第15回「エグゼリオ変動重力源」[トップをねらえ2!大百科]
『トップをねらえ2!』の世界観を解説するコーナー「トップをねらえ2!大百科」がオープン。既にファンの方も初見の方も、これを読めばトップ!シリーズがもっと面白くなる、作中の世界観を深堀りする内容が満載! 第15回は「エグゼリオ変動重力源」です。
※電撃ホビーマガジン2005年3月号から2006年7月号まで掲載された『トップをねらえ2!』の作品紹介「トップをねらえ2!大百科」を再掲したものです。
十一番目の兄弟星は過去の戦いの鬼子
光あるところには、必ず影ができる。これは遙か古の時代から、普遍の真理として言われてきたこと。強い力が現れたのなら、その反動とも言うべき負の力が、必ず現れるという……。バスターマシン7号の登場により、人類の置かれている立場は大きく変化した。バスターマシン7号こそ、現在の人類が忘れてしまった旧地球帝国時代が作り上げた科学力の結晶であり、人類を外敵から守ってくれる者。彼女さえいれば、いままで天敵と思われた宇宙怪獣もおとなしく服従するし、仮に人類を脅かす変動重力源が現れても、タイタン変動重力源のようにバスタービームの一閃で真っ二つにしてくれるはず! だが、理想はいつも甘く優しく、現実はいつも苦く厳しい。タイタン変動重力源などは所詮、過去の敵。1万年前(火星大学の推定)に蹴散らされたような、言ってみれば前番組の敵は、新番組の正義の味方にとってみれば、あっと言う間に蹴散らされてしまう前座なのである。そう、前座の後には真打ちが登場するというもの。今現在の人類の敵は、もっと恐ろしく、もっと強大だった。それが5話で姿を現した、エグゼリオ変動重力源なのである!
エグゼリオ変動重力源
エグゼリオ変動重力源を説明する前に、太陽系の最外縁部にある「赤い天の川」内部についてもう一度見ていかなければならないだろう。ご存じの通り、現在の太陽系十番惑星・神無月から先は、人類にとって再び未知の領域となってしまった。度々触れてきたことだが、かつて冥王星から先には、十番惑星・魔王星、十一番惑星・智王星、十二番惑星・神無月星、十三番惑星・雷王星が存在していた。人類は太陽系絶対防衛戦(5話)で雷王星軌道上において小規模なブラックホールを作りだし、押し寄せてきた6億5千万体の宇宙怪獣を超重力の穴へと落とし込み、粉砕したのだ。その影響で、魔王星と智王星は太陽系外へと、雷王星も構成物質の9割を失い、中心核だけという状況になってしまった。現在は惑星と言えるだけの大きさを持っておらず、カイパーベルト内にある他の岩塊と同じ扱いとなっている。もっとも、他の小惑星と比べれば遙かに大きく、惑星の中心核だっただけはあり、重金属などの重い物質で形作られているため、かなりの質量を残してはいる。そして、神無月星は、十・十一番惑星が無くなってしまったために、自動的に十番惑星に繰り上がったのである。
あまりにも巨大なエグゼリオ変動重力源。周囲 の細かいのは宇宙怪獣軍団だが、これでもまだ遠近法で大きく描かれているのだ。
では、その後に宇宙怪獣を飲み込んだブラックホールはどうなったのか?これが今も残っており、新十一番惑星としてブラックホール・エグゼリオという名前まで付けられているのだ! エグゼリオという名称は、もちろんあのノリコたちが乗っていた第4世代宇宙戦艦ヱクセリヲンが訛ったもの。銀河の遙か彼方まで調査航行に赴き、激戦の果てに廃艦処分が決定。満身創痍となりつつも、押し寄せてくる宇宙怪獣を前に再び戦場へ。その最期は、自らの大型縮体炉のキングス弁を抜き、ブラックホール爆弾と化して自沈したという悲劇の第4世代宇宙戦艦ヱクセリヲン……。名前がきちんと残らなかったというのも可哀想だが、悲壮な自沈をして身を挺して地球を守ったという部分も抜け落ちて、ただ単にブラックホール爆弾を使用したという記録しか残らなかったのも悲劇である。
