インタビューココだけ | さよならの朝に約束の花をかざろう
大ヒットオリジナル感動巨編!『さよならの朝に約束の花をかざろう』岡田麿里×橘内諒太スペシャルインタビュー[前編]
大ヒットアニメ作品『あの花』『ここさけ』の脚本を担当した人気脚本家・岡田麿里の初監督作品として大きな注目を集めた劇場アニメ『さよならの朝に約束の花をかざろう』。2018年2月24日より全国の劇場で公開され多くの観客が涙した感動作が、豪華特典を満載したBlu-ray&DVDで好評発売中! そこで今回は、監督の岡田麿里さんとP.A.WORKS制作デスクの橘内諒太さんを直撃。作品への想いから制作裏話まで飛び出したインタビューの模様を前後編2回に分けてお届けする。
作っている時は必死で、作品をどう受け止めてもらいたいかとか、 こうなったらいいなとか、想像する余裕すらなかった [岡田]
──本作『さよならの朝に約束の花をかざろう』(以下『さよ朝』)は岡田さんにとって記念すべき初監督作品となりましたが、今、改めて思うことがあれば教えてください。
岡田作っている時は必死で、ひたすら走るしかなかったです。作品をどう受け止めてもらいたいかとか、こうなったらいいなとか、想像する余裕すらなかった。目の前にある課題で、常にパンパンだったので…。完成して多くの方に作品を観て頂き、その反応に触れることができて、やっと「これを求めて走ってきたんだな」って実感できました。一緒に走ってくれたスタッフには、本当に感謝しています。
──橘内さんは制作デスクとして参加されていますが、どのようなことに携われていたのですか?
橘内『さよ朝』では作品全体が7パートに分かれていまして、そのパート間のスケジュール調整や各セクションとの調整が制作デスクの主な仕事でしたが、この作品では制作デスクが通常やらないようなイレギュラーなことが多かったですね(笑)。
岡田橘内くんが制作デスクを担当したのは、この作品が初めてだったんだよね。
橘内そうですね。
岡田会社(P.A.WORKS)に入ったばかりだったよね、入ってどれくらい?
橘内この作品に関わることになったのは、まだ入って2ヵ月くらいだったと思います。その時はまだラインプロデューサーの堀川(憲司/P.A.WORKS代表取締役)しか制作で動いている人がいなかったので、堀川のお手伝いという形で入っただけだったんですけど、その後なぜか制作デスクになることに。
岡田入ってすぐの作品でデスクって、本当に異例中の異例。普通は、制作進行をしばらくやってそれで初めてなれるものですからね。橘内くんも『さよ朝』の仕事内容が普通じゃないってことに後から気付いたと思うんです(笑)。
橘内そうなんですよ。最初は堀川の指示で動いていたので、それが制作の仕事だと思って作業をしていましたが、後から他の制作の人たちに「これは制作がする仕事ではない」と言われました(笑)。
岡田今まで仕事を一緒にしてきたP.A.WORKSの制作で、『さよ朝』をやりたいと言ってくれた子も多かったんです。そのうえで、堀川さんは「橘内を制作デスクにする」と。どうしてかなと思っていたんですが、作業が始まってみると凄く信頼できる制作で。橘内くんはもともとアニメ業界に入る前、テレビ関係の仕事をしていたんだよね。
橘内はい。某高校生がメインのクイズ番組などのADをしていて、地上波で流れるPRスポットの映像編集をしたり、収録の準備をしていたりしました。
岡田他の業種で頑張ってきた子が、新しい仕事に挑戦しようとしている。私も初めての監督で悩んでいたところだったので、橘内くんの頑張る姿を見て励まされたんです。
完成したのは納品当日の早朝で、その頃にはヘロヘロになっていたので、 気付いたら寝落ちしていました(笑) [橘内]
──『さよ朝』では映像の作業も担当されたそうですね?
