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【幽☆遊☆白書 霊界通信】スペシャル対談 阿部記之(監督)×北山真理(キャラクターデザイン)

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『幽☆遊☆白書』25th Anniversary Blu-ray BOX発売記念インタビュー第3弾。今回はTVシリーズの監督を務めた阿部記之さんと、キャラクターデザインの北山真理さんによる対談を掲載。『幽☆遊☆白書』が初監督作品となる阿部さんの作品への思いや、原作連載時から本作のファンである北山さんのキャラクター愛などを語っていただきました。

「TVシリーズでここまでやるのか」と言われるような作品を目指しました
[阿部]

最初の人情路線が好きだったのですが、後からバトル編の面白さにも気付きました
[北山]
──まずは『幽☆遊☆白書』への参加経緯をお聞かせください。

阿部 フリーの演出として仕事を始めて2、3年ほど経った頃、プロデューサーの萩野(賢)さんに声をかけていただきました。当時は作品を存じていませんでしたが「面白そうですね。ぜひ、やらせてください」とお受けしました。ただ、話をいただいた時は各話演出だと思ったので、後で監督を任せてもらえると知った時は驚いたんですよ。当時はプロデューサーの間で「今回は若いスタッフにやらせよう」という話があったそうなんです。

──そして北山さんはもともと原作ファンだったそうですね

北山 月曜の朝にジャンプでの連載を読んで涙目になるのが一週間の始まりでした。でも、まさかウチの会社でアニメ化するとは夢にも思わなくて、すぐに版権イラスト専門の部署に「描きたい!」とお願いしたんです。そして商品用のイラストを描かせてもらい、それがきっかけでキャラクターデザインもさせていただきました。

──アニメ化に至る経緯は何かご存じですか?

北山 おそらく当時社長だった布川郁司さんですよね?

阿部 僕は途中から入ったので分かりません。ただ当時のぴえろは『平成天才バカボン』(1990)や『丸出だめ夫』(1991)などのギャグ作品が主流で、新路線を開拓していた頃でした。その一環としてジャンプ作品のアニメ化が企画されたのだと思います。

北山 『幽☆遊☆白書』も今でこそ冨樫義博先生の素晴らしさは周知されていますが、当時は新人だったのでスポンサーを集めるのも大変だったようです。そのため企画が難航して、他の作品に切り替える案まで浮上していると聞いた時は「冗談じゃないよー」って思いました(笑)。

阿部 その頃のアニメは代理店主導の作品が多かったんです。そんな中、布川さんが方々に尽力して。結果的に『幽☆遊☆白書』をやって正解だったので、猛プッシュしていた北山さんに先見の明があったわけです。

北山布川社長は「一番、推していたのは北山だったよ」と言ってくれますが、一番ヒットすると信じていたのは間違いなく社長でした。私はただファンとしての「好き」という感覚しかありませんでしたが、社長はビジネスとしても当たるという確信を持っていましたから。

──阿部監督が原作を最初に読まれた時の感想はいかがでした?

阿部 とりあえず本屋でコミックスの第1巻と第2巻を買って読みました。最初に読んだ時は「可愛い絵だなぁ」と思ったんですよ。でもアクション物と聞いたのに人情話だったのが不思議で、その事を話したら「その先を読め」と言われました。そしてジャンプの連載分を読んで初めて理解したんです。

──原作者の冨樫先生とはどのような打ち合わせをされたのでしょう?

阿部 最初に1、2回お会いした程度です。今でこそ原作者の方がキャラ設定やシナリオをチェックする時代ですが、『幽☆遊☆白書』の頃は先生方には連載に集中してもらうため、編集部とのやりとりでアニメを作る時代でした。

──原作サイド以外ではどのようなオーダーがありましたか?

阿部 この頃はテレビ局と広告代理店の意見が大きく反映された時代で、原作とは違うキャラクター描写は局か代理店からの要望でした。具体的な例を挙げると、幽助の母親が暗黒武術会場に来なかったのも代理店の判断です。あと最初に僕が描いたオープニングのコンテは原作初期イメージの優しい感じだったのですが、読売広告社の木村(京太郎)さんから「アクション物らしくガンガン戦うカットにしてほしい」と言われて調整したんです。その1年後くらいに「阿部ちゃん、コンテを直させてゴメンね」なんて言ってくれたのが印象的でした。

──もともと当時の時代性を反映した作品なので、アニメ化の際には色々と気を遣われたのではありませんか?

