遊ぶ金欲しさに空き巣に入った家で、居合わせたカップルを衝動的に殺害してしまった青年、南木野淳。一審で死刑を宣告された彼だったが、検察と争うことを是とせず、弁護士が提出した控訴を自ら取り下げ、そのまま死刑囚として投獄される。
独房に佇む彼に突如、美しいクリスチャンの女性が面会に訪れる。川原薫と名乗るその女は、淳が殺した男性の婚約者だった。淳が忍び込み、殺人を犯したのは、その男性と、薫とは別の女性との逢引の現場だったのである。
婚約者を殺害した憎むべき男であるとともに、婚約者の不実を暴き、それを裁いた男。薫は何故か、そんな両義的な存在である淳に徐々に惹かれはじめていく。そして、幼いときから愛を知らずに育った淳も、薫によって生きる喜びを知り、ひとを愛する喜びに目覚めてゆく。厳重な監視が付く面会室で、アクリル板越しでしか会うことができない状況のなか、互いに求めあう二人は、薫が差し入れる聖書に小さな文字で書き込みをし、互いの思いを伝えあう「秘密の通信」を開始する——