SDガンダム Blu-rayコレクションボックス発売記念『機動戦士SDガンダム』アミノテツロ × 高松信司 インタビュー
「SDガンダム Blu-rayコレクションボックス」の発売を記念して、収録作品のスタッフへのスペシャルインタビューを敢行。
第1回目は、シリーズの原点である『SDガンダム』にて、いくつもの作品で監督・脚本を担当したアミノテツロ氏と高松信司氏に話を伺った。初期から後期に向けてのシリーズの変化の変遷、当時の現場の雰囲気、その後にも大きな影響を与えることになる「SD戦国伝」「SDガンダム外伝」の裏話などを語ってもらった。
──お二人は、どのような形で『SDガンダム』に関わっていったのでしょうか?
アミノ 第1弾のOVA『機動戦士SDガンダム MK-Ⅰ』の「第二部・休日編 ジオン・ホテルの脅威? ガンダム・ペンション破壊命令!!」で絵コンテを担当したのが最初です。
「第一部 激闘編 ガンダム大地に立てるか!?」は、『機動戦士ガンダム』本編のパロディ作品なので、オリジナルの方に関わっていた経験者である関田 修さんが演出、星山博之さんが脚本をやられていて。僕は声をかけていただいた際に、「ガンダムのことはあまり知らないんだけど」と言って、本編と関係がない休日編をやらせていただきました。その後、『機動戦士SDガンダムMK-Ⅱ』からは、「ガンダムを良く知っている他のスタッフがたくさんいるから」ということで、監督と脚本を担当するようになったという感じですね。
高松 私は劇場版の『機動戦士SDガンダムの逆襲』に収録されている『SD戦国伝 暴終空城の章』で、演出としてアミノさんに付いたのが最初です。
私は当時、『宇宙の戦士』や『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』などのOVA作品で演出を担当していて、アミノさんとは『宇宙の戦士』でご一緒していたんです。そのスタジオで『SDガンダム』を作ることになり、プロデューサーの内田健二さんから「演出をやって」と言われて参加したのがきっかけですね。『SDガンダム』は2年くらいやっていたのかな? もの凄い勢いでシリーズが作られていったのを覚えています。最初はパロディをやっていたのに、だんだんオリジナルというか、わけのわからないシリーズに突入していって(笑)。刺激的で、すごく面白かったですね。
アミノ 本当に自由に作らせてくれたね。
高松 当時のバンダイビジュアル(現:バンダイナムコアーツ)さんが「『SDガンダム』の人気は凄いんです」って言ってくださって。武者頑駄無や騎士ガンダムで作って欲しいというオーダーだけで、特にクライアントから「こうして欲しい」という要望も無くて、わりと好きにやっていいと言われましたね。私は、『SDガンダム』で初めて監督と名乗らせてもらったという思い出もあります。
アミノ 『SD戦国伝 天、地、真、理の巻』(機動戦士SDガンダムMK-Ⅲに収録)で監督をやったんだよね?
高松 監督ですが、すごく予算も少なくて、おまけとして付ける短いものを作って欲しいと言われてやった感じです。そして、その次にきちんと監督をしたのが、『SDガンダム猛レース』です。この作品は、今は観ることができないんですよ。今回のBD-BOXにも収録されていません。
──当時、SDガンダムというコンテンツが盛り上がっている実感は、作っている側としても感じていましたか?
アミノ そうですね。『SDガンダム』のようなジャンルは、当時はありそうで無かった感じですからね。そもそもの元になった玩具も、最初は単なるディフォルメモデルだったんですが、武者頑駄無や騎士ガンダムが出たりして、どんどん広がっていった。その頃には、そもそもの始まりだったパロディ路線のような展開はもはや関係なくなっていて。ファンの方から話を聞くと、みんなSDガンダムをカッコイイと思って見ているんです。そうした感覚の変化が盛り上がりに関係しているのかなって思いますね。
高松 商品はバンダイさん各事業部で、連動とか関係無く展開していた印象がありますね。戦国伝はプラモデル、騎士ガンダムはカードダスでそれぞれやっていて、アニメはそれを好きなように作るという感じでした。
アミノ やっぱり、『SDガンダム』というタイトルが大事だったんだろうね。
高松 それこそ、アニメでスイカ割りのシチュエーションをやったら、それがケシゴムになったりもしましたね。スタジオには横井考二(※1)画伯がよく遊びにきていて。
※1 横井考二…「スーパーディフォルメガンダムワールド」を生み出したデザイナー。「カードダス20 SDガンダム」「元祖SDガンダム」等のSDキャラクターを多くデザインしている。
アミノ 楽しそうだったよね。皆さん、作品を自由に作れるというんで、伸び伸びとやっていた印象が残っていますね。
──『SDガンダム』は初期の頃はパロディやコメディものが多かったですが、だんだんと『SD戦国伝』や『SDガンダム外伝』などの物語性があるものにシフトしていきます。そうした流れはユーザーが求めるものへの変化だったりしたのでしょうか?