阿部 今と比べればまだ緩い時代でしたけどね(笑)。さすがに第1話から主人公が煙草を吸うのはよろしくないので飴にしました。

──北山さんはどの時点で作品に関わられたのでしょう?

北山 テロップに書かれたのは第20話からですが、実際にはそれよりも2、3話前に入っていました。デジタル処理できる今とは違い、そう簡単にテロップを変更できる時代ではなかったんですよ。当時はフィルムを焼き直さなければならなかったので。

阿部 僕らはアニメーターさんの中からキャラクターデザイナーを探すので、版権イラスト専門の北山さんは候補から外れていました。ところが編集部サイドが「せひ北山さんの絵で」と強く推してきたんです。

──キャラクターデザイナーに抜擢された時の北山さんの心境はいかがでした?

北山 「公式に絵が描けてうれしいな」くらいにしか当時は考えていませんでした(笑)。だからアニメ用の「線減らし」も意識せず、ぼたんちゃんの服に柄まで入れてしまったりだとか…。今思うと本当に申し訳ないです。

阿部 珍しいことなので、最初は戸惑いましたが、結果的には作品のヒットへと繋がりました。当時はコミックスが第6巻くらいまで出ていた頃で、男性アニメーターが描く不良らしさよりも女性らしいラインが求められていたのだと思います。

──もう一人のキャラクターデザイナーである大西雅也さんとはどのように作業分担されたのでしょう?

阿部 美形の男子や女子は北山さんにお任せして、大西さんには筋骨隆々系や怪物系をお願いしました。大西さんは『今日から俺は!!』などのぴえろ作品でキャラクターデザインを担当していた方です。

北山鴉は大西さんのキャラなんですよ。すごく格好良くて、私は魅了されてしまいました。

──決定稿に至るまでのやりとりは覚えていらっしゃいますか?

北山絵が下手すぎて監督の要求に応えられず、難しいキャラクターは大西さんが引き受けてくださったので何とかなった感じです。

阿部 原作の段階でキャラクターがしっかり描かれているので、こちらから何か要求するよりも「お願いします」という感じでした。だからリテークを何度も出した覚えもないですよ。

──既存のキャラクターをどのようにアニメ用に変換されたのでしょう?

北山「私にはこう見える」という気持ちで描いています(笑)。

阿部 北山さんは『幽☆遊☆白書』に関してはファン目線で、しかも一線を画するほど熱心なファンですからね(笑)。でも、それは作品作りで必要な事でもあるんです。

北山ただ自分以外のファンがどれほどアニメに期待を寄せていたのかは分からなかったんですよ。当時はとにかく蔵馬の人気がすごかったですよね。

──当時は女性が声を担当する事に異を唱えたファンもいたそうですね。

北山反対の署名運動まであったらしいですね。私はこの作品まで緒方(恵美)さんの声を存じ上げていませんでしたが、プロデューサーや監督さんは自信満々で緒方さんを推していたんですよ。「緒方さんが喋ってくれれば大丈夫」という印象でした。

阿部 自信満々と言うよりは、1キャラクターにそれほどのファンがつくって事にピンと来なかったんですよ。ぴえろ自体がキャラクター人気というものに頓着していなかった時代なので。もちろん今はかなり気にしています(笑)

北山あ、そうだったんですね。

阿部 最初に飛影か蔵馬のどちらかを女性キャストにしようという話があって、局プロデューサーが「それならこっち(蔵馬)でしょう」という流れになったんですよ。蔵馬自身が中性的でナイーブそうな少年だったので、僕らも宝塚の男役をイメージしたんです。

──あとアニメ版は学生服の色分けも独特でしたね。

阿部幽助の緑の学ランと桑原の青の学ランは初期のコミックスカバーで描かれた配色なんですよ。でも僕は同じ学校なのに異なる色に塗るのが嫌だったので、ジャンプ編集部に「本当にこのイメージなんですか?」と確認に行き、「こういうイメージです」と言われたので決まっちゃったんです。でも劇場版では色を少し落としています。あと蔵馬の髪もTV以外では色を少し落としました。

北山 テレビで初めて蔵馬を見た時はあのピンクが衝撃的でした(笑)。

阿部 子供向けアニメの表現としては正解なんですよ。分かりやすい色でキャラクターを区別するのは『ゴレンジャー』と同じだし、あの頃はアニメ用の色も100色くらいしかなかった時代なので仕方なかったと思います。ただ全員を黒系の学ランにしていたらヤンキー物みたいなビジュアルになって、今のように末永く愛される作品にはならなかったと思います。

──原作よりも早い段階でバトル物にシフトしたのはなぜでしょう?

