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田口清隆監督(ウルトラマンブレーザー)×坂本浩一監督(ウルトラマンレグロス)Blu-ray & DVD発売記念! スペシャル対談

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従来の殻を破らんとする野心的なコンセプトに早くも注目が集まっているニュージェネレーションシリーズ10作目となる『ウルトラマンブレーザー』(テレビ東京系で毎週土曜あさ9時から放送中)、そして歴代のウルトラヒーローが怒涛のアクションを繰り広げる「ウルトラギャラクシーファイト」シリーズからのスピンオフ作品『ウルトラマンレグロス』(TSUBURAYA IMAGINATIONで配信中)。今回、両作品のパッケージ化決定を記念して、田口清隆監督(ウルトラマンブレーザー)、坂本浩一監督(ウルトラマンレグロス)のスペシャル対談が実現した。今やウルトラマンには欠かせない二大監督が振り返るニュージェネレーションシリーズ10年の歩み、そして、『ウルトラマンブレーザー』、『ウルトラマンレグロス』について、それぞれがどう見たか? WEBでは初となる二大監督の濃密トークをお届けします!

『ウルトラマンギンガS』での出会い

──まずは、お二人の最初の接点からお聞かせください。

坂本お会いしたのは、『ウルトラマンギンガS』(2014年)のときですよね。

田口坂本さんといえば、その前に『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』(2009年)を拝見していまして、ゴモラがザラガスと戦う場面で、股下にカメラが入って行くのを見て、「うわ、すげぇカットが出た!」と。あれには衝撃を受けました。

坂本『ウルトラ銀河伝説』は全編GB(グリーンバック)撮影で、ウルトラマンシリーズでは初の試みだったじゃないですか。逆にGB撮影でしか成立しないことをやりたいと思っていて、色々なカットを考えたんです。

──それを経ての『ギンガS』ですが、改めて当時を振り返ってみていかがでしたか?

坂本『ギンガS』は自分がメイン監督でしたが、田口さんが撮られるエピソードは、どれもご自身のカラーがハッキリと出ていて、自分とは違う視点、角度の演出を楽しんでいました。

田口当時はかなり鼻息が荒くて(笑)、今自分が撮った回を見返すと、周囲を押しのけて出て行こうとする気概を感じますね。

坂本お互いものすごく元気でしたね(笑)。自分たちだけじゃなくて、どの監督さんもけっこう実験的な映像作りにチャレンジしていたと思います。そんな中、田口さんの担当だと、ファイブキング回(※第7~8話)が忘れられないです。あの回のコンテを見たときはあまりのボリュームに「これ、どうやって撮るんだろう?」と思っていて、しかも全てセットで撮ると聞いて驚いたんですよ。

田口『ギンガS』は、念願だった初のウルトラマンシリーズへの参加で、ファイブキング回は、ちょうど前半のクライマックスだったし、それこそ「ここで最終回でもいいんじゃないか!」くらいの意気込みで撮りました。

坂本毎回、田口さんの回を観る度に「今度はこう来たか!」と刺激を受けています。

田口坂本さんが撮られた第1~3話は、スピーディなアクションが、観ていてすごく気持ちいいと思ったんですよ。カット割の早さや、ガッと相手を掴んで、パパパッと相手を倒す感じとか。僕はゴジラの現場育ちで、巨大感を出すためにハイスピードでコマ数を上げて撮影しているから、割と遅いんです。だけど、あれから10年経って見返すと、僕自身、「すっごい遅いな!」と感じるようになって。当時は「これこそが巨大なんだ!」と自信を持って撮っていたのが、いま見返すとゆっくり過ぎに見える(笑)。10年の間で、坂本さんの影響を受けたこともあり、自分の中で切り替わっていることに気付かされました。それこそ、『ギンガS』当時は、坂本さんみたいな素早い感じの戦いを再現するにはどうすればいいのかと思って、現場のみんなに「坂本さんの場合はどうしてるの?」と聞いたりしていましたよ(笑)。

坂本自分も全く同じですよ。破片が派手に飛び散る爆破をやりたくて、「爆破のとき、田口さんはどうやってるの?」と聞いていました(笑)。

田口チップをたくさん入れるやつですね。ライバルというわけじゃないけど、ニュージェネでは、お互いメイン監督をやりつつ、切磋琢磨しながらやってきたんですよね。

──田口監督がメイン監督作品の中で、坂本監督とのエピソードはありますか?

