インタビューココだけ | 劇場版『Gのレコンギスタ Ⅱ』「ベルリ 撃進」
劇場版『Gのレコンギスタ Ⅱ』「ベルリ 撃進」 『G-レコ』を観るべき3つの理由 演出・吉沢俊一全文掲載
2月21日(金)より上映&有料配信がスタートし、Blu-ray&DVDが5月27日に発売決定している劇場版『Gのレコンギスタ Ⅱ』「ベルリ 撃進」。TV版に引き続き劇場版の制作に参加し、演出として富野由悠季総監督をサポートする吉沢俊一さんに、本作の魅力を伺った。
演出家は紙芝居で絵をめくる人?
──吉沢さんは、TVシリーズから制作に参加されていたと伺いました。
吉沢 第Ⅰ部、第Ⅱ部に関していえば、TV第4話と第11話、エンディングの演出を担当してました。
──演出というお仕事はどんなことをされているのでしょうか?
吉沢 いろいろありますが、監督の考えを汲んで各スタッフに伝えるのも仕事のひとつですね。やり方は人それぞれで、元アニメーターの方だったら、絵コンテに描かれている芝居を描いてアニメーターに具体的に伝えることができますし、描いたものは残ることもたまにある。でも、自分のようなタイプの演出家は口頭での説明が主なので、自分のやったことが直接目に見える成果として残らないことが多い。
一番意識するのは、映像の流れや時間のコントロールですね。これはものすごく極論で、偏った意見なのですが、紙芝居はお話を語りながら絵をめくりますよね。演出家はいわばそのめくる人にちょっと似ていると思っていて、紙芝居を見ている人をびっくりさせたいときは、ワァッ! と素早くめくることもあれば、怖がらせたいときは、ジワ~っとめくる。どういう絵をどのくらいの時間でどのタイミングでお客さんに見せるのか。そこをコントロールする仕事という認識が自分は強いですね。
──演出家は絵コンテを見ながら作業を進められているわけですが、素人が絵コンテを見ても、完成映像を想像するのは難しいですよね。
吉沢 以前に富野監督もおっしゃっていたことなんですけど、音楽の楽譜と同じで、絵コンテはある程度、読むセンスがないと理解できないものなんです。もちろん経験を積んでいけばそういったセンスは自然と身についていくと思います。実は初見では絵コンテに書かれているト書きはほとんど読んでなかったりするんですよ。全部は読み込まない。後で解釈違いを見つけて「あ、やばい!」ということもあるんですけど(笑)。絵コンテにざっくりした映像の流れが描かれていて、3秒とか4秒とか時間が書かれてありますよね。それとセリフだけでスーっと読んでいけるんです。富野監督が描かれた絵コンテは、一度読みはじめると止まらなくなってしまう力がすごくあるんです。読みだすと頭がグルグル回転しはじめる感覚というんでしょうか。独特かもしれないですね。
──富野監督の絵コンテは、情報量が多い印象なんですが、吉沢さんは『G-レコ』に参加された当初からすんなりと読めたのでしょうか?
吉沢 小さいころから富野監督の作品をずっと観てきていたんです。富野監督のリズムが体に染みついていて、絵コンテを読むと映像に変換しやすいのかもしれませんね。
1 物語と現実の問題がリンクする
──会議では、富野監督とどういうお話をされているのでしょうか?
吉沢 他の作品だったら、具体的な指示や確認、進行状況をやり取りするんですよ。『G-レコ』ではそういう行程がいっさいなくて、脱線の連続なんですね(笑)。でも、その脱線の中に何か光るものというかヒントが隠されている。気になることがあれば本人のところに行って相談しますし。事務的な打ち合わせではなくて、〝富野道場〟みたいなところに飛び込んでやりあうという感じですかね。毎回、刺激的です(笑)。
制作が始まったころの脱線話で「G-セルフって、どういうコンセプトのメカなんですか?」と伺ったことがあるんです。メカニカルデザインを手掛けた安田朗さんへの最初のオーダーで、G-セルフは「子供のおもちゃ箱に入っていそうなデザインにしてほしい」とおっしゃったそうなんです。僕が担当したTV第4話では「子供のおもちゃって何だろう?」というところからG-セルフの演出を膨らませていったんです。自分の世代だとボタンを押すとビカビカ光るおもちゃがあったので、G-セルフがフォトン・シールドで攻撃を防ぐシーンには光のエフェクトを派手にして、自分なりの解釈で撮影スタッフに相談しました。
──脱線話の中のヒントを膨らませることで、G-セルフの個性をより際立たせることができたわけですね。
吉沢 最終話でG-セルフが壊れてしまうのも、おもちゃは大抵壊れてなくなったりするものだから、君たちもいつかはおもちゃから卒業して、大人にならなきゃいけないよというメッセージなのかなとも思いますね。∀ガンダムも繭に包まれて消えちゃいましたよね。
──他にどんなお話をされるんですか?
