違うジャンルの方と仕事をする機会がなかったので、
自分自身は刺激を受けられるなという楽しみはありました
──『ウルトラマンジード』に参加された経緯を教えてください。
乙一昨年の夏に突然「次の『ウルトラマン』のシナリオに参加してもらえないでしょうか?」というメールを頂いて、驚いたのを覚えています。円谷プロダクションさんとは何もつながりがなかったので、どうしてきたのか驚きました(笑)。
坂本本作の鶴田幸伸プロデューサーがもともと乙一さんのファンで、一緒にお仕事したいという想いがあったからだったようです(笑)。僕の方にも別途オファーが来ていて、次の新シリーズは僕が以前監督をさせていただいた『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』(以下『大怪獣バトル〜』)に登場した、ウルトラマンゼロとベリアルが主体の話になるということで、ぜひ参加したいと思いました。
──最初にお二人が会われたのはいつ頃なのでしょうか?
坂本最初にお会いしたのはシナリオの打ち合わせの時ですかね?
乙一たぶん昨年の11月か12月頃だったと思います。最初はメッチャ緊張しました(笑)。
坂本なんで緊張するんですか?(笑)
乙一僕、特撮には疎かったんですけど、坂本監督のお名前は聞いていて、「この方が坂本監督なんだ」と(笑)。
坂本逆に僕も、スタントチームのスタッフに乙一さんのすごいファンがいて、勧められて以前から乙一さんの書かれた作品を読ませていただいていたので、最初にお会いした時に「おっ!」て思ったのを覚えています。
──お互いへの期待などはあったのでしょうか?
坂本いままでなかなか小説家の方とか、違うジャンルの方と仕事をする機会がなかったので、自分自身は刺激を受けられるなという楽しみはありました。
乙一元々特撮作品をあまり観ていないということもあり、打ち合わせに参加していて、ところどころ理解できないことがありました。例えば、話の中で“バリア”の理屈を設定として書いたのですが「バリアの理屈が難しい」と言われました。“特撮脳”にならないといけなかったんですが、バリアを普通に使っているのは良しとされ、バリアの理屈を書くのは止めたほうがいいというのはどうして? と、困惑しました(笑)。
坂本それは、SF物と特撮物の違いといいますか…。多分、乙一さんの考え方がSF的なんだと思います。もちろん僕もSF物が好きなのでわかるんですが、メインターゲットとなる子どもたちが理解できるようにする時に、バランスが難しくなってしまう。あえて難解さを狙う作品もあるんですが、ウルトラマンシリーズの場合には、子どもたちが「え? なんなの」という疑問を持たないものが理想的とすると、その辺の判断が難しくなるんですよね。
乙一そうですね。それで「どうやって、これからやっていこうかな?」と(笑)。監督には「小説家出身っぽい小難しい話を書かれたらどうしよう?」という不安を持たれたんじゃないかと…。
坂本物事に対してきちんとコンセプトを考えられてから書かれているので、勢いで行っちゃうところのある特撮物の中で、そういったものをどこまで出していけるかの線引きを決めることから始めるところもありましたよね。
──脚本の打合せはどのように進めていらっしゃるんでしょうか?
坂本
基本的には、乙一さんが書かれたシナリオを読んで、それに僕がコメントを言う、といった具合で話し合うことが多いですよ。ちなみに僕は、シナリオを読む時に“どう撮ろうか?”というのをイメージしながら読むんですが、乙一さんがシナリオを書く時は、映像を浮かべながら書いているのか、それとも違うところから発想されるのか、是非お聞きしたかったんです。
乙一僕は完全に映像を浮かべながら書いていますね。まずはその場面にいる人を決めてから、その人物にどういうセリフで会話させようかを考えます。
坂本ビジュアルを想像してから、それを具象化していくんですね。
乙一そうですね。
シナリオを書く時に、途中から監督を喜ばすために
書いているんじゃないかと思うようになりました(笑)
──今回の新ウルトラマンのビジュアルを最初に見たときの印象を教えてください。
坂本ビジュアルに関しては、デザインからキャスティングまで関わっていますから、最初の衝撃は乙一さんの方が大きかったんじゃないでしょうか。
乙一そうですね(笑)。設定画などを見せていただいた時、「これ、本当に作るの?」という感じでした。その後「撮影に入りました」と言われても、実感はあまりなかったですね。試写を見て、ようやく本当に作ったんだ…と理解するみたいな(笑)。
──フュージョンライズの設定や、話作りでの難しさはありましたか?
