伝説の名作を再構築して新作に
――お2人の共通点である、“70年代の有名作品を新生させる”という挑戦について伺っていきたいと思います。まず、森山監督から『メガロボクス』のオファーが来た時の心境からお聞かせください。
森山僕はアニメーター、デザイナーとしてやってきて、監督は未経験でしたから、恐れ多いタイトルだというのが第一印象です。『あしたのジョー』はリアルタイム世代ではなく完全に後追いでしたが、もちろん大好きな作品のひとつですから、なかなかハードルが高いという受け止め方でしたね。しかも最初は連載50周年記念作品として、原作ラストからの続き、またはスピンオフや番外編という原作と地続きな感じで企画が始まったので、力石の過去を描いてみようなどやってみましたが、どうもうまく行きませんでした。これは切り口を変えないと進まないだろうとなった時に出したアイデアの一つが「舞台を近未来」としたオリジナルの物語でした。原作から考えると突拍子もない案ではありますが、それまでのやり取りのおかげか一度その方向性で任せて貰えるということになり、「メガロボクス」として企画が再スタートしました。
――羽原監督も、最初から監督をやるという感じではなかったそうですが。
羽原当初はヤマトの脚本家を知らないかと言われ、岡秀樹さんを紹介したんです。最終的には福井晴敏さんと共同脚本になりますが、その流れで監督のオファーもいただきまして。やはり何よりも大好きな作品ですから僕なりに悩みましたが、せっかくいただいたチャンスですし、『2199』もその前の『復活篇』にも関わっていたこともあり、苦労することは十分わかっていましたけど、もしお断りして後で悔やむくらいなら、全身全霊を賭けてやってみようと。そんな気持ちで、引き受けさせていただきました。
――劇場の『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(78)とTVシリーズの『宇宙戦艦ヤマト2』(78)と分岐したシリーズを一回分解して、再構築しながらまったく未知の新作に仕立てなおすという点では、『メガロボクス』に似た部分がありますね。
羽原そうですね、確かに似てますね。福井さんも含めた僕たちのチームに与えられたミッションは、「次に続けられるものにしてほしい」ということと「『2199』の続きとして《新しいヤマト》を作ってほしい」ということだったんですね。それで旧作の要素も混ぜつつ、新しいものをプラスしていこうと、主に福井さんにいろんな設定やストーリーを作ってもらいました。
――それぞれの作品のご感想も伺いたいです。まず、羽原監督は『メガロボクス』を、どうご覧になったでしょうか。
羽原第2話まで拝見しましたが、もう続きが気になって気になってしょうがなくなりました。僕は特に『(あしたの)ジョー 2』が大好きで何度も何度も繰りかえし観ているほどですけど、『メガロボクス』の新しい世界観にビックリするくらいスッと入れました。キャラクターの立ち位置もはっきりわかるし、『あしたのジョー』に登場したキャラクターを感じさせる人物もいて、そのバランスがすごく良かったです。渋めの色合いも良かったですし、もう声がね、バツグンに合ってて、生きてる感じがして……。
森山役者さんの声でキャラクターが一段階あがったのは、実感としてありますね。
――森山監督は『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』をどうご覧になりましたか?
森山『宇宙戦艦ヤマト』も直撃世代ではなく後追いでしたが、今回ものすごく印象に残ったのが第二章からのオープニングです。ヤマト建造シーンによって、古いものを新しく再構築するという意味を、ちゃんと描いている。原点があるものに何を付加するか、これは削っていいのかなど、ものすごく慎重になられたと思いますが、あの建造シーンは今まで見たことないものですよね。何を加えてもノーという方もいるかと思いますが、ああいう豊かなシーンで、ヤマトという世界がもう一つ拡がりを見せた気がして、僕としてはものすごく共感できました。今日はこれをまず最初にお伝えしようと思っていました。
森山 洋監督
羽原ありがとうございます。実は『復活篇』のときにも「復活」というぐらいだから、ヤマトを建造するところをやりたいと西﨑(義展)監督に提案したんですが、実現しなかったんですね。その時の想いも含めて「こういうヤマトが見たい」という気持ちをこめて、麻宮騎亜さんといっしょに作らせてもらいました。
森山『2199』から現代的でリアル寄りになりましたよね。それで昔とやや印象が変わったこともあって、あのオープニングがスッと自然に入ってきたんですね。
羽原 実は74年版の『ヤマト』と『さらば』のヤマトって、少し形が違っているんです。それって描き手のとらえ方の違いなんですね。ただ今のヤマトはCGになったので、メカデザインの玉盛さんと相談して、形の差を正統的に設定してCGモデルで表現したいと思ったんです。そのために、物語の中でも改修したということを描いておこうという意味も込めています。
原作の中で特に大事にしている要素
――原作を再構築する中で、やってみて手応えがあった部分はどこですか?