橘内自分がやらざるを得なかったというか…(笑)。自分が『さよ朝』に関わり始めてすぐのことだったと思います。まだコンテしかなかった時に、岡田さんも初めて監督をされるということで、最初にコンテを繋げた映像を作ったほうがいいのではないかという話になったんです。副監督の篠原(俊哉)さんは他の作業でお忙しかったので、篠原さんに指示を頂きつつ自分が作りました。
岡田本当に助かりました。私は脚本家なので、どうしても脳内でまわっている映像はキャラクターに寄ってしまうんです。声や仕草に重きを置くと、間や尺が重要になってくるので、ビデオコンテがあると凄く分かりやすい。その後は編集の高橋(歩)さんにお願いして、いろいろと微調整して頂きました。高橋さんチョイスの曲を仮で入れてくださったりして、それがハマっていてビデオコンテの段階でグッときました(笑)。
──制作を進めていく中で、印象に残っているエピソードなどがあれば教えてください。
橘内先ほどの話に通じるところもあるのですが、やっぱりイレギュラーなことがいろいろあったので、そういう意味では他にも印象に残っていることはあります。例えば、コンテの製本。堀川から「全てのパートのコンテが決定稿になったところで、製本するからよろしく」と投げられたんです(笑)。
岡田コンテが製本されるなんて、少なくとも私は見たことなかった。普通は、コピーされたものをホチキスで綴じるくらいで。
橘内それを、関わってくれる全てのスタッフに渡すことになったんです。AD時代にお世話になっていた印刷業者さんに連絡をして、なんとか引き受けて頂きました。ただ、校正用の印刷物とデータが送られてきたので確認してみると、内容が分からないくらい濃度が薄かったんです。これだと仕事に使えないということで、コンテがどういう使われ方をするのか説明したり、見やすいコンテにするために印刷業者さんのところに何回も通って、なんとか完成させることができたんです。
岡田コンテが製本されるって、個人的にはそこまで必要なのか分からなかったんです。橘内くんも大変だし、私も製本のためのコンテチェックを別にしなきゃいけなくて、もう紙でいいじゃないかって(笑)。でも、できたらやっぱり嬉しいんですよ。特に劇場は長丁場なので、完成したものがあるっていうことが、スタッフのテンションを大きく左右するんだなって感じました。
橘内渡しに行くと、スタッフの皆さんに喜んでもらえたのが嬉しかったです。
岡田あと、デスクの仕事ではなくクリエイターの仕事として橘内くんに助けられたのは、オープニングとエンドロール。本来ならデザイナーさんに頼むものなんですが、いろいろあってお願いできなかったんです。なので、最初は黒ベースに文字が流れるだけのものだったんですが、美術監督の東地(和生)さんが「こんなエンディングでは作品が可哀相だ!」と。でも、現場は追い込みで誰も動くことができなくて、橘内くんが中心になって作業してくれたんです。
橘内あれはなかなか過酷でした(笑)。堀川、岡田さん、東地さん、石井(百合子/キャラクターデザイン&総作画監督)さんで会議をして。東地さんに今までに出てきた場所の背景を使って、エンドロールの後ろに配置する絵を作ってもらったんです。でも、皆でそれを見たけどしっくりこない感じで。その時に岡田さんが「冒頭の織機のカットはどうかなー」って言われたんです。自分と東地さんで「それだ!」ってなったような覚えがあります。
岡田あの織機のカット、凄まじい労力がかかっているんですよ。メインアニメーターの井上(俊之)さんが何枚も何枚も絵を描いてくれて、それを東地さんが細かく調整してくれて。その凄まじいカットが使われるのが、ほんの数秒というのももったいなかったし(笑)。織機の繰り返しの動きをずっと流しておくことで、時間の流れを表現できるんじゃないかと思ったんです。それから、文字フォントも橘内くんがいじってくれたんですよ。納品の直前まで粘ってくれた。
橘内はい。日中は他の作業に追われていたので、夜しか作業する時間がなかったですね。エンドロールの最終的な画作りはカラーグレーディングという工程で行いましたが、仮に東地さんから頂いたフィルターを使用してシミュレーションしたり、テロップの出し入れのタイミングなどいろいろ調整して、完成したのは納品当日の早朝だったと思います。その頃にはヘロヘロになっていたので、気付いたら寝落ちしていました(笑)。
岡田頑張ってくれたおかげで、エンドロールまで大切なシーンになりました。
私はある時期から、誰かにちょっとだけ食い込める作品が作りたいなって 思うようになったんです [岡田]
──橘内さんは岡田さんを様々な面でサポートされていたと思いますが、近くでご覧になっていて、どんな印象をお持ちになられましたか?
橘内最初の頃はスタッフの方に遠慮している部分もあったのかなと。でも、作品が進行する中で的確に指示を出されていたと思います。アニメの画作りに深く関わるのは今回が初めてだったと思いますし、世間の人からするともともとライターの方なので、本当に監督としての仕事をやっているのかと思う人もいるかもしれないですけど、きちんと監督としての仕事をされていて、本当に凄いなって思っていました。
岡田いや、橘内くんが言ったみたいに最初は手探りでした。「岡田さんには分からないだろうけど」って言われると、「そうだよな、私は分かってないから」って引き下がってしまっていたんです。けど、だんだんと変わっていった。スタッフの誰もが良い作品にしたいと願ってくれている、じゃなかったら参加してくれるはずないんだから、納得できるまでぶつかろうと思ったんです。
橘内やっぱり最初に作品の世界観を把握しているのはライターの方だと思うんです。オリジナル作品の場合だと特に。なので、東地さんとチェックしている時に「こうじゃないんだよね」みたいなことを仰っていて、脚本を書いている時点で岡田さんの頭の中には絵のイメージがあるんだろうなと思いました。
──逆に、岡田さんから見た橘内さんはどんな印象でしたか?
