インタビュー | 大室家 dear friends
『大室家 dear friends』公開記念 ひらさわひさよし(音響監督)×都築寿文(録音・調整)スペシャルインタビュー
「コミック百合姫」(一迅社刊)にて連載中の人気漫画『大室家』を映像化した劇場中編アニメーション第2作『大室家 dear friends』が絶賛上映中。そんな本作の大きな魅力の一つとなっている“音響”に携わった音のスペシャリストたちを直撃。音響監督のひらさわひさよしさん、録音・調整の都築寿文さんのお二人に、本作の音の魅力、音響に関わるスタッフ陣との制作秘話などのお話を伺った。
──映画『大室家』においてお2人がどんなことをされているのか、教えてください。
ひらさわ『大室家』での僕の最初のミッションは、委員会の依頼によって、キャストのオーディション候補を出すことでした。もちろん監督などいろんな方たちの総意で決まるものですが、最初に「この役にはこの人たち」という候補を出して、オーディションに参加していただきました。『ゆるゆり』から継続でお願いする方たちがすでにいるので、新規でお呼びする方たちは既存の方とのバランスを見ました。俳優さんたちの年齢やキャリアを考慮しつつ、リストアップをして、テープオーディションをさせていただきました。オーディションではお芝居の感じを中心にチェックし、聞かれたときには所感を述べるという形でした。
──その後はどのような作業を行うのでしょう。
ひらさわ声優さんによるアフレコを行ったらダビングという作業があります。ダビングというのは、収録した声のお芝居と劇伴、効果音を最終的な音として混ぜて完成させることですね。都築さんには、アフレコでは声の録音を担当していただいています。その後、都築さんの元に声のデータと音楽のデータが集まってくるので、それをダビングまでに作業してまとめていただき、さらに西さんが効果音を持ってきてくれるので、最後にミックスしてもらいます。
都築ダビングの日までに、セリフを場面に馴染むように加工をかけなければならないんです。屋外のシーンはそんなにかけないんですけど、今回の映画は屋内のシーンが多いので場面ごと、部屋の広さや高さに応じて響かせ方(アンビエンス)変わるので、どのくらいの音量で聴かせるかを考えます。また、効果音を担当する西さんにお会いできるのが、ダビング当日しかないので、事前にこんな感じでセリフは仕込みましたというデータを送っておくこともやりますね。
──劇伴はどのように調整するのですか。
都築『大室家』なら音響監督のひらさわさんから、「◯カットから◯カットまではこの曲を使ってください」という指示をもらいます。細かく指示が入っている場合もあるし、単純にこの曲をここからここまで使ってほしいという指示だったり。その場合、なんとなく、「この転調部分をこのセリフに当てたいんだろうな」と予想しながら編集していきます。一度プレビューで監督や音響監督に聞いてもらい、意見をもらって持ち帰る。最終的に調整したものを1週間後のダビングで聞いてもらって完成という流れですね。
──映画『大室家』の音響を作る上で考えられたことは?
都築実は僕、劇場アニメを手掛けるのは今回が初めてだったので、まずはエンジニア仲間に、劇場アニメの音響をどう作っているかを聞きました。TVアニメだと制約が多いんですが、映画ってある意味、自由度が高いんですよ。ただ『大室家』は日常系作品なので、アクションもののように音圧で迫力を出す必要はないけれど、劇場でかけるんだからそれなりの価値を出したいと思いました。
──TVシリーズと映画で、音響面での大きな違いというのは?
都築TVシリーズの場合、小さい音もある程度出してあげないと本当に聞こえなくなってしまうんですよね。それに対して劇場は専用の閉鎖空間なので、小さい音は小さく、大きい音は大きく出すことができます。この幅をレンジといいますが、レンジを広く録ることができるのが映画音響の特徴だと思います。小さい音は収録の段階から音を抑えて録りますし、ダビングでそんなにボリュームを上げなくても聞こえますね。
ひらさわ映画館って音を聴く環境としても優れているんですよ。ご家庭だとヘッドホンで聴く方もいればスピーカーで聴く方もいたりとバラバラですが、映画館はどこでも一定の基準がありますから。ただ映画館によって形式は違うので、あとは映画館の方にチューニングをお願いしています。
──映画『大室家』ならではの調整はありましたか?