坂本出て来るアイテムが作品の世界観にはまり、かつ重要なものとして描けると、アイテムが魅力的になり、相乗効果で作品の面白さにもつながると思うんです。だからカプセル(ヒーロー)の組み合わせも、僕からも意見を出させていただきました。例で挙げるとウルトラセブンとレオは、カンフー映画にみる師匠と父…みたいなキャラクターの位置づけや、敵にはダークロプスゼロを置いて物語における盛り上げポイントにしたりする。単純に掛け合わせが面白いというだけではなく、キャラクター的な落とし込みの提案をさせていただきました。
乙一僕は最初、どんなキャラクターを組み合わせたら良いのかが全然わからなくて、監督や円谷プロダクションの方たちが、どのカプセルを出すのが面白いとかをホワイトボードに書き出しているのを見ても、ちんぷんかんぷん状態で不安でしかなかったですね(苦笑)。最初はあまりよくわかっていないんですが、監督が嬉しそうにウルトラマンレオを語っているのを聞いて、こういうシーンを書いたら喜ぶんじゃないかと、参考にしましたね。シナリオを書く時に、途中から監督を喜ばすために書いているんじゃないかと思うようになりました(笑)。
坂本いやいや。それだと、子どものための作品じゃなくなっちゃう(笑)。
乙一こういったシーンは子どもたちが退屈しちゃうんじゃないか、というのはいつも意識して書くようにしていました。ペガの存在を書いたのは自分の子どもがきっかけです。『ウルトラマンX』のグルマン博士が画面の中にいると子どもは飽きないみたいで、そういったメンバーがいた方がいいかなと思って、キャラクターを設定しました。
坂本そうですね、キャラクターが出ている方が子どもたちはじっと見てくれますね。僕も自分の子どもがいいモニターになって、それが自分の作品作りに影響があったりするんです。作る側としては、子どもができる前と後で、意識が変わることがあるんですよね。
乙一それにニュースの災害映像などを入れ込んでいこうということも意識しました。
坂本現実世界とは違うけれど、その作品ならではの独特な世界観の中のリアリティってあると思うんです。その世界ならではのリアリティが、番組を見ている方に隣接する世界と共有する部分があると説得力が出る。作品中に、ワイドショーのニュース映像を入れることによって僕も新鮮な気持ちで、リアリティを追いながら世界がどうなっていくかの過程を描けて楽しかったですね。リアリティのある世界観と、ウルトラマンの持つファンタジー性を一緒に楽しんでもらえたら良いですよね。
乙一映像では、昭和っぽい要素としてテレビがブラウン管だったりするんですが、僕はあれがレトロフューチャー感みたいで好きなんです。坂本監督は、“昭和の再構築”というのが裏テーマにあるんじゃないかと思っていました。
坂本それは単に僕が昭和生まれなだけで(笑)。
乙一それに、主人公のリクの心の支柱として昭和っぽい特撮ヒーローが寄り添っている様が、リク=坂本監督の幼少時代なのではないかと感じました(笑)。
坂本自分が小さいときの写真を見るとよくヒーローのポーズをとっています(笑)。そういった意味では、自分の原体験をもとにリクを描くこともできるので、自分とかけ離れたキャラクターを描くのとは違って、シンパシーを感じつつそれを反映できる…ただ、綺麗な女性が周りにたくさんいるということはなかったですけどね(笑)。
坂本監督から話をうかがって、“ウルトラマンも成長していくんだ”というのが驚きでした
──乙一さんはウルトラマンシリーズをご覧になられていたんですか?
