本日10月28日(水)発売となった「機動戦士ガンダム 劇場版三部作 4KリマスターBOX」。発売を記念して、AV評論家 鳥居一豊さんによる「機動戦士ガンダム 劇場版三部作 4KリマスターBOX」の4K ULTRA HD Blu-rayコラムをご紹介します。
AV評論家 鳥居一豊が観た「機動戦士ガンダム 劇場版三部作 4KリマスターBOX」
ガンダムの原点である『機動戦士ガンダム』のTVシリーズ。TVシリーズは1979年4月に放送開始、劇場公開は1981年〜1982年で40年以上前の作品だ。劇場版三部作はファンならば誰もが一度は観ていると思うが、現代のアニメ作品と比べて古さを感じてしまうのは仕方がないところ。しかし、それでもアムロ・レイが少年から大人へと成長していく物語、シャア・アズナブルの復讐劇、ジオン公国の独立戦争というドラマは、今観ても素晴らしい作品だと実感できる。
その劇場版三部作が『機動戦士ガンダム 劇場版三部作 4KリマスターBOX』として登場。劇場公開用の35mmマスターポジを5Kスキャンし、フィルムのキズやゴミの修復、色調整、HDR化などの工程を経て、4K解像度(3840×2160ドット、ただし4:3のスタンダードサイズのため両側に黒幕がある)の映像に仕上げられた。音声はドルビーアトモス。最新の映画で採用されるサラウンド方式で、映画館のスクリーンの裏と側面と後面にあるスピーカーに加えて天井に設置されたスピーカーも使用し、前後左右と高さの表現を可能にしている。ドルビーアトモスの採用は「ガンダム」シリーズとしては初となる。
さっそく自宅の試聴室で再生してみたが、映像・音ともに予想していた以上に鮮度の高い仕上がりになっていた。第1作の『機動戦士ガンダム』の冒頭で、サイド7に潜入するモビルスーツ、ザクの頭部がアップになるが、そこでのモノアイの輝きと特徴的な音を聴いただけで、記憶の中で美化されていた当時の衝撃が鮮やかに蘇った。宇宙の中に浮かぶ円筒型のスペースコロニーやその内部にある人々の住む街を描いた背景、セルと呼ばれる透明なシートに絵の具で塗ったキャラクターが実に鮮やかだ。これまでに発売されたBD版なども画質としては十分に優秀だったが、映像の緻密さや色の鮮やかさがまるで異なる。キャラクターの描線は線の太さがしっかりと出て、生のセル画を見ているような生々しさがあるし、背景画も筆致までわかるほどに鮮明。まさしく「これぞ4K!」と言いたくなる精細感だ。そして、色も実に鮮やかだ。ジオンの攻撃にさらされるホワイトベース内の場面は暗いシーンも多いが、暗いながらも色がしっかりと出て、特に序盤の避難民が館内に大勢居る場面での緊迫感や恐怖感がよく伝わる。モビルスーツの戦いでも、第2作「機動戦士ガンダムII 哀・戦士編」でのランバ・ラルとの一騎打ちが描かれる昼の砂漠地帯の明るいシーン、夜間に黒い三連星がホワイトベースを急襲する場面など、明暗の違いがより豊かになり、臨場感が増す。これはHDRと呼ばれる高輝度再現の技術のため。色が豊かになるだけでなく、明暗の表現の幅もより広くなっており、鮮やかな色だけでなく、暗い色やくすんだ色もそのままの色ではっきりと再現できる。暗いシーンの見通しがよくなることで今まで気付かなかったものまでよく見えてくるが、明るい光の眩しさも衝撃的だ。第3作「機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編」でのソーラ・レイによるレーザー光は、アムロのセリフが脳裏に蘇るような迫力がある。また、ニュータイプとして共鳴したアムロとララァが語り合う幻想的なシーンで流れていく無数の星の煌めきも美しい。モビルスーツや戦艦のビーム兵器、爆発などのさまざまな光がそれぞれに違った輝きで表現されているので、戦闘シーンが実に見やすく、しかもその場に居るような感覚さえある。
こう言ってしまうと、今までとはまったく別物になったと感じさせてしまうかもしれないが、そうではない。質的には大幅に向上しているが、その印象はオリジナルそのままだ。40年以上前の子供の頃に観たときの衝撃や感動がそのまま蘇ったような新鮮さだ。フィルム特有の粒子感も残っているが、絶妙な調整を施したようでフィルムらしいトーンではあるが現代のデジタルアニメとは明らかに違う感触になっており、昔のアニメの懐かしい質感をきちんと残しつつ、初めて観たときの感激が蘇るような鮮度の高い映像になっている。
