり抜いて作り込まれた世界は、映像の端々まで驚くほど精密に描き込まれていたことは当時から話題ではあったが、4Kリマスター化によって、これまでのソフトパッケージなどで見ることができなかった、描き込まれた世界を彩る背景や小道具たちがより鮮やかに浮かび上がる。その精細さは、かつて観た『王立宇宙軍』という作品の印象を大きくアップデートさせ、世界をより拡大させたような印象にさえなる。
そして、その緻密さはアニメーションとして動く、キャラクターやメカニックの描写にも行き届いている。キャラクターのアクションに合わせてなびく複雑な装飾が付いた衣装。クライマックスのロケット発射シークエンスに合わせた機器のボタンやスイッチを動かす描写。ロケットを支える支柱やコードが外れ、外壁から剥がれ落ちる氷の欠片が落下していく様子など、画面に映し出される作画はどこにも「妥協」を感じることがなく、アニメーションで描かれた本当の世界が存在し、我々はそのドキュメンタリー映像を見せられているような精緻(せいち)ささえ感じてしまう。

4Kリマスターの恩恵は、当時夢を追っていた若者たちが、一切の妥協をせずにこだわり抜いた情熱さえも映像越しに、ある種の「気迫」として伝えることに成功したと言えるだろう。
高画質にアップデートされた映像に対して、劇場公開される4Kリマスター版の音声は、1997年のサウンドリニューアル版ではなく、1987年のオリジナル版を使用している。坂本龍一が中心となって手掛けた静謐な音楽、主人公・シロツグを演じる森本レオの柔らかい中に強さを秘めた声音、世界を彩る環境音。それらは映像に負けることなく世界を描き出す役割を担っており、35年前時点での音響的な完成度の高さにも改めて感心させられる。

高精細だからこそ伝わる、物語に込められた思い

こうしたテクニカルな部分でのクオリティの高さについ目が行きがちではあるが、物語に関しても現代の視点から観ると新たに感じ入る部分もあった。
戦わない軍隊として見下される宇宙軍に所属し、特に目的も無く自堕落に日々を暮らす、主人公のシロツグ。そんな彼が街で神の教えを説く少女リイクニと出会うことで物語は動き始める。「戦わない軍隊が、星の世界を目指す」それは素敵なことだとリイクニに言われたシロツグは人類最初の有人宇宙飛行士として志願し、その前向きな姿勢は周囲を巻き込み、止まっていた宇宙飛行計画を始動させる。
シロツグとリイクニの関係性を軸に描かれる世界は、保守的な国家、軍拡には力を入れながらも、世間には失業者が溢れ、弱き者が貧しく虐げられている。新たな目的を成就する心に目覚めたシロツグは、「役に立つかどうかわからないロケットを作るなら、そのお金を貧困者に回せ」という現実的な状況も突きつけられる。さらに、ロケット発射する宇宙飛行計画自体も戦争の道具となってしまう。
人の持つ叶えたい夢は、他人にとっては止めるべきものや、無駄や邪魔なものとして捉えられてしまうかもしれない。しかし、それでもやり遂げることに意味がある。無謀とも言える若者たちによる劇場映画制作という大きな打ち上げ花火は、劇中のロケット発射へかける思いや取り巻く状況と同じく、実現は困難であり他者から否定されることであったかもしれない。精緻に積み上げられたディテールと物語に込めた思いがリンクするラストは、より鮮やかに細部を伝える映像によって、説得力を増したのかもしれない。

昭和のアニメ少年たちが成し遂げた、「奇跡」とも言える偉業である『王立宇宙軍』。今や業界を牽引するにいたったスタッフたちの名前は知りながらも、彼らが当時の全力を込めた作品は、これまでこの作品に触れてきたことが無い世代にはどう映るのか?
4Kリマスターにアップデートされ、最高の形で後世に残せることになったこのタイミングは、新しい世代が伝説として語り継がれるこの作品に触れる絶好のチャンスである。当時からのファンはもちろん、少しでも『王立宇宙軍』が気になるのであれば、ぜひ劇場で、しっかりと映像に残り続ける、あの頃の情熱を体感してみて欲しい。

PROFILE

石井 誠(いしいまこと)
1971年生まれ。茨城県出身。ホビー、アニメ、映画、特撮、アメコミ、漫画、ミリタリー、サブカル系コンテンツをメインフィールドにしているフリーライター。著書に『マスターグレードガンプラのイズム』(太田出版)、『安彦良和 マイ・バック・ページズ』(太田出版、共著)などがある。

<公開情報>

2022年10月28日(金)より劇場公開!
劇場情報はこちら

 

<発売情報>

王立宇宙軍 オネアミスの翼
4Kリマスターメモリアルボックス
(4K ULTRA HD Blu-ray & Blu-ray Disc)【特別限定版】


15,000円(税込)/BDOT-0267

2022年10月28日:上映劇場にて最速先行販売
2022年11月4日:A-on STORE、A-on STORE プレミアムバンダイ支店、EVANGELION STOREにて販売
※特別限定版は数に限りがございます。無くなり次第終了となりますのであらかじめご了承ください。
※特別限定版は、上映劇場ならびにA-on STORE、A-on STORE プレミアムバンダイ支店、EVANGELION STORE 以外での販売は予定しておりません。



王立宇宙軍 オネアミスの翼
4Kリマスターメモリアルボックス
(4K ULTRA HD Blu-ray & Blu-ray Disc)【通常版】


14,080円(税込)/BCQA-0016
2022年11月25日:一般流通にて発売

 

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