乙一子どもが『ウルトラマンX』を観ていて、“今のウルトラマンはこんなに格好良いんだ”と思ったのをきっかけに、今回のお話をいただく一年位前から、ネット配信で過去のウルトラマンシリーズの“神回”と言われるようなエピソードを探して観ていました(笑)。中でも『ウルトラセブン』のメトロン星人(第8話『狙われた街』)や団地の話(第47話『あなたはだぁれ?』)は好きですね。
坂本打ち合わせの中で、好きな作品などの話題が出て、ウルトラマンシリーズに関係なくタイトルが飛び交ったりもしていましたね(笑)。
乙一シナリオの打ち合わせでは、ハリウッド映画の話で内容を理解することも多かったですね。例えば『ソーシャル・ネットワーク』(2010年公開)をイメージして書いている場面で、監督から「『ソーシャル・ネットワーク』みたいに撮る訳ですね」とおっしゃっていただいた時、共通項目を見つけられたようで、ホッとしたりもしました(笑)。
坂本僕も幅広く作品を観たりする方なので、そこから共通項目を見つけていただけたならありがたいですね(笑)。
──ウルトラマンシリーズで坂本監督が乙一さんに意識してほしかった作品はありましたか?
坂本『ウルトラマンジード』をやるにあたって、シナリオ的に意識して欲しいと思ったものはありませんでした。ウルトラマンシリーズへのオマージュという部分で、僕らは演出部分でちょっとしたお遊び的なことをやります。しかし、シナリオにおいては乙一さんのオリジナリティの方が優先されるべきですから。ただ、ウルトラマンゼロとベリアルに関しては、『大怪獣バトル~』以降、現在までの成長の過程があるので、そこは観ていただきたいという要望を出しました。
──坂本監督から乙一さんへ、なにか要望はありましたか?
坂本乙一さんが最初に上げられたシナリオでは、ゼロが、出てきていきなり殴ったり、すごくケンカっぱやかったんです。でも、ゼロもいろいろな冒険を繰り返してきて、今では指導者的立場にもなっているので、多分すぐ出てきて殴らないんじゃないかなって話はしましたね。
乙一その話をうかがって、“ウルトラマンも成長していくんだ”というのが驚きでした。なにかシンボリックで永遠に変わらないものだというイメージがありましたから。
坂本確かに昔のウルトラマンは神みたいな存在でしたね。ゼロは人間臭いキャラクターで、よくしゃべるし(笑)。ゼロもベリアルも、約8年経った今でも人気がある。その続編を自分自身で作らせていただけるというのはすごく光栄な事ですね。『大怪獣バトル~』ではゼロをウルトラセブンの息子として描きましたが、今回は敵役だったベリアルの息子を描くということで。最初に撮った時よりも、時間経過と共に成長してきた彼らをどの様にして撮るか、いかに魅力的に表現できるか。僕自身も楽しみです。
──成長するウルトラマンということで、意識されたのはどのようなところでしょうか?
坂本ウルトラマンジード=リクの成長を描いていますね。
乙一出来上がった第1話を観た時に、戦い方が荒々しいじゃないですか、その荒々しいというのはシナリオ上では書いていなかったので、“こうやって最初の未熟さを表現しているんだ”と驚きました。
やはり見どころとしては、シリーズを通して描かれるリクの成長です
──シナリオが映像化されて、乙一さんが観たときの印象はいかがでしたか?
坂本 こんなんじゃねぇ!って、思ったんじゃないですか(笑)。
乙一いえ、格好良いです! めっちゃ繰り返して観ていますよ(笑)。ただ、自分が書いたセリフとかはあまり観たくないんです。
坂本なんでまた?
乙一書いた側としては…会話とか恥ずかしいんですよね。だから、変身後の戦いのシーンばかり繰り返し観ている(笑)。
坂本そう言っていただけるとうれしいですね。僕がもともとアクション出身なので、そういった意味ではアクションシーンで成長の過程を見せるということと、ベリアルの部分のそれらしさを出したり、各フュージョンアップ形態ごとの違いのようなものを、現場で相談しながらいろいろとやっていますから。
──本作ではシリーズでよくあるお遊び要素の強い話はあるのでしょうか?