さて、こうして生まれたブラックホール・エグゼリオは、雷王星のコアとは連星状態となり、そのまま太陽を巡る公転軌道にのったわけである。惑星とはいっても目視の大きさとしては決して大きくない(冥王星以遠の惑星としては十分大きいが)。だいたい地球と同じぐらいに見える……もっとも黒く惑星のように見えるのも、光が屈曲されずに観測者に届いている外側によって球体として観測されているだけで、その本質はもっともっと小さい。しかし、質量の方はというと……小さいとはいえどもブラックホールの残りなので、凄まじい重さがある。そして周囲には砕け散った雷王星や変動重力源の残骸が漂っており、原始宇宙の如く濃密な宇宙塵をまき散らしているのだ。この宇宙塵が「赤い天の川」になっているわけである。バスター軍団は、これらの宇宙塵を集めてボディを作り、ブラックホールの圧縮を利用して縮体物質を精製しているのである。地球を守る軍団の巣が、かつて地球を守ったヱクセリヲンの遺産というのも感慨深いものがあるだろう。
その巨体故に、近くをかすっただけで人類が大損害! 宇宙軍第3軍もあっという間に壊滅状態になった。
これが全身を見せたところ。後ろの黒い球体が、飲み込んだブラックホール・エグゼリオだ。
バスターマシン7号は守り神 地球の祟り神は?
しかし、バスター軍団がこのブラックホール・エグゼリオを巣としたのには、軍団の運用以外にも、もう一つ理由があった。それがこのブラックホール・エグゼリオの中に潜み続け、ついに姿を現した驚異の巨大生物・エグゼリオ変動重力源の存在だったのだ!
トップレス能力……それはパウダー粒子(仮想粒子であり未確認)を放出することにより、生命体の持つ願望を周囲の物質や時空体に投射、その願いのままに物理法則をも変質させるという力である。ラルクたちトップレス能力者の活躍を見ても分かるとおり、その力は通常の生物の能力を超えた、奇跡とも思えるような超現象を現出することができる。あの遙か昔の太陽系絶対防衛戦においてヱクセリヲンが作り出したブラックホールの中へと飲み込まれていった過去の変動重力源たち。多くの者がワープする暇もなく超重力によって圧壊していく中、たった1匹の願いがその能力を開花させたのだろう。その願いとは……ブラックホールの超重力にも負けず、生き残りたいというものだったのかもしれない。その願いに、トップレス能力は全力で応えた、いや応え続けたのである。斯くして、その変動重力源はブラックホールを内側から蝕み、それどころか自身のエネルギー源として取り込むことにすら成功したのだ。全長は確認された形態で1万8千キロ。体重を語ることは無意味と思われる。なにしろスペクトル分析などによって構成物質を調べることはできるが、その体内には小さなブラックホールが1つ入っているのだ。ブラックホールのなり損ないである中性子星の構成物質はパチンコ玉1個で数千万トン。ブラックホールであればそれ以上になるわけである。そんなことあり得ない!と言うかもしれないが、相手は変動重力源。生身で極寒のエーテル宇宙の中を、光速を超えて飛んでいるような連中である。人類の常識などは通用しないのだ。つまり人類の常識が通用しないような強大なるトップレス能力をもってして、ブラックホールの超重力を帳消しにしているのだ。故に重さを量っても意味がない。ここから推測されることは、エグゼリオ変動重力源の得意とするトップレス能力は、物質の質量や重力子を巨大なレベルで自由に操ることなのかもしれない。
この推測が正しいとするならば、実に恐ろしいことである。重力という力が光すら曲げられるというのは、重力レンズなどの例を挙げずともご存じのことだろう。そう5話の中で、地球艦隊や宇宙怪獣の砲撃を曲げまくって無効化せしめたのも、バリヤーなどではなく、重力操作による軌道変更だとしたら? 光学兵器すらも歪める重力の前に、通常の銃弾やミサイル、光子魚雷などはまるで無価値なものとなってしまう。当たる前に明後日の方向へとすっ飛んでしまうか、それとも超重力で潰されてしまうかしてしまうだろう。
旗艦カラコルムのグラビトロン砲が吼える! 対宇宙怪獣の切り札的な主砲の攻撃ならば、どんな敵をも粉砕できる……はず