田口『ウルトラマンZ』(2020年)のときなんですけど、坂本さんの第23話が、台本では、わんさか出現した地球怪獣をウルトラマンゼットが倒す展開だったのを、「これまでのハルキを考えると、自分の回でああいう展開にならない気がするんです」と言ってくださったことがあったんです。レッドキング夫婦が登場する第11~12話でハルキが悩むじゃないですか。

坂本レッドキング回のハルキの行動が、脚本から得た印象とちょっと違っていたので、23話の方を少し修正しないと繋がらないと思ったんです。確かMAの際に田口さんと話をする機会があって、色々と疑問に感じていたことを質問したんです。

田口そこで坂本さんから「ズバズバやっつけずに、逃がしたほうがいいんじゃないですか?」と提案を受けて、「なるほど、そうしましょう!」と変更したんですよね。

坂本最終的に暴走状態だったタッコングとキングゲスラが、自我を取り戻して逃げ帰って行く流れに落ち着きました。通常メイン監督と言っても、自分の担当回を撮るだけで、他の監督の回の打ち合わせはプロデューサーにお任せする形で、直接監督陣とは接点がないんです。それが『Z』に関しては、田口さんがシリーズ構成も担当(※吹原幸太さんと共同)されていたことが、他の作品と大きく違うところでした。各話の打ち合わせにも田口さんが参加していて、意思疎通を図ることができたのが大きかったと思います。

田口第23話は、MAで観るタイミングがあったんですけど、ヨウコ先輩がハルキと分かれて、基地に戻って行く際の後ろ姿をハイスピードで捉えたカットがあって、思わず「ヨウコ先輩が死んじゃう!?」と涙ぐんでしまったんです。自分でシリーズ構成をやっていて、先の展開を知ってるのにも関わらず(苦笑)。『Z』の世界観を考えて撮ってくださって、本当に感動しました。

坂本自分としては、作品の世界観も含めて、田口さんが考える『Z』という作品に対して、「自分が出来ることは何か?」と常に考えながら撮っていました。

田口最終回へのバトンもすごくいい形で渡してくださったと思っています。

ニュージェネレーションウルトラマンの10年

──メイン監督を務めた回数から言えば、まさにニュージェネレーションウルトラマンシリーズを牽引してきたお二人ですが、この10年の歩みについてはどのように思われますか?

田口『ギンガS』の頃からポツポツ見直していくと、初めの頃はお互い自分の色を個々にバーンと出していたと思うんですけど、『ウルトラマンジード』(2017年)辺りから、どんどん融合していくんですよね。

坂本ああ、それはありますね。

田口僕はいつも、ハイスピード42コマとか96コマで撮ってるんですけど、坂本さんは格闘でよく、24コマのところを22コマで撮られていて、僕は最初にそれを聞いて「え、巨大特撮を22コマで撮るの?」と驚いたんですよ。でも、『ウルトラマンタイガ』(2019年)のウルトラマンフーマの登場回(※第4話)で、初めて22コマに挑戦してみたところ「カッケー!」と思って。特に宇宙人相手に組手みたいなアクションをさせたいときは効果的ですね。時々そうやって実験してみては「あ、なるほど、これはいい!」と思うことはよくありますね。

坂本そういう意味では、自分は本格的にミニチュア特撮に取り組んだのは『ギンガS』が初めてだったんです。『銀河伝説』では、岩ひとつ取っても全てグリーンだったし、以前に他の作品で一部やってはいたんですけど、『ギンガS』で、田口さんのミニチュア特撮に衝撃を受けて、そこからまた試行錯誤しながら学んでいったところがありますね。

──田口さんは、坂本さんがメイン監督を務める作品に入る上ではどういった意識で取り組んでいますか?