ひらさわ日常作品なので、彼女たちが本当にここにいるように感じられる音響を目指しました。具体的に言うと、劇伴をバンバン貼る(流す)ことはしない。貼るときはちゃんと意味があるシーンで貼る。さっき言ったように映画館という密閉された空間なので、途中で席を立つ人はあまりいないと思うんです。だから大胆に、音を貼らないこともできるんですよね。効果音だけのほうが日常がリアルに感じられますし、劇伴もより印象的になるので、しっかり事前に打ち合わせをして、音楽の白戸佑輔さんにいいものを作っていただきました。
──たとえばオープニングの直後のシーンは劇伴が流れないですね。
ひらさわむしろ映画だからこそオープニング後は劇伴なしでスタートしたかったんですよ。映画が始まったって感じがしますよね。もちろん監督もどこで劇伴を貼るかというのを考えているので、話し合いながら『大室家 dear sisters』も『大室家 dear friends』も、今から『大室家』のわちゃっとした空気が始まるっていうところから劇伴を貼っています。
──都築さんはひらさわさんの意図するところを理解して微調整してくださると聞きました。
都築たとえばお芝居が演技としてはよかったんだけど、録れた音がちょっとだけ不明瞭だったりすることがあります。芝居に熱が入るとたまにあることだし、逆にそれが臨場感になったりもするんですけど、やっぱり言葉として聞こえないとまずいセリフもあるので、そういうときはこちらで明瞭度を出す調整をします。それと、僕らがアフレコ作業をするときは、キャラクターの口パクが完成した状態ではないことが多いんです。だから役者さんの芝居が作画の方の意図した感じと異なった間になってしまったりすることもあるので、詰めた方がいいとか開けた方がいいとかが出てくるんですが。その具合って人によって好みもあるので、「ひらさわさんはこれぐらいの間の方がいいだろうな」とか考えながら調整をします。1秒間が24コマなので、そのうちの1コマをズラすぐらいの差ですけど、そうすることで音楽や効果音が出しやすくなることもあるんですよ。また、単純に芝居の間として言葉に意味を持たせることもあります。
──1フレームの調整が大きな意味を持つんですね。
都築僕もアフレコ現場でディレクションを聞いているので、「ここは焦らせたいんだな」「ゆっくりさせたいんだな」とわかってきます。役者さんも人間なので、完璧にできない部分の補正をこちらでやっているという感じですね。あとはさっきも出ていた、劇伴の当てどころ。一曲の中に強弱や転調といったポイントがあるので、このセリフを受けてから転調するとか、そういう調整を意識しています。
──そこまで細かな配慮をされているとは。
都築劇伴指示にカット番号しか書いてない場合、カットの頭から音楽を流すことも考えますが、ちょっと間を開けてから流すといいこともある。何も書かれていないけどきっとセリフや効果音を受けてから流したいんだろうなと予想して、2〜3パターン作っておくことはありますね。
ひらさわフィルムスコアリングという、出来上がった映像に合わせて劇伴を作るというやり方ならもちろんぴったり合います。映画『大室家』はフィルムスコアリングではないので、足したり引いたりするのは都築さんの作業。音楽のデータをステムと言いますが、ドラム・ベース、ギターなどの上モノ、そしてメロディーライン。この構成で作曲家さんから渡されますが、例えば2分の曲を1分半にして使うとき、都築さんがこれらのデータを切ったり伸ばしたりして収めます。そう考えた時に、セリフを受けてから劇伴を貼ることもあれば、セリフの前に出しても大丈夫なこともある。けどカット頭とセリフとの間が短かったらどうするかなどパズルのような作業なので、やってみないとわからないことも多いんですよね。
都築僕は「曲にも芝居をしてもらう」という言い方をするんですけど、役者さんの演技を音楽でも印象付ける手助けをしてるつもりです。細かい指示がなく感情に音楽をつけるときは、音響監督から任されていると思ってやってます。
──効果の西佐知子さんはどんなお仕事をされているのですか?