森山ある意味オリジナルになったということで原作との関係をあまり気にすることなく自由にやらせていただきました。とはいえ、『あしたのジョー』の人間的な部分、ドラマ的な部分を抽出するわけですから、原作を見返して言葉使いや関係性に注意し、みんなで共有しながら脚本づくりの段階でベースをつくっていきました。「『あしたのジョー』連載50周年企画」ですから参照元は原作漫画ですが、アニメ版も忘れることはできないものですから、どうしても入ってきます。特に『メガロボクス』の主人公の精神構造は、力石が死んで旅から戻ってきた『ジョー2』のものに近いと感じています。そこからもっと危うい立場に立たせてみて物語を進めていくことで、また新しい主人公像ができるのではないかと考えました。
羽原僕もリアクションや言葉の語尾を通じて、芯のところで「あっ、これはジョーだ」って感じられました。
――羽原監督にとっての『あしたのジョー』とは、どんな存在でしたか?
羽原最初のTVシリーズは正直記憶にないのですが、『2』は高校生くらいでしたから、もうのめりこんで観てました。僕ら世代のアニメーターにとっては、必ず何らかの影響を受けている作品と言っていいと思います。演出でも、つい目を伏せて語らせてしまうとかやってしまいますし、それと人の生死が非常にリアルに感じられたんです。『メガロボクス』にそれがどう反映していくのか、楽しみでもありドキドキしてる部分ですね。
――『ヤマト』の再構築では、どんな部分がポイントだったでしょうか?
羽原『2202』の場合は『さらば』と『2』との違いをどうするかなど、選択肢が豊富なだけに難しい部分が多かったと思います。中でも特に大切にしているのは「キャラクターの気持ち」です。『ヤマト』って、主人公がかなり揺れ動くんです。話数によって全然違うことを言っているようにも聞こえますが、それも魅力として成立しているので、そこをどう積み上げて微妙なバランスをどう保っていくかが、すごく難しいです。それは『2202』の特徴にもなっていると思っています。
――特に大事にしていることは、何でしょうか?
羽原やはりカメラの位置などは非常に気をつけています。感情の流れによってカメラの高さを変えるのは常套手段ですが、ダラダラと引っ掛かりがなくなってしまうことがあるので、あえて外す部分を流れの中に入れるか入れないか、常に考えています。
森山『あしたのジョー』の物語って、今の若い人が見ても絶対面白いと思うんです。矢吹丈も力石徹も丹下段平も、考えや行動があの時代独特のもので、ものすごく時代を象徴している。その感覚は大事にしたいと思いました。「メガロボクス」は過去の名作を原点にして近未来を描いていますが、「今の時代の物語」であるということは強く意識して作りました。一見、原作と似たキャラクターも登場しますが、その性格や行動によっては作っている自分たちの現代の価値観が反映されていると思います。
羽原あえて大きく変えているキャラもいて、面白いですよね。でも、あの世界の中での立ち位置としては、けっこう納得できたりする。なのでこれからどうなるのか、すごく興味がそそられます。
羽原信義監督
森山今の人に見せるということを、意識し過ぎているわけでもないんですね。「自分たちが面白いと思えるものを作ろう!」という純粋な意欲が、現場にはあります。少人数のチームで作っていますが、趣味や好きな映画に共通するものが多いので、お互い信頼感があるんです。そうしたら、まず自分たちでかっこいいと思えるキャラが自然と一致してきて、あとはどんどんクオリティを上げていくことに集中できたのが良かったですね。
羽原今回、監督の僕はなるべくベテランの皆さんの力を借りることにして、調整役になろうとしているんですね。熱い現場なので、シナリオ段階から結構ぶつかることもありますし、皆さん大人なのである程度引いてもくれるんですが、僕としては絵にすることを優先に考えて、「こうしたほうがいいですよ」と提案することでコンセンサスをとったりしています。
森山皆さん、おそらく自分の「ヤマト観」があるんでしょうね。
羽原そうなんです。でも、そういう衝突があったほうが、作品にいい効果が生まれるはずなんです。ところで『メガロボクス』のスタッフの中には、リアルタイムのジョー世代という方はいらっしゃいますか?