坂本 お楽しみ回的な話はありますね〜。
乙一ありますね〜(笑)。
坂本この誌面のタイミングでは(掲載されたV-STORAGE VOL.11は9月中旬配布)、まだそこまで放送されていないと思うんですが、“こういうのが観たかったんだよね?”的なものは仕込んであるので、ファンの人には楽しんでいただけるのではないかと思います。ただ、僕はメイン監督なので、話の縦軸の重要回しか監督させてもらえず、そういった話数に関われないんです。お楽しみ回をやらせてもらえないのが一番辛い(笑)。一番楽しいであろう話は、うらやましいなぁと思いながら見ているしかない、という現実があるんですよね。
乙一まじめな回ばかり監督されている感じはありますね(笑)。
──乙一さんは、ウルトラマンシリーズに携わられたことで、今後のご自分の作品への影響はありそうですか?
乙一今回ボツになったプロットがいっぱいあるので、これからSFっぽい作品がちょいちょい出るような気がします(笑)。
坂本押さえられた反動で、いきなりSFの数々がドーンと増えてしまうんですか(笑)。
──視聴者に今後楽しみにして欲しいところを教えてください。
乙一第17話を楽しみにしてほしいですね(笑)。
坂本乙一さんが書かれている第16、17話が、前半の大きな締めくくりになるので、大事な話数としてのメインイベントが組まれているんですよ。(坂本監督、ここでサムズアップ:笑)。やはり見どころとしては、シリーズを通して描かれるリクの成長です。親子の因縁にどう決着をつけていくのかなどが深く描かれていきます。今までになかったシリーズとして、各話を単体としても楽しめるし、さらにシリーズ全体を通して観た時に「あ、そうだったのか!」という仕掛けも用意しています。前半戦で一旦落ち着いたのかな…と見せかけて、実はそうではない…ということもね(笑)。
乙一それと僕は、ドンシャインという劇中の特撮ヒーローに注目してほしいですね。そこに作り手の人たちの特撮愛(というか遊び心)が込められているので(笑)。
──最後にファンへメッセージをお願いします。
坂本『ウルトラマンジード』には、ストーリー的なギミックがたくさん仕込まれています。もちろんウルトラマンシリーズとして楽しんでいただくこともありますが、成長物語や謎解きミステリーもあり、主人公が十代なので青春物としても面白いと思います。それにアクションも盛り沢山にしているので、懐かしくも新しい作品を観るつもりで楽しんでほしいですね。
乙一こんな挑戦的な作品に参加させていただけて嬉しいというか、こんな尖った作品はあまりないと思うので、ぜひご覧になって下さい。
坂本出し惜しみしてないですものね(笑)。出しすぎて来年どうするのかを聞かれても「知らない」っていうくらい…(笑)。
左が乙一さん、右が坂本浩一監督
※乙一氏は、シリーズ構成として参加する他、脚本を“安達寛高”名義で執筆している。
の付いたインタビューはV-STORAGE online限定の記事です。
PROFILE
坂本浩一(さかもとこういち)
アルファスタント所属。アメリカでTVドラマ『パワーレンジャー』シリーズの監督・アクション監督などの活動を経て、日本へ帰国。『ウルトラマンX』や『ウルトラファイトオーブ 親子の力、おかりします!』、『仮面ライダーエグゼイド』などの話題作で監督を務めている。
PROFILE
乙一(おついち)
小説家。『夏と花火と私の死体』で第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞し話題を集める。『GOTH』シリーズや『ZOO』シリーズなど、ホラー・ミステリ・シリアスジャンルの作品から、『百瀬、こっちを向いて。』、『くちびるに歌を』などの青春・恋愛ジャンルの作品まで幅広く著書を持つ。
<放送情報>
毎週土曜あさ9時〜テレビ東京系6局ネットにて放送中
<Blu-ray BOX発売情報>
ウルトラマンジード Blu-ray BOX I
2017年11月24日発売
¥22,000(税抜)
※Blu-ray BOX II<最終巻>は2018年2月23日発売。
『ウルトラマンジード』BD-BOX発売記念!!
『ウルトラマンジード ディレクターズカット版』11/30上映会開催決定!
チケット プレリクエスト先行販売エントリー受付は11月12日(日)23:59まで!
詳細はコチラ
ウルトラマンジード 公式サイト
©円谷プロ
©ウルトラマンジード製作委員会・テレビ東京