田口坂本さんがメインで、自分がサブで入る場合は、坂本さんの真似をしても良いというか(笑)、枷が外れるところがありますね。特に『ジード』で感じたことですが、「思いきりアクションをしてしまえ」とか「ここは早くていい」とか、いい意味で割り切れるんです。逆に普段だと、「坂本さんっぽい」と言われないように意識しているんですけど(笑)。

坂本(笑)。

田口それは特撮だけではなくて本編でも一緒で、坂本さんの場合、OP映像に顕著ですが、レギュラー陣のわちゃわちゃした感じがありますよね。そういう雰囲気を敢えて取り入れたり、堂々と実験できるのが楽しいですね。

坂本なるほど!それは自分も同じですよ(笑)。さっき話した『Z』もそうだけど、自分も田口さんがメインの作品に入る場合は、その作品のスタイルを自分なりに解釈しながら出していきたいと考えています。たとえば田口さんは、防衛隊の描き方がリアル志向じゃないですか。自分と田口さんは、お互いメイン監督が続くケースが多くて、そうなると、やっぱり前作とは味を変えたいと思うし、自分の場合は防衛隊のメンバーも、もうちょっとアニメ寄りというか、キャラを立てる傾向にあったりするんです。自分と田口さんでは、そもそもキャスティングの雰囲気からして違いますよね(笑)。

田口そうですね(笑)。

坂本自分の選んだキャストが別にふざけているわけじゃないけど(笑)。田口さんのキャストが来た時は、けっこう真面目な方が多い印象です。

田口キャストの構成にまで、お互いの性格が出る(笑)。

坂本明らかにノリが違う(笑)。

──坂本監督がメインを務めた作品で、田口さんの担当回で印象に残るものを挙げるとすればいかがですか?

坂本そうですね、『ジード』のお父さん回(第12話)でしょうか。

田口寺田農さんが出てくださった回ですね。

坂本ええ。田口さんは人間ドラマと巨大な怪獣を一緒に描くことに様々なアイデアをお持ちで、これがまた毎回「すごいな」と思うんです。この回ではリアカーにお父さんを乗せてリクが引っ張って逃げる、その奥にペダニウムゼットンが現れるカットがあって、仮にそういう画を思い浮かんだとしても、実際に撮るまでには「これは大変だろうな」と思いとどまったりして、撮影に至らないことがあるんです。だけど、田口さんはそこを果敢にチャレンジされていて。それから、自分自身はアクションシーンのカットを細かく割るほうなんですけど、田口さんはけっこう長回しで撮られていますよね。自分が長回しを躊躇する理由は、長回し=段取りやセッティングに時間がかかる、からなんです。それにアクション出身者としては、スーツアクターの負担もつい考えてしまいます。でも、やっぱり田口さんの出来上がったカットは素晴らしいし、そういうところで、考え方の違いが表れているのも面白いと思います。

──世間では「アクションの坂本浩一」、「特撮の田口清隆」と言われていますね。

坂本それは育ちの違いがありますね。

田口僕はゴジラの特撮班育ちですし。

坂本自分はスタントマン出身ですから(笑)。

田口だから、そのまま(笑)。

坂本たぶん、若い頃に刺激を受けたものが、それぞれ違っていて、それがひとつの作品に関わることで、さらなる面白さに繋がって行ったんじゃないかと思います。

田口本当にそう思いますね。

坂本アクション出身の自分としては、スタントマンがよろけると「何よろけてんだよ!」とか、足が伸びてないと「あ~伸びてねぇ!」と思っちゃうんだけど(笑)、田口さんが「それもまた味になる」と何かのインタビューで話しているのを読んで、そういうところで良さを出していくのか!と。

田口僕はプロレスが大好きなんですけど、後半戦になるとズタズタ、ボロボロになりながらやっていて、ああいう感じが怪獣バトルに垣間見えても面白いんじゃないかなと思うんです。怪獣も生き物だから、相手に手が届いてないとか、態勢が悪いとかあっても別に構わない。もちろん、完全に失敗していたらダメだけど、何なら転んでしまっても、面白ければOKだと思って演出しているところがありますね。

坂本その発想が自分にはなかったので、失敗すると「こうだ!(実演して見せる)」と、ついやってしまう(笑)。

田口自分ではそういう違いを認識してなかったけど、そういえばそうか。

坂本そうですよ!(笑)。

田口『ジード』で一度融合したものの、さらに実験を重ねてお互いの良さを磨き上げて行ったひとつの完成形が『Z』で、またそれぞれに、自分のものにしてやっているようなところがありますね。そして、坂本さんがメインだった『ウルトラマントリガー』(2021年)の時は、それだけに飽き足らず、もっともっと貪欲に坂本さんのカラーを出していきたい、みたいな意識を持ってやっていました。

『ウルトラマンブレーザー』&『ウルトラマンレグロス』

──ここからは、本題の『ウルトラマンブレーザー』&『ウルトラマンレグロス』(共に2023年)ですが、お互いどのように作品をご覧になりましたか?

