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「イマレコ!」アニメ『逮捕しちゃうぞ』[特集サイト「プレイバックエモーション」]

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 東京の下町にある墨東署の交通課に勤務する肉体派&大食漢の巡査・辻本夏実、そして彼女と同じく交通課に勤務する頭脳明晰なメカマニアの巡査・小早川美幸。そんなふたりと周囲の人々の活躍を描く、藤島康介原作の『逮捕しちゃうぞ』は、1994年に初アニメ化となるOVAシリーズがスタート。このOVA版の大きな特徴は、夏実と美幸の出会いのエピソードから始まるところだろう。

 原作はすでにふたりがタッグを組んでいるところから始まるのだが、OVA版では墨東署に所属が決まり、配属初日にも関わらず遅刻してしまった夏実が、ミニパトに乗った美幸とカーチェイスを繰り広げる場面から開幕。美幸とパートナーを組むことに漠然と反感を抱く夏実と、そんな夏実にクールな視線を向けつつも、好意を抱く美幸。FILE.1には、そんなふたりが木漏れ日が差し込む署の裏手で、ミニパトのルーフを挟んで会話する場面がある。そこに漂う、なんともアンニュイな雰囲気。原作で描かれた夏実と美幸の性格を引き継ぎつつも、どこか等身大の女性としてふたりが描かれているような感覚がある。

 そんな夏実と美幸(に加えて、周囲の墨東署の面々)を生き生きと捉えているのが、中嶋敦子が手がけたキャラクターデザインだ。当時、中嶋はすでに『らんま1/2』を筆頭に、キャラクターデザイン・作画監督として活躍していたが、本作でもその手腕を十二分に発揮。いかにもコミック的なデフォルメを押さえながらも、地に足のついたキャラクターとして夏実たちを捉えることに成功している。またFILE.1とFILE.3の作画監督を松竹徳幸が、FILE.2の作画監督を松本憲生がそれぞれ担当し、華やかさとリアリティを両立させた「動き」で物語を盛り立てている。

 もうひとつ、スタッフ面で言えばメカデザインとしてクレジットされている村田峻治の存在も忘れてはいけないだろう。夏実の愛車である折りたたみ式の原付、ホンダ・モトコンポの愛らしい車体、夏実と美幸が乗り込むホンダ・トゥデイのミニパト、そして夏実たちの同僚・中嶋剣のZXR750などなど。バイク・車好きとして知られた村田が手がけるデザインは、緻密かつリアリティに溢れていて、ダイナミックなカーアクション(夏実の得意技である「足ブレーキ」のカッコよさ!)とともに強い印象を残す。


 先述の通り、夏実と美幸の出会いを描くFILE.1に続いて、FILE.2では台風の直撃を受けた東京での雨のカーチェイスが繰り広げられ、FILE.3では美幸と中嶋の恋の行方が、コミカルに展開。そして最終話となるFILE.4では、女性白バイ隊員に志願した夏実と、彼女を応援しつつもどこか寂しさを拭いきれない美幸の姿が描かれる。正反対だけど――というか正反対であるがゆえに、唯一無二のバディでもある夏実と美幸。そんなふたりの絆の行方を追いかけつつ、このOVA版は幕を閉じることとなった。
 そして、1996年にはTVアニメがスタートする。そんなシリーズの好評を受けて1999年に公開されたのが、劇場版アニメ『逮捕しちゃうぞ the MOVIE』だ。こちらはグッとリアリティレベルを上げ、新たな切り口でシリーズの可能性にアプローチした意欲作だ。劇場版は、東京の下町で見つかった不発弾処理の様子から幕を開ける。夏の暑い日差しの中、どこかジリジリとした緊張感をはらみながら描かれる自衛隊員や警察官、関係役所の職員たちの姿。現場周囲の渋滞や住民たちの様子を静かなトーンで写し取っていくその手際は、OVA版とはまた異なったものだ。
 物語はこのアヴァン・パートの後、本庁での研修を経て1年ぶりに墨東署に戻ってきた夏実と美幸、そしてそんな彼女たちを笑顔で迎え入れるお馴染みの面々の姿を挟んで、いよいよメインとなる「蜂一号」事件へと進んでいく。駐車場の車から見つかった大量の銃器、そしてハッキングによるものと思われる信号機の一斉故障。実際に起きてもおかしくない、ささやかな事件が少しずつ積み上がっていく中で、映画のスクリーンから不穏な空気が少しずつ沁みだしてくる。

 そして、そんなリアリティの演出にひと役買っているのが、登場するロケーションとその描写。墨東署がある(という設定の)墨田区、江東区あたりの地理を丁寧に踏まえて、錦糸町の駅前など、実在の地名を交えながら、細やかにディテールを積み重ねていく。
 そしてそんな積み重ねの先に、テロ集団に墨東署が襲撃を受けるという大がかりな展開が待ち受け、さらに海上保安庁の巡視船が勝鬨橋を通過するという驚きのビジュアルへと雪崩れ込んでいく。リアルなディテールを重ねに重ねて、ファンタジックな――ある意味、アニメらしい「ウソ」へと観客を巻き込んでいく手腕は、どこか本作の10年ほど前に公開された『機動警察パトレイバー 劇場版』を連想させたりもする(音楽を川井憲次が担当しているのも、そうした連想を補強してくれる)。また、中嶋敦子が自ら作画監督を務めているだけあって、キャラクターのお芝居も見どころ満載。『逮捕しちゃうぞ』シリーズがこれまで蓄えてきたエッセンスや世界観、キャラクターを踏まえつつ、思いがけない飛躍を見せてくれる、そんな必見の一作だ。

文:宮 昌太朗

 

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