吉沢 環境問題の話をされることもあれば、ご覧になった映画の話とか。そういう感じの話が多いですね。富野監督は視野がすごく広い方で、作品をつくっていくうちにそれが自然と反映されていくところがあるんです。TV第17話でベルリたちが宇宙でデブリの掃除をやっているんです。軍隊がにらみ合ってる中で。あの状況は現代の世相を反映しているなと思ったんです。昨今でも、大国同士が海に軍艦を浮かべてにらみ合うケースがいまだに起きていますよね。でも軍艦を浮かべている海は今、「マイクロプラスチック」や「太平洋ゴミベルト」が大きな環境問題になっている。「お前らにらみ合いする前にやることがあるだろ」ってことですね。『G-レコ』は作中と現実がリンクしやすい、とても不思議な作品だなと思います。
──創作時期と世界情勢はズレつつも、現代の人々が抱える問題を的確に突いていると。
吉沢 そういった視野の広さをもてたのは、自分が劣等生だからという言い方もされてました。ものすごく頭がよくて専門的な勉強をする人は一辺倒になってしまって視野が狭くなりがちになる。でも劣等生は、物理も化学も経済も何でも広く浅くという学び方になる。そういう勉強法を身につけていると、自然とそれが作品に出てくるそうなんです。
2 『G-レコ』は〝悪人〟が登場しない
──吉沢さんは富野監督作品にどういう印象をもたれていますか?
吉沢 一作ごとに印象が全然違いますね。ひとりのクリエイターの頭の中から作り出されているので、根底にあるものは同じではある気がするんですけれども、特に『ブレンパワード』の前と後では全然違うと思いますよ。その中でも『G-レコ』は今までとちょっと雰囲気が違う作品だと思います。本当に不思議で、とらえどころがないというか。子供のころの自分に『G-レコ』を観せてみたいですよね。どういう感想が出てくるのか。今は制作現場に入って富野監督やスタッフとディスカッションをして作っているので、客観的になれないんですよ。だから客観的な視点の感想にとても興味があるんです。
──お知り合いの方から『G-レコ』の感想を聞くことはあるんですか?
吉沢 普段はアニメを観ない友達に『G-レコ』を薦めて感想を聞いたら、「清浄だ」と言ってました。
──何が「清浄」なんでしょうか?
吉沢 悪い奴がいないんですよ、一人も。例えば『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のギュネイはガンダムを倒して出世して、クェスを手に入れるんだと、野心に満ちたキャラクターでしたよね。『機動戦士Zガンダム』のバスクとか、『機動戦士Vガンダム』のファラとか、ギラギラしてたり、残虐だったり、狂気を感じさせたり、エンターテインメント作品として成り立たせるために負の側面を際立たせて描いていた気がするのですが、『G-レコ』はというと、わかりやすい悪役は一人もいないんです。みんなやりたくて戦争をやっていない。アメリアにしても、キャピタル・アーミィにしてもフォトン・バッテリーは確保しなきゃいけないという、ちゃんとした理由がある。現実世界だって、それぞれに正義があって立場があって、銃を人に向けざるを得ない状況に追い込まれてしまう。そういうところがとても作品として「清浄」というのかな。要するにストーリーとして勧善懲悪じゃないってことなんですよ。手段としての戦争で、そこにわかりやすい悪役とか、わかりやすい敵討ちのエピソードとか、個人的な怒りや憎しみがほとんど介在しない作品であるからこそ、話がわかりにくくなる面がある。富野監督は実は昔から勧善懲悪ではない作品を作りつづけてきて、立場が変われば正義が変わる。それがリアルな戦争だったりするんですね。『G-レコ』はそういう意味でベルリたちが生きる世界での世界情勢をリアルに切り取っているだけでしかないんです。
──富野監督の戦争観は一貫して変わらないというわけですね。
吉沢 G-セルフも兵器である以上、たくさん人を殺してしまうかもしれない。それは立場や状況がそうさせているだけなんですが。そんなとき演出の描写としては、G-セルフにカゲをいっぱい付けて悪役っぽくするとか。そんなことをアニメーターさんと相談しながらやっています。
3 『G-レコ』は新しい娯楽の形?
──観る方に押さえておくとより面白く感じるポイントを教えてください。
吉沢 ありません! 『G-レコ』は大勢のお客さんが満足するようにエピソードのパターンを組み合わせて、ストーリーに緩急が付けられているハリウッドの脚本とちょっと違う。パターンから外れた、ひたすらハイテンションにリギルド・センチュリーを駆け抜けていく作品。ラッシュフィルムのとき、ふと感じるのですが、「今までこういうタイプの映画観たことあるかな?」と。『G-レコ』は新しい娯楽映画の形のひとつかもしれないですね。
──「ラスト5分が泣ける!」といった作品ではないと。
吉沢 “富野由悠季”というクリエイターを知らない方々にこそ『G-レコ』を観てほしいですね。「ガンダム」というタイトルが付くと、過去のガンダム作品を観ていないとおもしろくないんじゃないかと思われがちなんですけど、そういうことを一切考えないで、この不思議な作品に触れてほしいです。受け取り方は人それぞれ自由でいいと思うのです。これが2020年に富野監督が送り出す、巨大ロボットアニメなんだと思います。予備知識ももたないで身構えずに『G-レコ』の世界に飛び込んでほしいです!
PROFILE
吉沢俊一(よしざわとしかず)
アニメーション監督、演出家。『TIGER & BUNNY』、『Gのレコンギスタ』、『機動戦士ガンダム サンダーボルト』などの演出を手がける。『機動戦士ガンダムNT』で監督デビュー 。
▼劇場版『Gのレコンギスタ Ⅱ』「ベルリ 撃進」 公式HP
http://www.g-reco.net/
▼劇場版『Gのレコンギスタ Ⅱ』「ベルリ 撃進」 公式Twitter
@gundam_reco
©創通・サンライズ