『しんちゃん通信』 スペシャルインタビュー「シロ役 真柴摩利」
野原一家の愛犬・シロを演じる真柴摩利さん。
「ワンワン」という単純明解なセリフに込められたシロの気持ち、
野原一家への想いを代弁していただいたような温かいインタビューは必見です。
(取材・文 / 大山くまお)
――映画『クレヨンしんちゃん』が25周年を迎えました。大変な偉業だと思いますが、現在のお気持ち、感慨などがありましたらお教えください。
テレビの初回の視聴率が4%だったので、これは絶対にすぐ終わってしまうと思っていたので、こんなに長く続くとは……。ほかの番組ではそうそうないことですし、一つの役をここまでずっと演じられるのは幸せなことだと思います。
――シリーズが25年続いた要因、秘訣はどのようなところにあるとお考えでしょうか?
(メディアに登場する子どもが)「親の言うことを聞く良い子」ばかりで息苦しさがあったところへ、PTAのお母さんたちが眉をひそめるような子がやってきて、「なんだ、こんなことやってもいいのか」「しんちゃんはこんなことをしているけど、ちゃんと両親に愛されてるじゃないか」と思われたところじゃないでしょうか。お母さんたちも、100点満点のお母さんが良いお母さんだと思われていましたが、「みさえのように完璧じゃなくてもいいんだ」と思った人も多かったと思います。世の中に息苦しさがあるうちは『しんちゃん』が求められるような気がします。だから、こんなに長く続いたんでしょうね。
――真柴さんは風間くんとシロの2役を演じられていますが、どのような経緯があったのでしょうか?
最初、しんちゃん役のオーディションを受けたのですが、原作を読んでみたら「私は風間くんだなぁ」と思ったんです。ふたを開けたら風間くん役で選んでいただいたので、すごく嬉しかったですね。
シロは最初に登場したとき、テストで誰も演じなかったんですよ。本番でいきなり「真柴さん、ちょっと鳴いてくれませんか?」と言われて、そのままシロ役に決まりました(笑)。音響監督の大熊(昭)さんは旧『ドラえもん』でも音響監督をされていて、私はいろいろな役で呼んでいただいていたんですよ。猫や犬やひみつ道具とか(笑)。そのことが頭にあって、私に「鳴いて」とおっしゃったのかもしれないですね。ありがたいことです。
――あらためて、真柴さんが考えるシロの魅力をお教えください。
シロは絶対にしんちゃんを嫌いにならないところですね。野原家の良心というか(笑)。脱線するしんちゃんを戻そうとするけど、戻しきれずに引っ張られていくところが愛らしいのかな、って(笑)。
――シロを演じるときに心がけていることは、どのようなことでしょう?
基本的には、犬として鳴くときも(シロとして)セリフを喋るときも気持ちは同じなんです。普段は「ワンワン」しか言いませんが、そのときの気持ちを込めているので、それがセリフになっただけなんですね。
――シロを演じられてきて、「変わったこと」「変わらないこと」はどのようなことでしょうか?
シロのキャラクター自体がけっこう変わっていて、最初はぬいぐるみみたいだったんですよ。あまり鳴かないし、しんちゃんにされるがままでした(笑)。それが生きている犬になり、感情を出すようになったんです。
演技も徐々に変わっていきましたが、確実にシロが家族になったと思ったのは『栄光のヤキニクロード』ですね。それまではエッセンス的な活躍でしたが、この作品では最初からエンディングの歌までガッツリ関わりました。シロが野原家の一員になったのはこの作品だと思います。
――映画『クレヨンしんちゃん』25作の中で、真柴さんがお好きな作品、あるいは印象的だった作品とその理由をお教えください。ベスト3を挙げていただけると幸いです。
『オトナ帝国』は鉄板ですよね! 台本を読んだ時点では面白いのか面白くないのかわからなかったのですが、収録の前に一度映像を観たときに「すごく面白い映画だ!」と思いました。反響のすごさにも驚きましたね。
『ヤキニクロード』は先程お話したとおり、シロが家族になれた映画です。感動作が続いた後でしたが、爆笑の連続で「これも『しんちゃん』なんだよ!」と安心しました(笑)。
もう1本は、『ユメミーワールド大突撃』。サキちゃんが悪夢を否定しないというシーンがすごく印象的で好きでした。悪夢をやっつけて終わりではなく、それも人生の一部として受け入れるんですよね。
――映画『クレヨンしんちゃん』25年間続いてきた中で、真柴さんの記憶に残っている収録中のエピソードがありましたらお教えください。
やっぱり『ヤキニクロード』が思い出深いのですね。終盤になったとき、いつもなら「もうすぐ終わりだ!」と思うのですが、この映画のときに初めて「終わりたくない!」と思ったんですよ。
――映画『クレヨンしんちゃん』にはたくさんのユニークなキャラクターが登場しますが、真柴さんが最もお好きなキャラクターとその理由をお教えください。
みんな魅力的ですが、『暗黒タマタマ大追跡』のオカマの三兄弟が好きです! 収録もすごく楽しくて、いつもはコワモテな郷里(大輔)さんと二枚目の塩沢(兼人)さん、大滝(進矢)さんの三人がお尻を振りながら演じていたんですよ(笑)。楽しそうに演じられていましたし、後ろで見ていてもすごく楽しかったです。
――『クレヨンしんちゃん』の人気の根っこには野原一家の魅力があると思います。「25年間、変わらない野原一家の魅力」とは、どのようなものだとお考えでしょうか?
「否定しない」ところですね。特にみさえとひろしは、自分たちのダメなところも見せるし、いいところも見せる。しんちゃんやひまわりを怒ることがあっても否定はしませんよね。みさえとひろしはお互いに愛し合っているし、しんちゃんもひまわりも愛している。根底に愛情があるから安心感があります。みさえとひろしに育てられたからこそ、しんちゃんも自分とは違う相手に対して絶対に構えないんだと思います。
――『シリリ』でも、しんのすけはシリリ相手に構えていませんでしたね。では、最後にあらためて『シリリ』の見どころを教えてください。
シリリの成長過程でしょうか。シリリは違う星から来て、父親から押し付けられた価値観が正しいと思っていたのに、しんちゃんにかかわることでどんどん変化していくんです。まさに『しんちゃん』が始まったときの世間の人たちが思ったように、「こんなこともしていいんだ!」「こんな自分でもいいんだ!」と思ったんじゃないかな。
PROFILE
真柴摩利(ましばまり)
11月21日生まれ、群馬県出身。ぷろだくしょんバオバブ所属。少年役などを中心に活躍中。代表作に『ザ・シンプソンズ』ロッド・フランダース役、ラルフ・ウィガム役、『おそ松くん』ハタ坊役、カラ松役、『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』シーマ・ガラハウ役、『21エモン』リゲル役などがある。
©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 1993 - 2017