坂本まさに両極端の作品ですよね(笑)。

田口『レグロス』は、いよいよ坂本さん全開!といった熱気に満ち溢れていますね。ニュージェネと並行して、ここ数年、「ウルトラギャラクシーファイト」(以下、UGF)のシリーズが続いていて、坂本さんとは以前、食事をご一緒した際にジャッキー・チェンやカンフー映画への熱い思いをお聞きしていたので、10年を経て、「やりたいことをやってるな!」……と言ったら失礼かもしれませんが(笑)。

坂本いやいや、『ブレーザー』も同じじゃないですか! 第1話を1シチュエーションだけでやっていて、「好きなことをやってるなぁ」と思いましたよ(笑)。

田口お互いニコニコしながら観ちゃいますよね。『ブレーザー』は、実際やりたいことをかなりやっているんですけど、10年を経た今だからこそ実現できたと思っています。坂本さんも『レグロス』については、そういった感触をお持ちですか?

坂本ええ。UGFを続けて来たことで、ウルトラマンだけの活劇が新しいジャンル、方向性として確立できたと思っているし、『レグロス』では、満を持して、自分が大好きなカンフー映画の要素を取り入れたところはありました。UGFの場合、ウルトラマンシリーズを海外に広げていくことを視野に入れて作っていますが、その中でも特にアジア圏は大きく意識していましたからね。その辺りを踏まえて、従来とは異なるドラマを描く上で、現状のような世界観に落ち着いた感じです。

──振り返ると、UGFの三作目の『大いなる陰謀』のラストにシルエット処理でレグロスが登場していて、あれがもう3年前ですから、かなり以前から仕込んでいたのではないでしょうか?

坂本UGF自体が長期展開を見越して立ち上げたシリーズで、それこそ4~5年前から構想を立てていました。途中、『トリガー』の第14&15話でディアボロを登場させたり、徐々に映像化していく作業をしていたんですよね。

田口風の噂で、「坂本さんが何かやってるらしい」とは聞いていました(笑)。

坂本もちろん、全てがガッチリ決まっているわけではなく、「この先はこうなるんだろうね」と予測しながら作っているところもあるんですけど、とにかく種はいっぱい巻いたので、後はそれらをどう回収していくか……ですね(笑)。

──ウルトラマンブレーザー、ウルトラマンレグロスと、新たなヒーローを創出する上でのエピソードもうかがえればと思います。

坂本レグロスは、ご覧いただければ分かるように完全にウルトラマンレオの系譜に連なるデザインです。これまで大勢のウルトラヒーローが登場して来ましたが、レオをベースに発展させたウルトラマンは過去に例がなかったので、この機会に是非チャレンジしてみたいと思いました。

──『ウルトラマンレグロス ファーストミッション』(2023年)で描かれていますが、両腕に紋章が入るアイデアはどのようにして決まったのでしょうか?

坂本カンフーには様々な流派がありまして、昔は流派を極めた証として刻印を押す儀式があったりしたんですよ。その刻印を見れば、その人がどの派を会得しているのかが分かる。そういった風習とか伝説をレグロスに取り入れてみました。格闘技で言えば黒帯のようなものですね。

田口そうなんですか。全くの偶然ですが、ブレーザーの左側の模様は、強さを表すためのトライバルタトゥーをイメージしていたんですよ。

坂本自分は様々な国で仕事をしていますが、実際にそういう人たちがいますよ。

田口意外にも共通点があって驚きました。顔も切られて放出したエネルギーが結晶化したイメージで、デザイナーの後藤正行さんにカッコよくデザインとして落とし込んでもらいました。自分としては、母星で自分よりも巨大な怪獣と戦っていたハンターだと捉えていて、割といい感じにワイルドさを表現できたと思っています。

坂本なるほど、ハンターと聞いて納得しました。デザインはもちろん、実際に映像を観ていても、まさにそういった雰囲気で活躍していますよね。

──田口監督は『レグロス』をご覧になって特に印象に残った要素を挙げるといかがですか?

