沖浦啓之監督、西尾鉄也登壇! EMOTIONレーベル40周年企画『人狼 JIN-ROH』舞台挨拶付き初DCP上映会レポート
押井守原作・藤原カムイ作画の漫画「犬狼伝説」をもとに、Production I.Gが手掛けたオリジナルアニメ『人狼 JIN-ROH』は、公開から23年が経った今も世界中で熱狂的に愛され続ける人気作。本作が封切られたテアトル新宿にて、2023年12月3日(日)、『人狼 JIN-ROH』舞台挨拶付き初DCP上映会が行われた。本編上映後の舞台挨拶には、監督の沖浦啓之さん、キャラクターデザイン・作画監督の西尾鉄也さんが登壇し、司会進行はアニメ評論家の藤津亮太さんが務めた。貴重な話が飛び出した当日の模様をレポートする。
劇場公開までに時間を要した『人狼 JIN-ROH』
『人狼 JIN-ROH』初鑑賞となった方、映画館の大スクリーンで初めて観る方、当時からのファンなど様々な観客からの熱い反応に、沖浦監督は感謝を述べ、西尾さんは「色々な年齢層の方がいて、愛されていることを感じます。チケットも即日完売だったようなので、まだまだいけるな(笑)」と率直な想いを語った。DCP(デジタルシネマパッケージ)化について、沖浦監督は「上映の機会が少しでもあれば観ていただくことも増えるわけですから、嬉しいです」とコメント。西尾さんは「当時はこれが良い作品になると信じて、長期間、汗水垂らして頑張ったので、時を経ても流されずに残り、スクリーンで観てもらえることはありがたいです。これからの励みにもなります」と語った。映像完成から2000年の劇場公開まで時間がかかった当時について、沖浦監督は「実を言うと、ほぼお蔵入りになりかかっていて。その土俵際で、当時バンダイビジュアル(現:バンダイナムコフィルムワークス)にいたある宣伝の方が参加することになり、その方の人脈であたってくださった結果、テアトルさんで上映してもらえることになったそうです。完成から1年半も経って、ようやく日の目を見ることができたので、そういう意味でも感慨深いです」と当時の裏話を明かした。さらに、「公開初日、テアトルに行列ができていて、お待たせした分期待してくださった方が多かったようで、その光景を見て報われた気がしました」と続けた。
Production I.G作品に初めて関わった西尾さん、当時の心境は?
作品への参加経緯について、西尾さんは「Production I.Gはクオリティの高い作品を出している皆が憧れるスタジオというイメージがありました。当然、沖浦さんの名前は知っていたので、新作の噂を耳にした時に末席でもいいから参加したいなと思っていたら、(連絡が来て)作画監督をやってほしいと言われたので腰を抜かしてしまいました」と当時の驚きを明かした。続けて、余りの緊張に顔合わせのミーティングの日を1日早く間違えたというエピソードを披露し、場内は笑いに包まれた。作品の内容について、沖浦監督は「原作に寄せると組織を描く群像劇になりそうだったので、主人公の動きを追いかける作品にしてほしいとお願いしました。(本作の脚本を担当した)押井(守)さんのプロットが上がってきた時に男女の話になっていて、自分は恋愛要素にあまり興味がなかったので懐疑的な立場でしたが、実際に作る段階になってからはあって良かったかなと思いました(笑)」と語った。
リアルで自然なアニメーション表現の難しさ
自然なリアルさを感じさせる作画について、西尾さんは「キャラクターが目鼻立ちのハッキリしていない、いわゆる日本人的な造形になった時点で、今までの方法論が通用しなくなった感じがありました。大げさに描くと途端に漫画に戻って、キャラクター性と乖離してしまうので、実証主義で作画をしていきました。(雨宮)圭がすべり台を滑って砂場に降りるシーンも沖浦さんに実演していただきました」と制作の裏側を明かした。その後も背景で落ち葉が落ちていくシーンなど、沖浦監督のこだわりについて西尾さんが語った。沖浦監督も「確かに落ち葉は好きかもしれない。最近、『鹿の王』(※2022年公開『鹿の王 ユナと約束の旅』作画監督補佐で参加)でも落ち葉が出てきたんですが、やはり一生懸命描きました(笑)」と、自覚していた。さらに、リアル志向のアニメーション表現について、沖浦監督は、『人狼 JIN-ROH』公開後に観たというラルフ・バクシ監督のアニメ映画『アメリカン・ポップ』(※1981年北米公開、1996年日本公開)を引用、自分たちがやろうとしていることの完成形が描かれていたというエピソードを語った。
今後の上映に期待
舞台挨拶も終わりの時が近づき、最後は来場したファンに向けてメッセージ。「入場者特典は腕をふるってイラストを描きました。」と西尾さん。「作品を初めて知った方もいらっしゃるようなので、これから作品の寿命が少しでも延びてくれればいいなと思っております。また機会がありましたらぜひお願いします」と沖浦監督。今後も各地での上映を期待したい。
左から藤津亮太さん、沖浦啓之監督、西尾鉄也さん
イベントに駆けつけた、伏 一貴役の藤木義勝さんも一緒に記念撮影
©1999 押井守/BANDAIVISUAL・ProductionI.G