阿部それも局の意向です。原作人気が定着したのはバトル物になってからなので、蔵馬と飛影も早い段階で出しました。TVアニメは視聴者を早い段階で掴む事が大事なので。

──北山さんは原作がバトル物にシフトした事が一ファンとして不満だったそうですね。

北山初期の人情路線が大好きだったので、不満と言うよりは見解の相違というか。でも布川社長に言われてコミックスを買ってきて、まとめて読んだらやっぱり面白かったんですよ。編集部さんの判断は正しかったんですね。

阿部僕も原作初期のエピソードはけっこう好きなんですよ。本当は今回の新作のうち1本はタヌキの話(「孤独の旅路!!」)をやりたかったくらいなので。

──アニメのラストはオリジナル展開でしたが、原作サイドとどのような打ち合わせをされたのでしょう?

阿部冨樫先生ご自身も原作をどう終わらせるか模索していた時期だったので、アニメの最終章をどうするかはプロデューサー同士で話し合いました。アニメをオリジナル展開で終わらせるのは難しいので、結果的にはオリジナルを挟みつつ原作に沿った形にし、幽助が何年ぶりかで戻って終わる構成でまとめました。

──監督ご自身は当時の人気をどう受け止めていたのでしょう?

阿部ネットもない時代だったのでリアルタイムでの反応は分かりませんが、近年のアニメとは比較にならないほど視聴率が高く、1年が普通だった時代に2年3ヶ月(全112話)も放送され、劇場版も作られた事から人気は察するようになりました。またアフレコ現場の出待ちのファンの多さからも感じましたね。

──阿部さんが本作で目指された事は何でしょう?

阿部「TVシリーズでここまでやるのか」と言わせることです。そこでセル画の枚数を使う演出にはこだわりました。まだ手描きなので枚数をかけると制作的にヤバい時代だったんですよ。さらには手間のかかる透過光もなるべく使いました。透過光を使うには同じカットをもう一度撮影するので、複数の透過光が連続するカットになるとカメラを何度も回すんです。その作業だけで一日かかる事もあるので、色々な光を出すアクションシーンって本当は大変なんです。そして当時若かった僕ら演出は、どこまでの無茶なら許されるかを試していました(笑)。

──無茶をやって怒られたりはしなかったのでしょうか?

阿部枚数の事ではよく怒られました(笑)。ただ、ぴえろって、そう言いながらも黙認してくれる寛容な会社なんですよ。それは今の『BORUTO-ボルト-』をやっている時も感じました。そんな会社の伝統に助けられて、若い演出家が自分のやりたいことをやって育っていきました。

──本コーナーで緒方恵美さんに取材をした時、「この作品では演出同士で競い合ってた」と仰っていました。

阿部僕は監督として僕なりの形を出し、それを受けた各話演出が「俺ならこうする」という独自の表現をし、それが上手く回って作品を高めてくれました。今日のような1クール物では作風がバラつくので好ましくありませんが、1年くらいのスパンなら話数毎に個性があった方が面白いし、個性が強くても背景も撮影も同じなのであまり違和感はないんですよ。

──北山さんはアフレコ現場にも行かれたそうですね。

阿部暗黒武術会編の桑原が寝ている幽助を起こそうとするシーン(第27話)で、桑原役の千葉繁さんが「家(うち)が火事だよーん」とアドリブを入れるんですよ。それを生で聞いて爆笑しました(笑)。

──これも緒方さんからお聞きした話ですが、音響監督の水本完さんはキャストの演技優先でOKを出すので、それに会わせて口パクのタイミングを直していたそうですね。

阿部自分はそれを普通と思っていましたし、その考えは今も変わっていません。あとキャストの皆さんはそう言いながらも合わせてくれるんですよ。それこそ自由な芝居をされる千葉さんも、まったく合わないという事はありませんでした。また絵が完成した後で直すのは大変な作業ですが、絵の進行状況が途中であれば普通に直せますからね。あの頃は完成した絵でのアフレコはほぼなかったので何とかなった感じです(笑)。

──それでは新作アニメ『TWO SHOTS』と『のるか そるか』で、久々に『幽☆遊☆白書』に関わられた感想をお聞かせください。

阿部中学生時代の蔵馬とゲストの喜多嶋麻弥は北山さんが新規に設定を起こしています。

北山蔵馬を描いている時に萩野さんが昔の設定を発見して、「もう描かなくても大丈夫」みたいな事件もありつつ、「この二人だけは最後まで描かせてほしい」と懇願して(笑)飛影に関してはそのままTV版の設定を使っています。

阿部麻弥の髪型は描き辛かったんじゃない?