岡田めちゃくちゃ作品を愛してくれている人(笑)。劇場はカット番号も膨大なのに、「このシーンはカットいくつだっけ?」と聞くと、橘内くんがすぐに出してくれるんです。
橘内ほぼ全ての打ち合わせに参加していたので、いつの間にかカット内容とカット番号は大体一致して覚えていましたね。
岡田当たり前だけど、監督って誰より作品を信じてなきゃいけないと思うんです。そうじゃなきゃ、関わってくれるスタッフに失礼だから。だけど、やっぱり経験が少ないので、怖くなってくることもある。そんな時に「誰がなんといっても、この作品が俺は好き」と言ってくれる子がいるのが、本当に大きかったんです。橘内くんは私が脚本を担当した作品を見て、アニメ業界に入ってきてくれたとも言ってくれていたので、へたれたところを見せられないなと思っていたし。
橘内実はそうなんです。まだADをしている頃なのですが、ADの仕事もかなり大変で(笑)。正直、辛くて仕事を辞めようか迷っていたんです。自分はあまり器用なほうではなくて、目の前の仕事を上手くこなすことができず、家に帰るのがいつも深夜アニメが放送している時間帯でした。この頃はアニメに興味がなかったのですが、テレビをつけて偶然見たのが、岡田さんがシリーズ構成をしていたアニメ作品でした。ちょうど最終回で、ダイジェストのように印象に残る台詞がずっと流れていたんです。その中のある台詞が、なぜかストンと心の中に入って。気づいたら涙が流れていて、でも心はスッとしていました。後々その台詞を作ったのが岡田さんだということを教えてもらいました。たぶん、あの最終回をあのタイミングで観れていなかったら、映像業界には残れていなかったと思います。自分が今ここにいられるのは、『さよ朝』の監督の台詞に救われたからだと思って、今度は『さよ朝』のために、死ぬ気で良い作品なるように頑張ろうと思うようになりました。
岡田うん。本当に嬉しい。
橘内岡田さんが関わっている作品を窓口にして、他のアニメも観るようになりました。そんな中で“アニメは凄い”と強烈に思えた作品が、P.A.WORKS制作で、篠原さんが監督をされていた『凪のあすから』(以下『凪あす』)だったんです。はっきり言って『凪あす』を観た時はもの凄い衝撃でした。それまでアニメは、実写に勝てないと思っていたところがありました。いつかはTVドラマを作ってみたいと思っていたりしたのですが、あの世界感を作り出して、キャラクターの心の動きをとても丁寧に描いていて、とてもじゃないけどTVドラマなんて枠ではこれは到底作れないと思ったんです。
岡田『凪あす』は、私にとっても思い出深い作品です。脚本はいろんな人の意向を聞いて書くものですが、『凪あす』は自由に話を作らせてもらった。でも、脚本家の好きに書かせるって監督に負担がかかるんです。現場から問題の声があがっても、「自分がOKした」ということで脚本を庇い続けなければならないから。『さよ朝』で監督をしたことでそれを痛感して、篠原さんに改めて感謝しました。石井さんや東地さんとも、『凪あす』をきっかけに距離が近くなったんです。
橘内『凪あす』を観て、いつかこの人たちと一緒に仕事をしたいなと思うようになっていたところに、P.A.WORKSが制作進行を募集していることを知ったんです。このタイミングしかないだろうと思い、応募して入社することができました。まさか、その2ヵ月後に皆さんと一緒にアニメを作ることになるとは(笑)。自分からしたら凄い人たちばかりが周りにいるんですけど、そう思っていると緊張してしまいそうで…接する時は、普通の人と思い込むようにしていましたね(笑)。
岡田そんな努力があったとは、知りませんでした(笑)。あ、結構ショックだったのが「僕のお母さんに似ているんです」と言われたこと。「え、もうそんな年齢!?」と、思わず計算しました(笑)。
橘内すみません(笑)。自分の母親の雰囲気がミドに似ているなと思っていて、岡田さんが纏っている雰囲気も…ちょっとミドっぽいかなって(笑)。
──自分が関わった作品が、一人の人の人生を左右する、というのは凄いことですね。
岡田凄いし、怖いことでもありますね。でも、それを求めていたところもあるのかなって。私はある時期から、誰かにちょっとだけ食い込める作品が作りたいなって思うようになったんです。どんなことでもいいんです。例えば、その作品で人参が美味しそうだったから食べてみたら、人参が食べられるようになっただとか(笑)。本当に何でもいいんですけど、作品の中だけにとどまらないで、観てくれた人の生活にちょっと触れられるような作品。その願いが叶ったんだっていうのを、橘内くんを見ていて感じました。
橘内確かに(笑)。岡田さんの台詞に引っかかってしまったからここにいますし、自分自身も見て人の心の隅にでもいいので、何か残るような作品を作りたいと思っています。自分は『さよ朝』という作品もそういう作品になっているんじゃないかなと思います。
●インタビュー後編はこちら 岡田麿里×橘内諒太スペシャルインタビュー[後編]
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