森山ええ。脚本の真辺克彦さんは特に「ジョー愛」が強いですね。アニメーターにも実際に作画を担当されていたベテランの方であったり、何人かリアルタイムの方がいらっしゃいます。 美術監督の河野次郎さんも出﨑監督の作品で美術を担当されていましたし。
音楽の使い方や線の表現でオリジナルに迫る
――オリジナルに改めて触れて、再発見したことなどはありますか。
森山ドヤ街の街並みを近未来に置き換えてみたくて、原作を入念に読み返したんですけど、深みがすごいと感じました。かなり些細な描写なのに、街の人が生き生きしてる感じがする。ほんとにこの街が実在して、住人が生きているみたいなんです。
羽原僕のほうで改めて思ったのは、音楽の使い方ですね。しょっちゅう見返していたはずなのですが、自分たちで作ってから観ると、他のアニメとは全然違うなと。「音楽アニメ」みたいなところがあって、その音楽の入る「間」がすごく大事にされているんです。ですから僕も、普通に編集すれば切ってしまうような部分をあえて残したり、逆に伸ばしたりして、「音楽ありき」で調整しています。それがお客さんにも届いていて、受け入れてもらっている感じがして嬉しいですね。
森山『メガロボクス』の音楽はmabanuaさんにお願いしています。アニメ版の『あしたのジョー』も音楽の影響が強く、ブルースやフォークなど、映像と音楽を自然に一体化して記憶している人が多いと思うんです。なので、『メガロボクス』でも流れる音楽が映像の記憶とともに残るようにしたいなと。近未来のドヤ街を想像したときに、ヒップホップやブラックミュージックが絶対流れているだろうと考え、mabanuaさんへオファーしました。
羽原僕が羨ましいのは、キャラクターのマシントレスっぽい線ですね。ザラっとしてカーボンが泡を吹いて細かい穴が空いている感じで、『あしたのジョー』はそういう部分にも熱い部分がこめられていたと思うんです。いっぱい引いて線を太く見せているようなところからも、熱気がガンガン伝わってきて嬉しかったです。
森山手描きで線を太くしっかり描いたうえで、撮影処理をかけてます。うまくいくと、最高にかっこいいセル調の画になるんですよね。企画当初からこの作品がテレビに流れるのを想像したとき、今風の綺麗な映像のイメージがまったく出なかったんです。自分もギリギリセルの時代にアニメ業界に入ったので、あの映像が大好きなんですね。それで線も昔に近づけてもらい、画面も撮影で荒らしてもらっています。ただ、単純に粒子を乗せるだけだと目に優しくないので、一度作ってもらった画面をちょっと縮めてもらい、それから拡大するという作業を繰り返し、フィルムっぽい感じを出しています。
羽原『2202』もフィルムっぽさを意識してますね。アナログ時代はパーフォレーション(フィルムの送り穴)に誤差があって、揺れていたんです。デジタルで完全に止めるとフリーズしたように見えるので、ちょっとだけ揺れている感じにしてもらっています。
古典の人間ドラマを描いても、アプローチは違う
――お互いの作品をご覧になっての感想を、もう少しいただけますか。
羽原『メガロボクス』はダークな感じが大好きな世界なので、すごく楽しませてもらっています。クオリティが高いので、今後は現場が大変かなと少し心配しています。
森山『2202』は群像劇でありながらキャラクターそれぞれに個性があり、その一人一人に焦点を当てていて、すごく大事にされていると感じました。こちらは逆に「個として生きる」という主人公中心の人生の物語です。昔の作品を題材に人間ドラマを描いていているのは同じでも、だいぶ違うなと感じました。『2202』は、集団として一緒にいることの難しさも丁寧に描かれていて、ものすごく引き込まれるのがすごいなと。僕には、できないですね。
羽原群像劇は、脚本の福井さんが緻密に描いてくださってる部分ですね。
森山すごく個人的な疑問ですが、戦いの物語を描くとき、現実の社会問題を意識されたりはしますか?
羽原もちろん意識はしますが、あまり自分の考えを入れないよう気をつけています。『宇宙戦艦ヤマト』という作品を受け取ったからには、それを次に伝えていくのが大事ですから、そこに戦争に対する自分なりの想いを入れすぎると趣旨が変わってしまうんですね。僕は広島出身ですから、平和に対する気持ちは強い方だと思いますが、行きすぎるといけないので、エンタテインメントに徹するよう気をつけています。
森山ものすごく難しい部分ですよね。現代的にしたことで、武器の使い方や戦いに臨む姿勢も前とはまた違ってきていて、考えさせられますね。
羽原最初の『ヤマト』を作っていた方々は、戦争を体験されている世代です。僕たちには到底かなわない部分をもって作られていたので、今作るにあたっては考えさせられることが多いです。『2199』で出渕(裕)監督が波動砲に蓋をしたのはすごい発想でしたが、エンタテインメントにするためにも波動砲は復活させていただきました。
――仮の話として、森山さんが『宇宙戦艦ヤマト』の監督になったら、どうされますか?
