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『ヒーラー・ガール』入江泰浩監督×『BIRDIE WING -Golf Girls' Story-』稲垣隆行監督 対談[後編]

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4月より放送開始となったオリジナルTVアニメの『ヒーラー・ガール』と『BIRDIE WING -Golf Girls' Story-』(※以下『BIRDIE WING』)の監督対談が実現!入江泰浩監督(『ヒーラー・ガール』)と稲垣隆行監督(『BIRDIE WING』)に、演出への想いや、オリジナル作品で大切にしていること、制作の裏話などを語り合っていただいた。今回はロングインタビューの後編をお届けする。こちらのインタビューの様子はEMOTION Label Channelでも配信中!

インタビュー前編はこちら
 
──お二人のキャリアについて伺います。お二人はもともとアニメーターから演出の仕事をされていますが、そのきっかけや演出の師匠などはいらっしゃいますか?

稲垣僕はもともと凄く小さな会社でアニメーターとしてのキャリアをスタートさせたのですが、若い時は当時話題になっていた作品に参加したくても、なかなか出来ませんでした。2~3年くらい経った頃、上司から今後作画監督やキャラクターデザインの方へ進みたいか、演出の方に進みたいかを聞かれました。基本は作画をやりたいけど、演出をやりたい気持ちの方が大きかったので、転向しました。その後は、多少作画の仕事をやりつつ、演出の仕事を重点的に行うようになりました。

──なぜ演出の仕事がやりたかったのですか?

稲垣作品に使用する音楽や演出が人の心を動かす重要な部分だと思っていたからです。絵を描く作業は凄く好きだったのですが、作品として映像を作るなら、決定権利があるポジションの演出家として、作品全体のコントロールをしたいと思い転向しました。

──演出の師匠のような方はいましたか?

稲垣特に「この人」というのはいませんね。強いて言うなら、子供の頃観ていた作品を作られた人たちです。初めて演出をしたとき、全然自分の思い通りのフィルムにならず、こんなことでやっていけるのだろうかと悩んでいたら、上司から「演出家なんて一生に一本、自分の思い通りの作品が出来るか出来ないかだよ」と言われました。それからは、一生に一本自分が満足できる作品が作れたらという思いで、今までやってきました。

──監督になって作品の見方や考え方は変わりましたか?

稲垣基本的には変わりません。映像作りには色々なアプローチの方法がありますが、水物と言いますか、出来上がったものを見届けています。大金をかけてスタッフを集めてクオリティが高いものを作っても、それが良いフィルムかどうかは違う話かなと思います。それは実写でもアニメでも同じで、満足できるフィルムを作れているかは毎日自問しているところです。

──入江さんはどういう経緯で演出家になろうと思われたのですか?

入江初めから監督をやりたいなとは思っていました。中学生の頃『未来少年コナン』や『風の谷のナウシカ』を観て、宮崎駿監督がアニメーターからスタートしているのを知り、自分もそれに倣って高校を出てアニメーターとして仕事をしていました。いずれは宮崎監督のように自分が考えたお話をアニメとして完成させたいと思っていましたが、どうやってなったらいいかさっぱり分からなかった(笑)。宮崎監督のような道を辿っている人は周りに全くいなくて。そうやって仕事を続けていく中で、演出さんの指示よりも、自分が考えるやり方の方が絶対良くなるのにという場面がどんどん出てきて。そういう思いがつのって、アニメーターを10年くらい経験した30歳くらいの時に、演出をやりたいと声を上げて、そこから演出をやる機会が増えていきました。

──アニメーターの立場と演出の立場、監督の立場で作品を見たとき、どのような違いがありましたか?

入江違いを強く意識したのは、『ヒーラー・ガール』からでした。それまでは『灼熱の卓球娘』や『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』ではアニメーターとしての視点が強くありましたが、『ヒーラー・ガール』をアニメーターの視点で考えると、ミュージカルは成立しないな、と気づいたんです。キャラクターの所作や行動よりも、「このシーンでキャラクターの心情をどう伝えるのか」がミュージカルなので、作画的な思考から演出的な思考に切り替えて、どのカットやどの表情を選択するのかを考えました。ダンスの振り付けよりも、ダンスによって何を伝えるのかが重要で、それが感情表現にも繋がります。演出的な視点で作品を作ったのは『ヒーラー・ガール』が初めてでした。

──オリジナル作品の『KURAU Phantom Memory(以下、クラウ)』の時点ではアニメーターの視点の度合いが高かったんですね。

入江『クラウ』の時はこういうアクションシーンを作りたい、という思いが強くありました。もちろん心情描写には一番力を入れましたが、こうしたかったという後悔は作画的な部分で記憶されています。今思うとアニメーター的な視点が強かったと思います。

──お二人はオリジナル作品を作られていますが、今アニメ業界の働き方やビジネスモデルが変わってきています。作り手として、どういう企画が求められていると思いますか?

入江個人的にはアニメはどの瞬間に何を作っても成立するとは思っています。漫画よりアニメは企画してから完成まで時間がかかりますから、流行を取り入れても、完成する頃には流行が終わっている可能性がある。流行は気にせず、その瞬間やりたいことをやり、どう表現すれば視聴者が飽きずに見続けられるかの方が大切ですね。

稲垣プロデューサーなどから、売れている作品を例に出してこういう作品を作ってくださいと言われますが、大抵中身を見ていないですよね。自分が納得している作品を作れていないように思います。過去の作品を超えるものを作ることが僕らの世代の課題なので、それはオリジナル作品だと思います。題材は何でもよくて、好きなものがあれば、SFでも日常でもいいと思います。

──何でもいいけれど、今の作品として面白くしようと、前に進む気持ちが無ければダメということですね。

入江流行っているからこれをやってと言われて、やるのはダメ。お題を託されて、新しいものとして視聴者に投げかける。これは何を見せられているんだろうという呆然とした瞬間と、これは永久に見ていたいと思う瞬間の2つがとても重要だと思います。これらはまさに稲垣監督の『BIRDIE WING』でそう感じました。訳が分からないけど面白いなあ、ずっと見ていたいなあと。シナリオが良いのはもちろん、どんな映像で描くかといった演出によっても、全然違うものになったと思います。視聴者の心を鷲掴みにするようなものが意図的に作れたら良いなと思います。

──稲垣さん自身は、オリジナル作品の良さや難しさはどんなところだと思いますか?