田口観ていて「やってるなぁ」と思ったのが、いわゆるカンフーの特訓シーンです。けっこう尺も長くて、何となくの印象ですが、テレビだともうちょっと短く編集すると思うんですよね。

坂本ああ、確かにそうですね。

田口組手とかもじっくり見せていて、ファンを引き摺り込もうとしている感じがして、すごく尖がって見えたんですよ。僕も時々やるんですけど、ちょっと長いなと思わせるほうが、逆にそれが印象に残るものなんです。今回、特訓シーン自体も多くて、「あ、この特訓シーンも丁寧に描いていくんだ」と思いながら観ていて、そこは、まさに坂本さんがやりたかったことなのではないでしょうか。

坂本『レグロス』は、UGFのスピンオフ作品で、元々1話10分単位でアクションを目いっぱい描くのがコンセプトで、元々は『ウルトラファイト』(1970年)からの流れなんです。だから、アクションに関しては思う存分、遠慮することなく見せてもOKなんです(笑)。

田口本編でいうところの会話に当たるのがアクションなんですよね。

坂本そう! まさにそういったイメージです。物語を走らせるためにアクションをするみたいな。

田口それが逆に新しいですよね!

──『レグロス』では、『ファーストミッション』のウルトラマンシャドーをはじめ、レア怪獣の登場も隠れた見どころです。また、『レグロス』本編のグエバッサーは遡ると、田口監督が撮られた『ウルトラマンオーブ』(2016年)の第1話怪獣だったりしますね。

坂本怪獣に関しては、使えるものをまとめたリストがあって、いつもそこから選ぶんですが、数が限られているのでいつも苦労しています。そんな中、できるだけ設定やシチュエーションに相応しい怪獣を出したいと思っていて、今回は何か特に縛りのない、言わば野生の怪獣を……と選んだのがグエバッサーでした。逆に『ブレーザー』は、記者会見で新規怪獣がたくさん登場してビックリしましたよ。

田口『ブレーザー』では、できるだけそういう野生の怪獣をたくさん出していきたいと思ったんです。一回限りの特別な怪獣ではなく、地球や宇宙のどこかにいてもおかしくない怪獣たちです。坂本さんの『レグロス』に話を戻すと、グエバッサーの元のマガバッサーは魔王獣の一体だったけど、『ウルトラマンR/B』(2018年)の第5話を撮る際に、マガクリスタルを取って、野良の怪獣にしたんですよね。だから、ああいう形で使ってもらえたのはとても嬉しかったです。後、怪獣では『ファーストミッション』のダリーにも驚きました。SNSのトレンドにまで入っていて(笑)。

坂本あれはアトラク用なんです。

田口アトラク用に何があるかは、意外と僕らも知らなかったりするんですよね。

坂本そう、自分も「え、ダリーがあるの!?」って(笑)。

田口『トリガー』に登場したパワードダダ(※第8話)も、アトラク用があるらしいと噂を聞いて、確認したら、頭部は確かにアトラク用だったけど、ボディは当時使われた本物だったんです。

坂本風の噂で残っていると聞くのは「あるある」ですね。『ウルトラマンデッカー』(2022年)のグレゴール人(※第9話)も、リストには入ってなくて、アトラク倉庫の片隅で埋もれていて。

田口現在はアトラク用になっているけど、実は当時の本物だったりすることもありますね。

──『レグロス』では、りゅう座D60星の幻獣闘士が大勢登場しますね。

坂本顔や手は造形ですが、身体を衣装にすることにより、かなりの数の新キャラクターを登場させることができました。

田口マグマ星人の侵略部隊が、映像としてちゃんと描かれるのは、『レグロス』が初ですよね。

坂本ですね。

田口歴史の出来事として頭に入ってはいたのですが、まさにその歴史が映像化されていて、あれは観ていて興奮しました。

坂本やっぱり『レオ』が好きなので、あの場面を描けると決まった時は、自分でも感動しました(笑)。

田口アストラの拷問シーンとか、まさに歴史の1ページですよ。

──坂本監督は『レグロス』で苦労された撮影はありましたか?