そして、ドルビーアトモスの音響も同様だ。こちらもオリジナルに忠実な再現となっているので、最新のアクション映画のようにビームライフルの音が四方八方に移動することもなく、前方主体の音場再現になっている。ところが、印象は大きく違う。すべての音がダイナミックで力に溢れている。「ガンダム」の魅力のひとつであるが、当時のアニメ作品としてはかなり本格的にSF設定が行われており、それはコロニー内を走る電気自動車をはじめ映像面でも数多く描写されている。それは音も同様で、宇宙空間のシーンでは呼吸音に近い音が聴こえていたり、戦艦の中では機械の動作しているような暗騒音が満ちていたりする。こうした環境音は前後左右と天井のスピーカーから出ていて、その音に包まれているような感じになる。音楽は前方主体になるが小さめの音量でその他のスピーカーからも出ていて、音楽が豊かに鳴っているホールのような響き感がある。肝心の声は前方の中央から出る。無理矢理にさまざまな音を各チャンネルに振り分けるのではなく、映画の音の三要素であるセリフ、音楽、効果音を最適な形で各スピーカーに分担させている。
だから、最新の映画のような派手さはない。オリジナル音声そのままと感じる人も少なくないだろう。だが、今までは1つのチャンネルにまとめられていた音を、複数のチャンネルに分けたことで、それぞれの音が混濁したり、重なって細かな音が聴きづらくなったりすることもなく、すべての音が明瞭に聴こえるのだ。劇中の数々の名セリフはより力強く感じられるし、怒りや悲しみの感情もよく伝わる。ひとつひとつの音が明瞭になることによって息づかいのような小さな音で聴こえ、実にドラマチックなセリフのやりとりを楽しめる。
そして音楽も実にダイナミックだ。モノラル音声ではセリフなどを邪魔しないように音量を制限してしまうが、ドルビーアトモスのような多チャンネル再生ならば細かなの音の再現性が高いので音楽もより大きな音を出せる。そのため、より情感豊かに音楽が響くのだ。『哀・戦士編』でのテーマソング「哀・戦士」、『めぐりあい宇宙編』での「めぐりあい」が、記憶がではなく身体が覚えているタイミングで、あのシーンでよりパワフルに鳴ることを想像してみてほしい。それが期待通りに実現できているのだ。
もちろん、特徴的な効果音も含めてすべての音はオリジナルのままだと思われる。ただし、映像と同様にリマスターと呼ばれるノイズの低減やダイナミックレンジの復元などの作業は念入りに行われているようで、ひとつひとつの音が実にクリアーだ。印象としてはオリジナルのままなのに、音の鮮度、明瞭度が向上していて新録されたかのようにさえ感じてしまうほど。
このように、4Kリマスターされた『機動戦士ガンダム 劇場版三部作 4KリマスターBOX』は、どこまでもオリジナルのまま、1981年〜1982年に制作されたできたての新作のような新鮮さをもって蘇った。ソフトの制作に関わった方々は劇場公開当時の再現、貴重なオリジナル版をありのままにデジタルアーカイブすることを目指したはずだ。
ガンダムファンには、劇場公開時にはまだ生まれてさえいなかった人も数多いが、今まではその当時から熱狂していた人々の話を大げさに感じていた人も少なくないかもしれない。だが、「4KリマスターBOX」を見ればきっとおじさんたちの熱狂が理解できると思う。40年前の作品という古さはまるで感じないだろう。「ガンダム」の凄さを改めて実感できるはず。当時を知る人にとって「追体験」であり、その後にビデオなどで見た若い人たちにとっては「新体感」となるはずだ。
- 鳥居一豊
- オーディオ・ビジュアル専門誌での編集スタッフを経て、フリーライターとして独立。月刊「HiVi」誌のほか、さまざまな媒体でオーディオ、ビジュアル関連の記事を執筆中。アニメとの付き合いは小学生以来。趣味として膨大なテレビアニメや劇場用アニメ、OVAを見続けている。自宅には約15畳強のサイズの専用シアタールームがあり、4K映像とドルビーアトモス対応の4.2.2ch音響システムで映画やアニメを堪能する日々を過ごしている。
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機動戦士ガンダム 劇場版三部作 4KリマスターBOX[特装限定版]
2020年10月28日発売
価格:¥30,000(税抜)¥33,000(10%税込)
品番:BCQA-0010
※本商品は、ドルビーアトモス音声に加え、1981年~1982年の劇場公開時オリジナル音声も収録しております。また、2000年12月21日に発売されました特別版の5.1ch音声は収録されておりません。
※UHD BDのご視聴にはULTRA HD Blu-rayに対応した専用プレーヤー、再生環境が必要です。4K(HDCP2.2対応)及びHDR(ハイダイナミックレンジ)に対応していないテレビ等でご覧になる場合は、本来の画質では再生されません。※“ULTRA HD Blu-ray™” および “4K ULTRA HD”ロゴは、ブルーレイディスクアソシエーションの商標です。
©創通・サンライズ
▼バンダイナムコアーツ 4K ULTRA HD Blu-rayサイト
https://v-storage.jp/sp-site/uhd/
▼『機動戦士ガンダム 劇場版三部作』公式サイト
http://www.gundam.jp/movie/