ひらさわ今回、音響面で一番苦労されたのは西さんかもしれません。特に今回の『大室家 dear friends』は季節が秋から冬なので。特に冬ってあまり貼れる音がないんですよ。でも劇伴も貼っていない。どうする? って。
都築プレビューの日、ひらさわさんが来る前に西さんが言ってましたよ。「私、今回どこまで頑張ればいい?」って(笑)。
ひらさわプレビューを見てから作戦を変えたんです。効果って、場面が変わりましたという意味付けの役割もあったりと、観ている人が混乱しないためのアシストもしているんですね。商店街のシーンで場面が切り変わった時に自転車のベルを入れてくれたのはよかったですよね。きっと入れてくれるだろうなと思っていたので。
──撫子たちが学校帰りに商店街のお店でカチューシャを買うシーンも、劇伴はないですね。
ひらさわ最初はガヤの音を貼るつもりだったけど、貼らなくていいと言われて、これもまたどうしようと(笑)。とりあえず店内BGMが漏れ聞こえてる感じにしましょうということで、西さんにお願いしました。そうすることで日常感が出てよくなりましたね。日常モノを音響で演出する上では、効果音が一番使えると思っています。
──アフレコで気をつけた部分は?
ひらさわ声優さんたちはみなさんプロフェッショナル。それぞれ考えたものをお持ちいただくので、僕が音響監督として行うのは、個別に録っている方とのバランスや、まだ絵ができていない段階なので、「わかりにくいかもしれないですがこうなるんです」というフォローをするぐらいですね。アフレコで僕はとても気楽です(笑)。都築さんは録った後のことを考えていると思いますが。
都築今回は映画なので、さっき言ったようにレンジを広く録っておくというのはありますね。一度圧縮して録ってしまった音を昼ゲルってすごく大変な作業になるので、小さく録りたいものはちゃんと小さく。大きい音はある程度大きく録っておくことは意識していました。
──撫子の電話シーンでは、撫子がとても小声で話していたのも印象的でした。
都築今回は映画なので、声優さんの演技をリアルに活かせました。かなり小声ではありますが、かといって録ってる最中のノイズが気になってしまうほどの録り方はしていません。
ひらさわそれだけ撫子役の斎藤千和さんの発声がしっかりしているのも大きいです。ウィスパーなお芝居ができる方というか、発声がしっかりしているので、音量的には小さいけれど細かな表現ができているんです。ちなみにあそこの裏話を話すと、普通はボールドといってキャラ名が画面に出ているときだけ演技してもらうのですが、斎藤さんから「相手を感じたいので、自分なりに準備したものをやってもいいですか」というご提案がありました。ぜひということで自由に演じていただき、相手との掛け合いになっているお芝居をしてもらい、OKにさせていただいたんですよね。素晴らしかったです。
──『大室家dear friends』がより楽しめる、音響面でのマニアックな小ネタがあれば教えてください。
ひらさわ大室家みんなで映画を観ようということになって、『さあ来い! くるみパンちゃん』というアニメを観ますよね。それから数シーン後、また三姉妹でぼーっとテレビを観ていて撫子のスマホが鳴る場面。あそこでまた『くるみパンちゃん』の音楽をかけています。テレビを観ているんだから何か音を貼らなきゃということで、また『くるみパンちゃん』を観ているということにしました。びっくりするシーンがあって衝撃を受けたはずの『くるみパンちゃん』ですが、意外と3人とも気に入っているという(笑)。
都築あとはやっぱり、その後の撫子の仲直りの電話ですよね。電話の相手の声が一瞬、本当に小さな声ですが、映画館なら聞こえるぐらいの音量にしているので、ぜひ耳を傾けてほしいです。
ひらさわ熱量が高くリピーターが多い作品だと聞いていますので、一度観た方も、次に観るときはそういったところもぜひ注目してほしいですね。
PROFILE
ひらさわ ひさよし
アニメ監督、音響監督。映画『大室家』シリーズでは音響監督を担当。過去の担当作に『聖剣学院の魔法使い』、『恋愛フロップス』など。
PROFILE
都築寿文(つづき としふみ)
MAミキサー。映画『大室家』シリーズでは録音・調整を担当。過去の担当作に『異世界迷宮でハーレムを』、『BanG Dream! Morfonication』など。
<発売情報>
『大室家 dear sisters』(特装限定版)
Blu-ray
好評発売中
税込価格:¥8,580
品番:BCXA-1899
<上映情報>
『大室家 dear friends』
絶賛公開中
▼映画『大室家』 公式サイト
https://ohmuroke.com/
▼映画『大室家』 公式X
/ 推奨ハッシュタグ#大室家
©なもり・一迅社/「大室家」製作委員会