Blu-ray&DVD発売記念『この世界の片隅に』片渕監督生コメンタリー付上映会レポート
『この世界の片隅に』のBlu-ray/DVDの発売を記念して、9月23日(土)立川シネマシティ シネマ・ツー/aスタジオにて片渕須直監督生コメンタリー付きの特別上映会が行われた。
上映が終わっても、まだまだ、しゃべり足りないという監督に拍手が鳴りやまず大盛況となった上映会の模様をレポートする。
監督とともに「この世界の片隅に」を振り返る生コメンタリー付上映会スタート!
上映前に片渕須直監督が登壇し、念のため、初めて見る方がいるか問いかけてみたところ、さすがに作品や監督のファンの方が多かったようで、初見の方はごくわずかだったようだ。
上映が始まると、山や橋や町の名前や解説のほか、広島刑務所の壁が映ると、「2012年に脱獄事件があったおかげで塀の高さがよくわかった」などと、制作当時の思い出にも話題が及ぶ。「すずさんはバス代を節約して、路線の道を歩いていたのでは」という解釈からは、監督が思い描く、すずさんのつつましやかな生活感覚までもが伝わってきた。
監督自身も生コメンタリーが初の試みということで、かみしめるように語る言葉には、ひとつのシーン、一枚の絵にかけてきた時間と細やかな手仕事が感じられる。観客からは、それに呼応するようにときおり、温かい笑いやうなずきの声が起きていた。
監督と哲役・小野大輔さんのエピソードをご紹介!
すずさんが哲のふとんに足を入れるシーンにさしかかった時、監督から小野大輔さんとのエピソードが飛び出した。「あんひと(周作)に腹が立って仕方がない」と珍しく怒りをあらわにするすずさん。それを聞いた哲はすずさんの側を離れる。哲の声を演じた小野大輔さんから、このシーンの演出について監督に質問があったという。「なぜ、哲は手を出すのを止めたんですか?」という小野さんに監督は「それはね、哲がいい奴だからだよ」と答えたそうだ。すると小野さんは「僕はいままでいい奴を演じていたんですね。わかりました」といって納得したとのこと。観客からは笑いが起きつつ、監督は「哲はすずさんが幸せに暮らしているのかどうかを心配していたんです。もし、今不幸ならば、そこから、すずさんを連れ去ろうとさえ思っていた。でも、すずさんの気持ちを聞いて安心し海軍に戻っていったんです」と哲の心情を語ってくれた。
大満足の観客からは大きな拍手が巻き起こる!
最後、監督はこのような言葉で挨拶を締めくくった。
「これは世界の片隅に住む、すずさん一人のささやかな物語です。世界というのは、ひとつひとつの小さなものが寄り集まってできているものです。もっとたくさんの人たちの物語を僕たちは知りたいですし、それがたくさん自分の中に積みあがった時に、また、どんな世界が見えてくるのだろうかということが大事になってくる気がします。
すずさんはこんな風に映画の中に存在しているけど、外側にはこんなことがあってね、というのを中心に話をさせていただきました。すずさんに限らないもっとたくさんの人たち一人一人の出来事としてとらえなおして、いろんなものを組み合わせた時にどんな世界が見えてくるのだろうと心を広げていきたいと思います。今日はどうもありがとうございました」
会場全体から大きな拍手が巻き起こり、大盛況のうちにイベントは幕を閉じた。
■編集後記・生コメンタリー付上映会を終えて
生コメンタリーに初挑戦だったということもあり、監督はこういう進め方でいいのかどうか、探りながら話していたが、話す内容は作品のことはもちろん、映画の外の世界についても話題が広がっていたことが印象的だった。それに比例し観客の満足度も非常に高いイベントだったのではないだろうか。
監督のコメントで印象深かったものをここで紹介しておきたい。
監督は「この映画をひとつの覗き口のように感じている」という。本当の昭和19年・20年を垣間見る覗き口である。その外側にはその当時のいろんな出来事とか、社会とか、あるいは戦争とかがあっただろう。調べながら、あるいは想像したりしながら、その外側にもある世界まで広げて考えていった。そして、その片隅にいるのがすずさんなんだと思って作っていた、と。
<Blu-ray&DVD発売情報>
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この世界の片隅に 公式サイト
©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会