人類の兵器などは、ティーガー戦車の前の豆鉄砲、竹槍でB-29を撃墜しようという試みに近いものだ。もっともこれにはまだ攻略法が存在する。変動重力源だって一応は生物である。いつも緊張し続けているわけにはいかないし、続けて能力を発揮したりすれば、疲れていくだろう。人類側としては息もつかせぬ波状攻撃で能力を使い続けさせ、集中力が途切れたところで殲滅すればいい。そういう意味では、宇宙怪獣の長年の包囲網を突破した直後の、疲れ切ったエグゼリオ変動重力源を全力で叩くことは正しい戦略だった。しかし、バスターマシン7号と人類は、そのエグゼリオ変動重力源を逃がしてしまった……。仲間の元へとワープしていったエグゼリオ変動重力源は、自らの弱点を補強することが推測される。その補強方法は、仲間との連携にあるだろう。これには大勢の仲間を連れてくるというのもあるが、変動重力源の過去の戦法を考えるともっと恐ろしい事例が考えられる。それは自らの要塞化である……。遙か昔、過去の戦闘において2千メートル以上の大型の変動重力源(ギドドンガス=タイタン変動重力源など)は、自らの巨体に多くの小型変動重力源を寄生させていた。これらの10メートル前後の小型変動重力源は、自分の特性を生かし、砲台となったりバリヤーを張ったり、ものによっては兵士となって大型変動重力源の突撃後に近接した敵に取り付き、内部破壊を敢行したりしたのである。さて、この母船となるのが2千メートルから1万8千キロになったら!? タイタン変動重力源クラスを、それこそハリネズミの如く表面にびっしり生やすことが出来るに違いない。近づく物は、衛星タイタンを貫通した熱線をまんべんなく受けて溶け去ることだろう。その熱線を防いだとしても、次は大型変動重力源の突貫。そしてさらにその中から小型変動重力源が飛び出して、残っていた敵をバラバラに分解してしまうはずである。この戦法を取ったとしたら、本体のエグゼリオ変動重力源は余力を十二分に残して敵本星=つまり地球へと悠々と到達するだろう。そうなれば後はエグゼリオ変動重力源の思うがまま! 躯にひっついていた変動重力源たちを放って暴れ回らせるのもよし、エグゼリオ変動重力源自身がブラックホールを喰らう前から備わっていたはずの器官からエネルギー光弾を撃つもよし。このエネルギー光弾を撃つ器官は、巨大化した上にブラックホールの生み出すエネルギーを加えているわけだから、地球如き小さな惑星ならば、一瞬で破壊してしまうことだろう。もっともこんな巨大なエグゼリオ変動重力源なのだから、小細工は無用。地球に向かって体当たりすれば勝ち!だったりする。触れる前から重力波の干渉により、地球上では天変地異の大災害が発生し、人類を含めた全ての生物が死に絶えてしまうことだろう。そして鳥一羽飛ばなくなった空一面にエグゼリオ変動重力源が見えたと思った次の瞬間――ロシュの限界で、地球の方が勝手に砕け散るのだ。
まさにエグゼリオ変動重力源こそ、変動重力源を超えた力を持つ、超変動重力源! 昔調で言うなら、宇宙怪獣を超えた力を持つ宇宙超獣。いや宇宙超獣というのにはグレートアトラクターというのがいたという記録があるので、宇宙超獣を超える力を持つ宇宙怪獣なのだ。この強大なライバルを前に、7号はどう戦うのか? ラルクやチコなどのトップレス能力者たちも、地球の大ピンチを前にフラタニティが解散しちゃったから関係ないし?なんて、醒めた厭世観を持っている連中ではないはず。絶望の中にいながらも、あきらめない努力と根性を見せてくれるはずの6話で、人類はどんな迎撃作戦を見せてくれるだろうか。
乾坤一擲の一撃も、表面で跳ねるだけで無効化してしまう。その攻撃に質量がある限り、重力子の呪縛からは逃れられない
敵の強大さに驚くドラソー提督&ニーゴ主席参謀。「~なのか!?」と驚くのは、宇宙艦隊の提督&参謀のお仕事で
人類を導くのは老人たちの叡智
5話のラストにおいて、不気味に登場した新キャラたち。それが名称だけはちらほらとこの大百科などで登場していた枢密参謀院のメンバーである。