稲垣オリジナル作品の良さは、好きなことが出来ること。難しさは全部自分で考えないとダメなところです。話数のカットや、机の上に置いてあるもの一つとっても、自分で考えないと世界観を作ることが出来ないのが大変なところです。

──そういうアイディアを得るために、何か意識していることはありますか?

稲垣昔はキューブリックの作品などを観て、外連味を生むためにこういうものを置いておこうなどと常に考えていましたが、今はあまり考えず、人生経験の中からアイディアを出しています。先人たちが作り上げてきたアイディアを超える新しいものを発明するのはなかなか難しいので、今は新しいアイディアを出すよりは、その瞬間瞬間で浮かんできたものを出すように変わってきました。

──『BIRDIE WING』の中で、上手くハマった小物やアイディアはありますか?

稲垣うーんと……。(熟考する様子)

入江蛇女(ヴィペール)の乗っている車の車種とかはモデルがあったんですか?あれ凄くピッタリで好きなんです。

稲垣それはキャラクターのイメージに合わせて少し変えています。もともと車やバイクが好きなので、出てくる車はみんなイギリス車をベースにしています。

──入江監督は『ヒーラー・ガール』で上手くいった点などはありますか?

入江ミュージカルシーンはどれも意図した形で出来たとは思います。大変だったのは、玲美というキャラクターが、師匠(理彩)の話数ごとで変わる髪型を追いかけて自身の髪型を変えているところ。これは絵コンテの段階で思いつき、各話数の作画監督さんに髪型の一覧表などを渡したりしました。大変だったのですが、そのおかげで最終回のアイディアに繋がったので、髪型が変遷する中で上手くキャラクターを育てていけたなと思いました。

──稲垣監督は『BIRDIE WING』の前半で上手くいった点はありますか?

稲垣自分の中ではここが上手くいったという実感は特になかったのですが、ネットの反応が思った以上に良かったですね。一つのカットやシーンに対してではなく、全体を通して上手くいったと思います。視聴者の反応によって次の仕事に繋がるので、作っている間はこれで良いのか、放送するまで不安でした。

入江1クールが始まった段階で、放送のストックは何話分くらいあったんですか?

稲垣絵コンテも含めて結構あったと思います。一人作業が多く、結構そこが孤独でした。

入江オリジナル作品は人気の指標となる作品がなく、何を指針にしたらいいのか、作っている最中に徐々に見えてくるものなので、きっと不安な時期は長かったと思います。

──オリジナル作品を作る際、監督自身のイメージをどのようにスタッフに説明していますか?

入江自分の場合は絵コンテをムービーにして自分で仮の声を当てたり、ミュージカルシーンは既存の曲を入れたりしたので、スタッフに指示する際にとても役に立ちました。共通の情報として提示できたのは安心できました。

稲垣僕も入江さんのような作り方をしたいなと毎回思うんですが、そこまですると自分でもフィルム(の完成形)が見えてしまって、予想外の化学反応がないのが面白くないかな、とも思ってしまって。単純に面倒くさくてやっていないというのもあるのですが(笑)。もっとこうしたらいいんじゃないか、というアイディアがスタッフからも出てくることを大切にしています。

──最後に、ファンの方へメッセージをお願いします。

入江『ヒーラー・ガール』が完結して、多くの方に観ていただき、とても嬉しく思います。最終回まで観て、また1話から見直したときに違う印象を持つような物語になっていると思います。何回も作品に触れていただけたら嬉しいです。

稲垣今『BIRDIE WING』のSeason 2を作っている最中ですが、イヴと葵がこれからどうなっていくのか、続きが気になる方は期待して待っていただけたらと思います。これからSeason 1 のBlu-ray BOXが出るのですが、いっぱい予約していただけると特典が増えるらしいので、皆さん買ってください(笑)。Season 2はびっくりする展開も待っていますので、よろしくお願いします。

PROFILE

入江泰浩(いりえ やすひろ)
1971年3月30日生まれ。主な監督作品に『CØDE:BREAKER』『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』などがある。監督を務める傍ら、日本アニメーター・演出協会(JAniCA)代表理事も務める。

PROFILE

稲垣隆行(いながき たかゆき)
1972年11月30日生まれ。主な監督作品に『砂ぼうず』『ジュエルペット サンシャイン』『ちおちゃんの通学路』『タイムボカン24』などがある。

インタビューの前編の様子はBN Picturesチャンネルで配信中!

インタビューの後編の様子はEMOTION Label Channelで配信中!

<Blu-ray BOX発売情報>

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2022年10月28日発売(※2022年8月21日受注締切)
税込価格:¥33,000+個別送料¥600
品番:BCTJ-0780

▼TVアニメ『ヒーラー・ガール』公式サイト
https://healer-girl.jp/
▼TVアニメ『ヒーラー・ガール』公式Twitter
@HealerGirlAnime

▼TVアニメ『BIRDIE WING』公式サイト
https://birdie-wing.net/
▼TVアニメ『BIRDIE WING』公式Twitter
@birdiewing_golf

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