森山きっと『ジョー』以上に悩む部分が大きいでしょうね。『メガロボクス』は個人を描く物語だからこそ、いろいろな想いをこめられたと思いますが、『ヤマト』はそうではない。「集団を描く」ということにすごく悩むと思います。
――ご自身でも、SF的な設定を描かれていますよね。その点はいかがですか。
森山実はSFは、苦手な方なんですよ。。
羽原そうなんですか? ギアとかいいアイデアだから、SF好きなのかと。
森山ああいうアイテムは大好きですけど、巨大なものを描くのが苦手なんです。せいぜい車レベルまでですね。特に『ヤマト』では、あり得ない造形の巨大なものが飛んでいますよね。それを信じ込ませるデザインは相当難易度が高いと思うので。
――逆に羽原さんが『あしたのジョー』をやるとしたら?
羽原絶対に、このギアの発想は出てこないですね。これって大発明ですよ。その最新のものを使える人ということで、ライバルキャラクターを立たせてるから、そこもすごいです。もし、群像劇にしていけるのなら、できるかもしれません。人と人が絡みあっていって何かが変わっていく、そんな関係性が面白いなと思っているので。
森山いろんなアプローチの仕方があると思います。『メガロボクス』も、自分たちはこれが正解だと思ってやっていますけど、ホントにそれだけかはわからないですし。
――最後にお互いへのエールやメッセージなどあれば、お願いします。
羽原すごく面白いので、今は『メガロボクス』の続きがとにかく楽しみでしょうがないです。『あしたのジョー』が大好きな僕が、この世界観はイケると思えたので、これは新しいし、かなりいい作品だと思います。とにかくジョー、力石に相当する人物の立場や想いが、ものすごくよく分かります。原作と同じく愛しい人たちとして描かれているから、ウェルカムな感じになっているんですよね。そんな愛がたっぷり入っているフィルムなので、最後まで楽しみにしてます。
森山自分も『ヤマト2202』、とても楽しく拝見させていただきました。改めて、音楽と映像が結びつくっていうのが大好きなんだと、今日お話しさせていただいて感じました。また楽しめる要素が増えたので、また音楽に注目して何回も見直させていただきます。パイプオルガンもそうですけど、ホントに音楽が力を持ってるなって思える作品になっていて、これは素晴らしいことだと思います。
PROFILE
森山 洋(もりやまよう)
1978年生まれ。『進撃の巨人』ビジュアルコンセプトや『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門』のプロップデザイン、『甲鉄城のカバネリ』のコンセプトアート/デザインを担当。初監督作『メガロボクス』でも、たぐいまれなるビジュアルセンスを遺憾なく発揮する。
PROFILE
羽原信義(はばらのぶよし)
1963年生まれ。広島県出身。演出家、監督。『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』にメカニック演出として参加、ディレクターズカット版にてアニメーションディレクターを担当。続く『宇宙戦艦ヤマト2199』では第9話と第19話の絵コンテ・演出を担当。シリーズ最新作『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』で監督を務める。
<放送情報>
4月5日(木)深夜25:28〜TBS他にて放送開始!
<上映情報>
宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 第五章「煉獄篇」
2018年5月25日(金)より期間限定劇場上映!
※特装限定版Blu-ray 劇場先行販売&デジタルセル版配信 同時スタート!
<Blu-ray&DVD発売情報>
宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 特別限定版Blu-ray 第5巻
【BVC限定/初回限定生産】
2018年6月1日発売
¥11,000(税込)
※上映劇場にて2018年5月25日(金)より最速先行販売開始!
※先行販売は数に限りがございます。無くなり次第終了となりますので予めご了承ください。
宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち Blu-ray&DVD 第5巻
2018年6月22日発売
Blu-ray:¥8,800(税抜)
DVD:¥7,800(税抜)
V-STORAGEメガロボクス特集サイト ガチンコ!メガロボクス道
メガロボクス 公式サイト
宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち【BVC限定】特設サイト
宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 公式サイト
©高森朝雄・ちばてつや/講談社/メガロボクスプロジェクト
©西﨑義展/宇宙戦艦ヤマト2202製作委員会