坂本一番はカンフーをやりたかったんですけど、日本のアクション部だと、カンフーができる人はそこまでいないんです。それで全て自分がお手本を見せながらやらなくてはいけない大変さがありました。事前に動画を渡してアクターに覚えてもらい、あとは現場で「ここはこうだ!」と細かく指導しながら撮影を進めていきました。それこそカンフーの本場・中国の方もご覧になるわけじゃないですか。そこで「このカンフーはニセモノだ」とは絶対に思われたくなかった(笑)。現場ではけっこう厳しく、手の形や腰の入れ方とか、アクターに注文を出していましたね。

田口なるほど。さっき僕が言った、カンフーをちゃんと見せているというのは、まさにそういうことですか。今、お聞きして自分でも腑に落ちました。

坂本アクションの段取りで、相手が右手で攻撃してきた場合は、左手で受ける場合が多いですが、カンフーの場合は、逆に腰を捻って右手で受けたりするんです。その辺のディテールもレグロスでは拘ってやってもらっています。

田口僕は格闘技には詳しくないんですけど、「なんかいつもと違う動きをしているな?」と思ったのは、そういう拘りだったんですね。

坂本格闘技といえば、ウルトラマンブレーザーのアクションは、タイのムエタイをイメージして考えたんですか?

田口基本的には宇宙人だから、地球の文化にない動きにしたいと最初に注文をしていて、なるべく野性的に、相手に対して最短距離で攻撃させたいと話していたのが、結果的にムエタイに近いアクションになりました。実際に考えてくださったのは、スーツアクターの岩田栄慶くんとアクションコーディネーターの寺井大介さんです。

坂本戦う前のブレーザーの構えも新鮮ですよね。

田口あれは戦う前の構えを、戦闘的なものじゃなくて、何かブレーザーらしく、それでいて子どもが真似してくれるようなポーズを入れたいと思ったんです。ちょうど第3話のオープン撮影の現場で、寺井さんに相談したら、「礼的な感じ?」と提案があって、一緒にいた栄慶くんが「じゃあ、こんな感じ?」とやって見せてくれたのが、まさにあのポーズで、本当に撮影の10分くらい前に決まったものなんです。

坂本タイは仏教国で、ムエタイは試合前に「ワイクルー」という儀式があり、ダンスをしながら感謝を捧げますが、コンセプトとして似たものになったという感じですね。独特な構えで実にインパクトがありますよ。

田口しかも、かなり姿勢が低い。記者会見だと埋もれてしまいそう(笑)。

坂本第1話を観て、宇宙人ならではのワイルドな戦い方には驚きましたね。そうそう、驚いたとはいえば、もうひとつ。以前、レグロスのプロモ映像を撮る際にブレーザーのプロモ映像も一緒に撮らせて頂いたのですが、撮影前に参考として第1話を拝見させてもらったのですが、ブレーザーの声を聞いて「あれ、岩田くんの声じゃないの?」って(笑)。

田口気付きましたか。さすがです!

坂本それが初見だったから「完成品と聞いたけど、岩田くんの声がそのまま残ってるよ?」とスタッフに聞いて、そこで初めて岩田くんが声も担当していることを知ったんです。すぐにLINEで岩田くんに「ブレーザーの声を聞いたよ!」と送ったら「え、分かりましたか?」と返事が来たから、「いや、分かるよ!」って(笑)。

田口前々から栄慶くんはウルトラマンの声もやりたいと言っていて、いつもならセリフがあるから声優さんが演じるけど、ブレーザーは基本セリフがないから、是非この機会にと思って提案して起用が決まりました。

坂本自分は『ジード』のゼナ役で出てもらったし、その後も「岩田くん推し作戦」で、色々な作品に出てもらっているんですが、「今回は声か!」と(笑)。

田口ブレーザーは毎回のアフレコがとても面白いんですよ。画面に映っているブレーザーと、全く同じ動きをしながら栄慶くんがアフレコしていて、妙に生っぽい(笑)。当然、同じ人だからピッタリ合います。

