インタビュー | 機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
10月放送新番『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』谷口廣次朗×小川正和スタッフインタビュー
2015年10月より放送が始まるガンダムTVシリーズ最新作『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』。いくつもの驚きを用意する同作だが、それはすべて「今を生きる若者の共感」を得るためだという。本作誕生までを二人のキーマンが語る。
視聴者に嫌われない程度にシリアスな感じで
──長井龍雪監督と脚本・岡田麿里さん起用のいきさつは?
谷口廣次朗(以下、谷口) 小川プロデューサーと長井監督、キャラクターデザインの伊藤悠さんで進行していた企画で、実は『機動戦士ガンダムAGE』(以下AGE)の前から進めていたんですよ。
小川正和(以下、小川) 『機動戦士ガンダム00』(以下00)の後企画で私がやることになりまして。十代、二十代の若者向けということだったので、長井さんがいいと思いました。キャラクター描写もしっかりやらないと今のファンは面白いと思いませんし、単にメカを出せばいいというわけでもありませんから。人物、特に若者の描写という点で長井さんは適任だったんです。それで二人で会って話をして、キャラクター原案の伊藤さんを集英社の方に紹介してもらったのですが、そこに『AGE』の企画が先行することになり、本作は一旦休止になったんです(笑)。脚本家は、企画が休止する前はなかなか決まらなかったんです。まだ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』の前でしたから。その後、企画が再始動したときに、脚本を誰にするか監督に相談したところ「『あの花』で組んだ岡田さんなら互いに意見をぶつけあえていい」とおっしゃったので岡田さんにオファーしたんです。
──主人公の所属は軍ではなく民間警備会社ですね。
谷口 主人公たちがグループで戦っていくというのは当初から考えていた部分です。ストーリーが進んでも軍隊に入ることはありません。彼らは兵士ではないので、別に戦争に参加するわけじゃなく、ただ生きるために、日々の糧を得るために地球を目指します。その中で否応なしに戦うことになるわけです。
小川 逆に、そこが狙いのひとつなんです。今の十代、二十代の視点に合わせると、地球連邦軍なんて大きな組織の中で物語を描くよりは、仲間たちの小さな集団の中で彼らがどう生きていくのかを描く方が現実味があるんじゃないかと考えたんです。だって今の若い人には「地球のため」とか「国のため」なんてあまり現実的じゃないでしょ。
谷口 『オルフェンズ』の世界は非常に厳しい世界ですが、主人公の三日月・オーガスたちは、いつも陰鬱とした顔で過ごしているわけではなく、笑顔になるために毎日を頑張って生きているんです。仲間たちと楽しく生きたい。これって今の若い人と同じなのかもしれませんね。

──作風はライトなテイスト?
小川 いえ、視聴者に嫌われない程度にシリアスな感じで。これが難しくて、専門用語ばっかり入れすぎると敷居が高くなって新しい方が見てくれないですし、かといって簡単にしすぎると『ガンダム』としてどうなの?ってことになる。『ガンダムビルドファイターズ』をやったのもタイミング的に良かったと思います。あの作品は、ガンプラだからこそライトなユーザーも入りやすかったので。ですが、今回は『ガンダム』という枠の中で作る以上、ある程度、若者に受け入れられるシリアスなストーリーじゃないと失敗してしまいます。でもシリアスすぎるのも今はあまりよくなくて、富野由悠季監督が『機動戦士ガンダム』や『機動戦士Zガンダム』などを作られた時代と違って、今の人のアニメに対する考え方や見方は変わってきていますから。昔のように大人に対して子どもの意見や意志が激突するといったものではなく、彼らの理想の空間を作るのがいいんじゃないかと。もちろん戦場の中にいることが理想というわけではなく、その中で彼らがどう生きていくのか、どう切り抜けていくのかというのを、もう少し簡単な視点で描いた方が、今回はいいんじゃないのかなと考えています。
谷口 今は、説教くさいアニメを作っても、見たくないでしょうし、我々が説教するのもおこがましいですしね。だから「こういう世界もあるんだ」「このキャラとこのキャラのやり取りが面白い!」と思っていただけることを描写して、実際に見て、感じてもらいたいですね。
他の『ガンダム』を意識しすぎず自然体で
──ガンダムフレームの案は?
小川 実はモビルワーカーみたいなメカがコアファイター的な物に変形して装甲がくっつく、みたいなものをメカデザインの海老川兼武さんと話していたんですよ。でも『AGE』で手足の付け替えといったものをやっちゃったんで、再構想していたんです。
谷口 一時期は頭や腰だけがモビルワーカーに、という案もありましたけど、そこから二転三転してフレームシステムになり、相手の装甲を奪って換装していくような構造が出来上がっていきました。

──舞台が火星の理由は?
小川 舞台を火星に選んだ理由も、観る人が共感できるかどうかなんです。地球に近くて遠い存在で、物語としてやりやすいというのがひとつ。あと月だと、みんなのイメージが固まっているじゃないですか。あれをテラフォーミングして住めるようにしましたって言っても微妙でしょう。
谷口 さらに木星とか土星だと現実味が全くないですし、他のガンダムで出てきているので、そっちに引っ張られてしまいますからね。それならば火星に、となりました。
──目標は新たなガンダムのスタンダード?
小川 それは思っていませんね。『ガンダム』って35年以上の歴史があって、既存のファンも大勢いて、それぞれの世代で好きなシリーズも違いますからね。だからそういった方々にまず見ていただいて、受け入れてもらうところから始めないといけない。これは『ガンダム』だからこそある、高いハードルだと思います。
谷口 どちらかというと他の『ガンダム』を意識しすぎず自然体で。監督や岡田さんもそういう気持ちで作られています。もちろん武器とか何かをデザインしてもらったときに、(他作と)被っているものがあれば少し変えるといった意識はしていますが、それぐらいですね。だから新しい『ガンダム』だからといって気負うことはないです。
──最後にタイトルの意味は?
谷口 最初、タイトルを何にしようかと話していた時に「鉄血」というワードが出てきて、「オルフェンズ」は監督の意向ですね。それを組み合わせて今回のタイトルになりました。
小川 タイトルが合わさったときに、監督がやりたいものが上手く表現されているなと思いましたね。さらに『AGE』の前から企画を考えていたときと、やりたいことの軸は変わっていないな、とも思いました。
谷口 普通に意味を考えていただければ分かるはずですよ。気になった方は「オルフェンズ」を調べてみて、じゃあ「鉄血」はどういう意味なんだろうと考えてみていただけたらと思います。
PROFILE
谷口廣次朗(たにぐちこうじろう)
2000年サンライズ入社。『コードギアス』シリーズ、『ガンダム Gのレコンギスタ』の企画を担当する。
小川正和(おがわまさかず)
2002年サンライズ入社。2011年『機動戦士ガンダムAGE』でプロデューサーデビュー後、『ガンダムビルドファイターズ』『ガンダムビルドファイターズトライ』のプロデューサーを務める。