枢密院というと通常、国務を執り行う国王などの最高指導者に対して、その政務を助けるべく、法律上・慣例などの質問に答える諮問機関のこと。参謀というのはご存じ、軍部で将軍などに作戦等を進言する人のこと。つまり『トップ2』世界における枢密参謀院というのは、地球帝国の上層部に鎮座し、政治にも軍部にも口出しできるという絶対的権力を握る機関のことなのだ! そんな枢密参謀院を構成するメンバーの平均年齢は150歳という超高年齢陣。身体にはかなりガタがきているようで、クローニングとサイネバティクス技術によってかろうじて生命を維持しているという状態にある。高級な椅子に腰掛け、美形の秘書を侍らせ、ムニャムニャ夢想して一日を過ごす……。棺桶に片足を突っ込んでいそうな政治家というと、ついそんなことを夢想しがちだが、『トップ2』世界はそんなに甘くない。何しろ現在人類は存亡の危機に立たされており、そして彼等もまたそういう危機状態にあることを十二分に認識しているのだ。そのことを感じさせてくれる言葉を、5話ラストで漏らしている。
頭の周囲をガッチリと囲む拘束具。額部分はピースをキッチリ押さえるようになっており、頭が潰れでもしないかぎり、鍵を使わずに外すことはできない。
「人類が真の大人になるための、これは通過儀礼なのだろう……」これは一人の枢密参謀院のメンバーが言った言葉である。前作の『トップ』から遙かな時を経てもなお、人類という種は大人になっていない。というよりも、世代代わりの中で太陽系内に閉じこもってぬくぬくと生きるだけの子供に戻ってしまっていた、と言うべきだろう。「地球の平和は、人間の手で掴みとることに価値がある」ある作品でそう言ったのは、かつて地球へ同胞を迎えに来た宇宙警備隊の異星人である。その時、とある事故で地球に居残った宇宙警備隊員がおり、彼は罪滅ぼしという形で地球内外の異形生物の掃討を手伝っていた。強大な力を持つその隊員は、たった3分間の戦闘で異形生物をなぎ倒していった。科学文明が十分発達していない地球人類にとって、彼の行動は英雄、いや救世主的なものだった。か弱き者を守るために戦う――この行為は確かに賞賛するべきことなのかもしれない。だが、それでは人間、いや人類はいつまでたっても守ってもらう立場に居続けてしまうだろう。
『トップ2』の世界においても、バスターマシン7号という太陽系防衛システムに依存せず、地球人自身が自らの手で立ち上がり、かつてのように戦ってフロンティア=新たな地平を切り開いて行かなければならないのかもしれない。太陽系というゆりかごの中から、再び飛び立ち、遙か彼方の銀河へと……。人類という生き物が自らの足で立って歩き始める、そう「自立」するためには、立ちふさがる苦難や障害を、自らの手で排除しなければならないのだ! 枢密参謀院のメンバーはこの厳然たる事実を知り、かつその理想のために着々と行動しているのだろうか? 彼等はどこまで先のことを見通しているのか?
ララ級艦船の建造・運用計画、キャトフヴァンディスの緊急ロールアウトなども、先を見通していたがゆえの布石なのかもしれない。2桁台バスターマシンやトップレス能力者たち、それだけではなくバスター軍団や7号などなどの存在すらも、元から知っていたのかもしれない。7号の戦線放棄を知った枢密参謀院メンバーの言葉には、大きな動揺は見受けられず、逆に予見していたかのようなニュアンスすらも感じられる。そんな枢密参謀院が押し寄せてくるであろう変動重力源の大軍団に対して、なにもせずに手をこまねいているとは思えない。『トップ2』という物語を進行させているのは、前線で戦っているノノやラルクのようなトップレス能力者たち、宇宙軍の軍人たちだけではなく、枢密参謀院の老雄たちも重要な役割を果たしているのかもしれない……。
介護&データバンク用に、宇宙軍のニーゴ主席参謀と同じクラスのアンドロイドが仕えている。女性型アンドロイドもいる。
150歳というだけあって、その存在はほとんどヨーダ(笑)。枢密参謀院もジェンダーフリーが進んでいるようで、女性のメンバーもいる様子。
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