回顧展「描く人、安彦良和」開催記念!『クラッシャージョウ』上映 アフタートークレポート
6月8日(土)より兵庫県立美術館にて回顧展「描く人、安彦良和」がスタート。この展覧会は、漫画家、キャラクターデザイナー、アニメーション監督として長年活躍してきた安彦良和さんの創作活動の足跡をたどることができる1400点以上の貴重な資料が大規模展示となっている。
回顧展の関連イベントとして、6月9日(日) 109シネマズHAT神戸にて、安彦さんの初監督作品『クラッシャージョウ』(1983年公開)のアフタートーク付き上映が行われた。ゲストとして安彦さん、原作者の高千穂遙先生、ヒロイン・アルフィンを演じた声優の佐々木るんさん、開催中の回顧展から兵庫県立美術館学芸員である小林公さんが登壇。佐々木さんを進行役に、本作の原作や劇場アニメの裏話、展覧会の舞台裏まで、ユーモアたっぷりに繰り広げられた。その上映後アフタートークの模様をレポートする。
『クラッシャージョウ』※アフタートーク付き上映
●日時:2024年6月9日(日)11:00-14:30
●会場:109シネマズHAT神戸・シアター9
●出演:安彦良和(監督)、高千穂遙(原作)、佐々木るん(声優)、小林公(兵庫県立美術館学芸員)
『クラッシャージョウ』上映 アフタートークレポート
1977年に発表された高千穂遙先生の同名SF小説シリーズ『クラッシャージョウ』。「クラッシャー」と呼ばれる「宇宙の何でも屋」たちの活躍を描いたSF冒険活劇で、すべてのカバーイラストと挿絵を当時アニメーターだった安彦良和さんが担当した。その安彦さんが初監督作として手がけたのが、1983年公開の劇場アニメ『クラッシャージョウ』。安彦さんは監督に加えて、脚本、絵コンテ、キャラクターデザイン、作画監督を兼任した意欲作。
チケット販売早々に完売となったアフタートーク付きの本編上映が終了。場内は、40年前の興奮をよみがえらせた往年のファンと、はじめて大スクリーンで同作を鑑賞し興奮が抑えられない若い世代の熱気に満ちていた。わずかな休憩を挟んで、安彦さん、高千穂先生、佐々木さん、小林さんが登場しトークショーがスタート。先ほどまで場内に響いていたアルフィンの声の主である佐々木さんが司会進行を務めるため、トークショーは本作の世界の延長線のような錯覚をおぼえる。
まずは高千穂先生から、原作小説のイラストで安彦さんを起用することになった時のエピソードが語られた。「当時、私はスタジオぬえという会社をやっていまして、イラストレーターやメカデザイナーも所属していたんです。でも『クラッシャージョウ』の小説の担当編集にイラストをどうするか聞かれたときに、『安彦良和という人がいまして、私は彼が描くキャラクターを思い浮かべて書いていたんです。なので彼じゃないと困るんです』と言いました」と小説執筆時から安彦さん一択だったとのことが明かされた。ところが「彼がアニメーターとして働いていたサンライズ(現:(株)バンダイナムコフィルムワークス)に行って『小説の画を描いてもらえませんか』と言ったら(安彦さんに)『嫌だ』と即答されて」に場内はクスクス。「(安彦さんは)『アニメーターの絵なんてのは、パパっと描いて、それがセルになって、テレビ画面で流れて、それでおしまい。そもそも世に残すものじゃないんだ。だから(小説として)印刷なんかして残ったら困る』って散々言われていたんですよ。それがなんですか。今や美術展ですよ」とあきれる高千穂先生に会場は爆笑。そして一度は固辞した安彦さんだが、同じサンライズで制作スタッフとして働いていた高千穂先生の奥さん(とは知らず)から「ウチの旦那が小説を書いたから挿絵描いてくれない?」のひと言で即OKしたとのこと。その後も、ペン入れ未経験の安彦さんのため、画稿を鉛筆描きでOKにしたり、スクリーントーンの貼り方を教えるなど、アニメーター・安彦良和のイラストレーターや漫画家としての才能は高千穂先生の挿絵起用によるところが大きいと明かされた。
続いて佐々木さんから「劇場アニメ『クラッシャージョウ』では、安彦監督と高千穂先生の間でどのようなやり取りがあったのですか?」との質問が出された。安彦さんは「この作品の前に『機動戦士ガンダム』の劇場版という総集編を作って、これが当時としては当たったんです。そうしたら会社が、長編(映画)で儲かった儲かったと喜んでしまって。でもそれは違うでしょと。当時はね、長編作って1人前(の会社)みたいな、そういう空気があったんです。だから長編作るべきだって言ってたんです。そうしたら『クラッシャージョウ』をやろうと当時の社長が言って。ま、(会社には)演出の先輩、富野(由悠季)さんとか高橋良輔さんとかがいるので、誰かがやると思ったんです。そうしたら『お前がやれ』と社長に言われて」と回想する。「困ったのは、やっぱり高千穂という厄介な存在(笑)。あいつは必ず色々言うぞと。だから何度も辞退したんですけど、結局やるハメになって」と安彦さん。案の定、制作中は色々とあったそう。高千穂先生は「シナリオの第1稿が安彦さんから来るんですよ。それを私の方で書き直して戻すんです。それに対して安彦さんも書き直して戻してくる。そんなことを何度かやっていると、いつの間にか安彦さんから『(時間的に)絵コンテに入るしかなかったから』と言って絵コンテが送られてきて。その絵コンテに文句を言って返すと、今度は(安彦さんが)作画 しちゃうんですよ。そうするともう文句のつけようがなくなって。そういう感じで最終的には私が負けたんです(笑)」と楽しそうにぼやく姿からは、互いをクリエイターとして尊重し合うふたりの関係を垣間見ることができた。
終盤には「今回の展覧会準備のため安彦先生の昔の作品を掘り起こされたりされましたか?」と佐々木さんに質問された小林さんから「安彦先生の作品はどれも素晴らしいんですけど、高千穂先生もおっしゃってますように鉛筆で描かれた設定資料や原画がとにかく素晴らしいんです。展示作品の調査として安彦先生がお生まれになった北海道にお邪魔して、中学校時代に描かれた勉強ノート(の絵)を拝見できたり、安彦先生が普段出入りされていない倉庫があって、ダンボール30箱くらいから凄いもののオンパレード。その中には『クラッシャージョウ』のキャラクター・ラフの前段階のラフ画なども出てきて。これは凄いってことでぜひ展覧会で紹介しようとなりました」とファン垂涎のお宝画稿も展示されていることが語られた。その後、入場者による登壇者の撮影タイムを経て、興奮のアフタートークは盛況のもと幕を閉じた。
「描く人、安彦良和」開催概要
【会期】
2024年6月8日(土)~9月1日(日)
休館日:月曜日
※ただし、7月15日(月・祝)と8月12日(月・休)は開館。7月16日(火)と8月13日(火)は休館
【開催時間】
10:00~18:00(入場は閉場の30分前まで)
【会場】
兵庫県立美術館(神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1[HAT神戸内])
https://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/t_2406/index.html
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アニメ『クラッシャージョウ』 公式サイト
http://www.crusher-joe.net/
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