監督・河森正治による『迷宮のしおり』絵コンテ徹底解説
『マクロス』シリーズ、『アクエリオン』シリーズなど数々のヒット作を手掛けたアニメ監督・河森正治の初のオリジナル劇場長編アニメーション『迷宮のしおり』のBlu-rayが8月26日(水)に発売。これを記念し、河森監督自らが絵コンテをもとに、本作を7つのポイントに分けて解説。各シーンに込められた想いや制作の裏話など、ここでしか聞けない貴重な話を一挙公開!
※本記事は作品のネタバレを含みます。
●現実世界で傑とはじめて出会う
栞と傑が初めて出会うシーン。2人の関係性とエスカレーターという構図は、栞が現実でもスタンプを見るようになったことと重なり、やがて傑が作り出した迷宮へ導かれていく運命を暗示している。
<監督コメント> みなとみらい駅のシャトルエスカレーターは、初めて見たとき、あの大空間とモノリスのような存在感がとても印象的でした。 地上の光を受けながら地上から地下3階へ、地下空間を水平移動しながら進んでいく過程は、深層心理の世界へ向かうイメージにもよく似ていました。しかも、自分の意思で進むのではなく、「連れられて降りていく」というシチュエーションが、この場面にはぴったりでした。
●出会いは偶然ではなく必然?
栞がなぜ迷宮へと引き込まれたのか。その伏線は、すでに冒頭シーンから張られている。栞と希星が動画を撮影していた場所は、偶然にも傑がXG研究を行っていた秘密基地の近くであり、知らぬ間にその影響下へ足を踏み入れていたのだ。
<監督コメント> 「なぜ栞と傑は出会えたのか」と考えたとき、出会う前の段階から何らかの形で互いに影響を受けていなければ、出会いの必然性としては弱いなと思ったんです。冒頭で栞と希星がダンスの練習をしていたシーンを振り返っていただくとわかるのですが、実は傑の隠れ家は、あのコンテナ群の中にあるんですよね。そこでXGの実験を行っていた。つまり、栞はすでにXGに感応していたということなんです。
●自然と築かれた関係性
傑の秘密基地を訪れた栞と小森。何気なくゲートを通過しているが、実は小森も無意識のうちに顔認証を通過していた。栞と小森の間に築かれた信頼関係が、偶然にもゲートの認証につながり、同時に小森の正体を示す伏線としても機能する、多重構造のシーンとなっている。
<監督コメント> あまり意識されないシーンだと思いますが、傑のコンテナの研究所に入る時に、栞が抱っこした小森さんが顔認証でゲートをくぐっているんですよね。実は小森さんの顔でロックが解除されているのですが、栞たち自身も、見ている側も、そのことにほとんど違和感を覚えない。それは、栞と小森さんの間に、すでに自然な関係性が築かれていたからなんです。
●栞に刻まれた悪意の言葉たち
SHIORI@REVOLUTIONの全身に現れた誹謗中傷の言葉は、書き込みだけを反映したものではない。解説中にある「超自我」とは、精神分析の創始者であるジークムント・フロイトが提唱した精神の働きのひとつであり、社会規範や道徳観を内面化した存在を指す。その概念になぞらえれば、SHIORIは他者から向けられた悪意だけでなく、自らの内面にある無意識の抑圧や自己否定にも囚われている。
<監督コメント> SHIORI@REVOLUTIONの全身に悪口が書かれたシーンでは、『耳なし芳一』を連想された方もいるかもしれませんが、あの場面は心理学用語でいうところの「超自我」の声を表現しているんです。栞は絶望的な状況と対峙するわけですが、重要なのは勝ち負けではないんですよね。「そうではなかった」と気づくまでの過程こそが重要なんです。SNSでも、書き込まれた言葉が絶対的な評価のように感じられてしまいがちです。SHIORIは1億「いいね!」を得られなければ評価されないと、取り憑かれてしまっている。でも実際には、それをどう受け取るかで意味は変わってくるんですよね。結局は、自分自身がその声をどう捉えるかなんです。
●脚本の先に見えた自然なシーン
小森の過去を知った栞は、いつしか小森を抱きしめていた。それは、小森の悲しみに栞が寄り添った瞬間だった。本来シナリオにはなかった、とめどなく溢れる涙は、コンテを描く過程で自然と生まれた。
<監督コメント> 栞が小森さんを抱きしめるシーンは脚本にはなかったんです。ただ、コンテでキャラクター同士の関係性を掘り下げていくと、自然とあの涙にたどり着きました。他者を触媒にすることで、自分でも気づいていなかった感情に気づくことってあるじゃないですか? あの涙もまさにそういうものなんです。そしてその涙もまた深層心理とスマホの迷宮を水びたしにしていくと思ったのです。シナリオの方向を変えているわけではなく、作品のエッセンスを深く掘り下げていった結果、その先に見えてきたものを描いている感覚なんですよね。
●栞はなぜミジンコスタンプになった?
栞がミジンコのスタンプになってしまったのは、希星に対して自分はミジンコ程度の存在でしかないという自己評価の表れだった。一方で、内臓まで透けて見えるミジンコの姿は、自分の内面を隠すことなくさらけ出してしまっている栞の心情も象徴している。
<監督コメント> 栞がミジンコのスタンプになってしまったのは、体が透けて全部さらけ出しているのがいいなと思って採用しました。栞と希星は幼馴染で、かつては同じ夢を持っていた。でもいつしか栞は希星に対して、「自分はミジンコ程度」と思い込んでいたんです。でもそれは他者の評価でしかなく、そこから抜け出せれば元の関係に戻れる。栞がミジンコから抜け出すきっかけにもなるわけです。
●栞を助けた手に込められた意味は?
迷宮のなかで栞を捕らえようとしていた無数の手。だが、栞とSHIORIの心がひとつになろうとした瞬間、つなぎ合った手はSHIORIカラーへと変化する。それは、SHIORIが栞を受け入れ、互いの心が通い合ったことを象徴するシーンとなった。
<監督コメント> SHIORIの髪型とカラーを考えたとき、「ちょっとまだパンチが足りないな……」と思って、あの色分けを江端(里沙)さんが考えたんです。せっかく生まれたアイデアなので、ライブシーンをはじめ、さまざまな場面に取り入れていこうと思いました。クライマックスで栞を無数の手が支えるシーンでも、「あ、この色が使える!」と思って。実際にコンテを描きながら、「この配色にしてよかった」とあらためて感じました。
<商品情報>
迷宮のしおり
2026年8月26日発売
Blu-ray(特装限定版)
品番:BCXA-2054
価格:¥13,200(税込)
©『迷宮のしおり』製作委員会
▼『迷宮のしおり』公式サイト
https://gaga.ne.jp/meikyu-shiori/
▼『迷宮のしおり』公式X
@meikyu_shiori