ウルトラマンシリーズの新たな可能性

──改めて坂本監督に『ブレーザー』をご覧になっての感想をお願いします。

坂本やっぱり尖ってるなぁと思いましたね。特に1話は1シチュエーションで背景説明もなく、隊員たちとの行動とウルトラマンの戦いだけで1本撮っているわけですからね。普通なら1話の構成の中のクライマックスに当たる部分を頭からやっていて、その中で作戦を細かく描写している辺りにものすごく拘りを感じました。

田口以前から隊員たちが作戦とか、何かひとつのためにワーッと向って行く展開が好きで、遡ると『ギンガS』の頃から漠然と構想していたんです。普段はなかなかできることじゃないけど、やれるとしたら第1話しかないなと。今回は「これでもか!」と、それこそハリウッド映画のクライマックスのような展開を目指しました。『Z』の第1話冒頭で、セブンガーとゴメスの格闘を実景合成で作ったんですけど、あれが好評だったので、まるまる1話分を使ってやってみたんです。

坂本ああ、そういうことですね。

──第1話は全編ナイトシーン、それも「池袋」という実在の場所を舞台に物語が進行するのも斬新でした。

田口スケジュール的に昼夜逆転の撮影を許可してもらい、サンシャインシティ側にもご協力いただき、閉店した23時から翌6時までを使って一晩で撮影をしました。昼夜逆転といっても、実際には昼間も別のシーンの撮影が入ったりして、かなり大変でしたが、今思うととても楽しかったですね。それと、池袋といえば、ウルサマ(ウルトラヒーローズEXPO サマーフェスティバル)の聖地じゃないですか。厳密に言うと、ゲントたちがもっと早く降下できる場所があるんですけど、敢えて文化会館の屋上に着陸して(笑)。

坂本そこは狙っていたんですね。

田口ウルサマに行く際には絶対に通るだろうと思っている場所で撮影して、聖地を「追い聖地」にしてやろうと。

坂本いや、そういう拘りがまたすごいですね。

──第2話はどういったコンセプトで撮られたのでしょうか?

田口第2話は「王道」ですね。当初からSKaRDのメンバーを集める話にすることは決めていて、それを描きつつ、いかに面白さを出せるか苦心しました。

坂本ブレーザーがスパイラルバレードを釣り竿みたいにして、ゲードスを吊り上げるのは田口さんらしい演出ですね。あの場面、スパイラルバレードを伸ばしていたじゃないですか。自分はそれを銛みたいに頭上からズバッ!と突き刺すのかと思ったんです。そしたら「あ、釣りをはじめるのか!」って(笑)。

田口最後は串焼きにしちゃいましたが(笑)。

坂本真面目な中にもオフビートなコメディを入れていく演出は、自分も好きですね。

田口第1話がかなりハードに攻めたので、第2話はとっつきやすくしたかったんです。それから、スパイラルバレードの使い方に関しては、ウルトラマンエックスのザナディウム光線が、監督によって色々な撃ち方をしていて、「ザナディウム大喜利」にみたいになっていたのがヒントになっています。

坂本ありましたね(笑)。

田口ええ。それを思い出して。そもそもブレーザーの必殺技は、従来の光線技じゃないし、光る自由自在棒みたいなことにして、各話の監督が好きに描いてもらえればなと思っています。実は第1話もアンダースローで投げているし、第1~3話から敢えてルールを外していて、そこは明らかに狙ってやっていましたね。

坂本第2話のラストには、アースガロンが登場していて、あれがどう活躍するのかも楽しみなところです。『Z』のセブンガーもそうだし、アースガロンもどこか可愛らしいところがあって、田口さんのロボット怪獣には通じるものがありますね。

田口アースガロンは、全くゼロの状態から、バンダイの皆さんと一緒に開発しました。実に様々な案を経て決まったのですが、ギミックも含めて、とても思い入れ深い一体です。第3話からの活躍を是非期待してもらいたいです。