北山そうなんですよ。原作を何度見てもよく分かりませんでした。

阿部おそらく当時の髪型としても流行っていた松田聖子ちゃんとかキョンキョン(小泉今日子)のイメージだと思うんですよ。あの時代を象徴する髪型ですが、さすがに今は見かけませんね。

──監督はどのような思いで新作に関わられましたか?

阿部25年周年記念企画という事で、『幽☆遊☆白書』をそれだけ長く愛して下さった方々に対し、一緒に懐かしんでもらえる作品を目指しました。当時のTVシリーズに関わった身としては全く違う『幽☆遊☆白書』を作ってみたい気持ちもあったんです。でも今回の新作で求められているものは違うと思い、あくまでTVシリーズの延長線を意識しました。それが特に顕著に出たのは『のるか そるか』で、一方の『TWO SHOTS』は今の表現や撮影方法も使っています。ただ今風にやりすぎると伝わらない部分があるので懐かしさは残しました。どちらもご覧になった皆さんが、ちょっと得した気分になってくれれば嬉しいですね。

──最後にファンに向けてメッセージをお願いします。

北山『幽☆遊☆白書』に関わっていた頃は楽しかったです。でも当時を思い出す度に体力の衰えを感じるようになってしまいました。

阿部(笑)

北山今回の新作アニメは私もまだ見ていないので楽しみです。皆さんも楽しみに待っていてください。

阿部今回のアフレコで声優さんに25年ぶりに役を演じていただきましたが、本当に25年前に戻ったように芝居をしてくださったんですよ。アフレコ中は一瞬時間が戻った感覚になったので、皆さんも同じようにタイムスリップしていただけると思います。そんな25年経っても『幽☆遊☆白書』を好きでいてくれる方がいて、さらに「今、はまってます」と言ってくれる新規ファンも増えているんですよ。このように長く愛される作品に巡り逢えた事は作り手として嬉しいですし、これが初監督作品となった事で後の仕事にも繋がりました。これも一重に冨樫先生の偉大な原作と、作品を盛り上げてくれたファンの人達、そして役を演じてくれた声優さん達のお陰です。

PROFILE

阿部記之(あべ のりゆき)
7月19日生まれ、東京都出身。1986年にスタジオぴえろ(現:ぴえろ)に入社。1990年よりフリーとして活動し、1992年に『幽☆遊☆白書』で初監督を務める。主な監督作品は『NINKU -忍空-』、『みどりのマキバオー』、『烈火の炎』、『小さな巨人ミクロマン』、『GTO』、『学校の怪談』、『東京ミュウミュウ』、『探偵学園Q』、『BLEACH』、『黒執事 Book of Circus』、『アルスラーン戦記』、『ディバインゲート』、『BORUTO-ボルト-NARUTO NEXT GENERATIONS』など。また1997年からは録音監督としても活躍している。『幽☆遊☆白書』ではTVシリーズの他に1993年公開の劇場版と新作の監督も務める。

PROFILE

北山真理(きたやま まり)
5月12日生まれ、熊本県出身。ぴえろ入社後に動画から商品用イラストの業務に転向。布川郁司社長(現:ぴえろ最高顧問)の秘書を務めた後、『幽☆遊☆白書』に関わった事でアニメーションの現場に復帰し、イラストレーターとしても活躍している。『NINKU -忍空-』、『烈火の炎』、『どっきりドクター』、『東京ミュウミュウ』などでキャラクターデザインを担当。『ふしぎ遊戯』、『赤ちゃんと僕』、『幻想魔伝 最遊記』シリーズ、『学校の怪談』、『BLEACH』、『東京喰種トーキョーグール』などの版権イラストも手がける。本作ではエンディング「太陽がまた輝くとき」で使用した写真風イラストも描いている 。

<Blu-ray BOX発売情報>

幽☆遊☆白書 25th Anniversary Blu-ray BOX 魔界編<最終巻>
2018年10月26日発売
価格:¥13,000(税抜)
■完全新作アニメーション「TWO SHOTS」「のるか そるか」を収録!

幽☆遊☆白書TVアニメ化25周年記念 公式サイト

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