──今回、『ブレーザー』と『レグロス』の2作品について語っていただきましたが、今一度思われることがあればお聞かせください。

坂本こうしてお話してみると、共通点がありつつも、『レグロス』と『ブレーザー』で両極端に位置するところがやはり面白いですね。自分は常日頃から、ウルトラマンのイメージはひとつだけでなく、その様々な広がりにバリューがあると思っているんです。神格化されたウルトラマンがいても構わないし、逆にウルトラマンだけの物語があってもいい。同時期にこうやって両極端の作品が登場したことで、自分もウルトラマンの大きな可能性を感じていて、それがまたシリーズとしてのさらなるブランド力に繋がっていけばいいのかなと。そういう気がしていますね。

田口『ブレーザー』のオンエアもついに始まりましたが、今回は防衛隊の隊長が主人公というのも今までにない試みです。ヒルマ ゲントはSKaRDの隊長であり、年齢も30代で子持ちの既婚者で、そんな彼が上官と部下に挟まれながら、どういう経験をしていくのか。そういったところに注目してもらえればと思います。

坂本いつもなら若い子が主人公で変身するけど、ゲント隊長は、年上ならではの余裕のある感じが、今までの主人公にはない要素でとても新鮮ですね。

田口さらにブレーザーは人語を喋れない設定にしているから、お互いコミュニケーションを取ることができないんですよ。『ブレーザー』では、これまでなんとなく当たり前で済ませていた部分を、片っ端から当たり前では済まさず、敢えてそれを枷としてやっていて、実際に作る上での大変さもあったのですが、その上手くいかない部分をどう突破していくかという話を目指しました。

坂本自分が『レグロス』で目指したのは、熱血&王道アクションです。子どもの頃から親しんでいたカンフー映画、少年漫画の世界観を熱く描きたいと思って自分なりに反映したつもりです。ウルトラマン、幻獣闘士たちだけで完結させられる世界観になっているので、ウルサマやエキスポでやっているショーのような感覚で、気軽に楽しんでもらえると思います。『レグロス』をはじめ、UGFでは、まだまだ描きたい要素がたくさんありますので、皆さんの求める声をどんどん高めてもらえれば嬉しいですね。

田口UGFは、これまで歴史だった部分が次々と映像化されているので、僕としても、今後の展開に目が離せません。

坂本自分も一ファンとして、『ウルトラマンブレーザー』をこれからも楽しませていただきたいと思っています!

取材・構成◎トヨタトモヒサ

PROFILE

坂本浩一(さかもと こういち)
1970年9月29日生まれ、東京都出身。アメリカ国籍。倉田アクションクラブを経て、1989年に渡米。「サイボーグ2」「リーサル・ウェポン4」などにスタントマンやアクション俳優として参加する。アメリカの特撮ドラマ「パワーレンジャー」のアクション監督に抜擢され、その後監督やプロデューサー、製作総指揮を歴任。特撮ドラマの監督作には「仮面ライダーフォーゼ」「獣電戦隊キョウリュウジャー」「ウルトラマンジード」、監督した劇場公開作には「大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE」「仮面ライダー平成ジェネレーションズ Dr.パックマン対エグゼイド&ゴースト with レジェンドライダー」「破裏拳ポリマー」、OV「スペース・スクワッド」シリーズなどがある。2019年に「BLACKFOX: Age of the Ninja」で自身初となる時代劇を手がけた。

PROFILE

田口清隆(たぐち きよたか)
1980年5月7日生まれ。北海道出身。中学生の頃から自主怪獣映画を撮り始め、日活芸術学院入学と共に上京。映画制作にかかわる中で樋口真嗣に見いだされ、2009年の監督作品『長髪大怪獣 ゲハラ』で商業監督デビュー。特撮のみならずミリタリー、FPS、ホラー等にも造詣が深い。ウルトラマンシリーズでは『ウルトラマンギンガS』以降全作品に参加、『ウルトラマンX』、『ウルトラマンオーブ』、『ウルトラマンZ』ではメイン監督を務める。他の代表作に『THE NEXT GENERATION –パトレイバー -』、自主制作配信作品『UNFIX』などがある。

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ウルトラマンブレーザー 公式サイト

ウルトラマンブレーザー 公式Twitter@ultraman_series

ウルトラマンレグロス 公式サイト

円谷プロダクション 公式Twitter@tsuburayaprod

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