高松 バンダイの方から依頼があったんじゃないかと。
アミノ 「武者頑駄無」という商品展開をするので、それを出して欲しいと。そういう感じだよね。
高松 「カードダスでこんなのが出るので」というような感じで、作業を進める中でどんどんお題がくるようになっていったという記憶がありますね。
アミノ 武者頑駄無はキャラクターのデザインだけがあって、話はこちらで勝手に作っていった感じがあるけど、ガードダスの『SDガンダム外伝』の騎士ガンダムはファンタジーの世界観がしっかりとあって、それに沿ったストーリーで作っていきましたね。だから、さっき言った自由度の高いパロディ作品はそんなにないかもしれないですね。
高松 パロディの方もだんだんアミノさんオリジナルのSDガンダムというネタを使ったものみたいになっていきましたね。
アミノ それこそ、欠番の「SDガンダム猛レース」は、パロディの二重構造みたいなもので、コメディとかパロディの境界線などはほぼ考えていなくて。『SDガンダム』のスタート時のパロディ感に関しては、佐藤 元君なんかの影響が大きいかなって思いますね。彼はキャラクターの性格とか、ストーリーのちょっとしたところをパロディ化して、つつくのが上手かったんです。ブレストにも参加してもらって、そこでアイデアを取り入れさせてもらってましたね。
──通常のアニメ作品では、お話の内容を決める脚本打ち合わせやどんな作画にするかという作画打ち会わせなどをやると思いますが、『SDガンダム』シリーズではそのあたりはどのように進んだのでしょうか?
高松 アミノさんはちゃんと脚本を作っていましたよね。私は脚本とクレジットされていますが、脚本は書かずに直接コンテ作業をしていました。
アミノ 脚本打ち合わせというよりは、アイデア出しの打ち合わせをしていたという感じだったね。
高松 アイデア出しのブレストは結構やっていて。「ここはこうします」みたいなやり取りはしながらも、結局は脚本を書かなかった(笑)。
アミノ そういうやり方、昔はあったもんね。コンテマンや演出家、監督が脚本を作らずにそのままコンテを書いちゃう。一方、僕がやっていた方は、脚本を読んでみんなが「これで大丈夫かな?」って首を捻っていたという感じで(笑)。
高松 当時は、みんなよくあれで納得してやっていたなと思いますね。
アミノ 結局、形式でしかなかったのかな。でも、武者頑駄無や騎士ガンダムとかになってくるとかなり大変になっていった記憶はあるよね。
──きちんと作画をしないと見分けがつかなくなりますからね。
アミノ ディフォルメと言っても、線の数はリアルメカと変わらなくなってくるから。
高松 小さい分、寸詰まりになっているだけで、描く方にとっては同じだし。むしろ、鎧兜を着けている分、トゲトゲしていて、線が多いかもしれない。
アミノ 騎士ガンダムやSDコマンド戦記に出てくるスペリオルドラゴンなんかは、可愛いディフォルメキャラというレベルじゃなくて、トゲトゲしているし線は多いという、ものすごい世界でした。その辺りは、バンダイさんの玩具のデザインをいかにアニメにするかということでやっていたんだと思います。アニメーターは相当苦労したんじゃないかな。
高松 手足が短いのでポースは付けられないし、ヒザがないので座れないんですよね。作画さんから「これ、どうしたらいいですか?」と相談されることも結構ありました。
アミノ あれを描いてアクションさせるなんて、凄い技術だよね。
──制作中に苦労された記憶とかありますか?
アミノ 演出は苦労したと思うよ。僕はわりと「行ってこい!」って感じてやってもらっていたけど。
高松 楽しかった思い出しかないんですよ。辛いことは忘れちゃうのかもしれないですけど。SDガンダムもだんだん線が増えて、大変になる頃には作品から外れてしまったので、抜けた後は「今やっているのは大変だな」と思っていました。自分は騎士ガンダムで抜けることになるんですが、最後の頃はすごく大変で。その後は、映像を見たら「こんなのを動かすんだ」と驚いた記憶がありますね。
アミノ 騎士ガンダムの頃に、さっき言った「格好良いSDガンダム」というのが定着したのかなという気がするね。当時子供で、ファンだったという声優さんと仕事をすると「格好良かった」と言われたりするから。
武者頑駄無は格好良かったから、殺駆三兄弟がずっこけるのは悲しかったとか言われたこともありますね。武者頑駄無はコメディだと思って作っていたし、騎士ガンダムもRPGゲームのパロディみたいな感じで。だから、当時の「格好良い」と見ていたファンにはゴメンねと思うところもあったりします(笑)。
改めて思い返すと、SDガンダムには「目」があったのが良かったんじゃないかと思うんだよね。感情が見えるから子ども達には入り易くて、リアルロボットものとはその辺りが多分違う。
高松 ガンダムがキャラクターとして生きていますからね。乗物ではなくて。
アミノ そうやって愛されたおかげで、未だにアニメーションが作られているのは凄いなって思いますね。それと同時に、今は3DCGで表現しているわけだけど、それは選択肢としては正しかったのかもしれない。
高松 あの当時は手で描くしかなかったですが、突き詰めて行けば、SDガンダムには、3DCGが向いていますね。
──SDガンダムはキャスト陣も豪華で、ガンダムシリーズの主要キャラクターは、ほとんどオリジナルの声優が演じています。キャストの反応はいかがでしたか?
アミノ キャストによると思いますが、SDでの演技が苦手だという感じの方もいらっしゃいました。ただ、やっぱりプロだなと思えるほど全力でやっていただけましたね。一方で、永井一郎さんは喜んでやっていたのを覚えています。音響監督もベテランの千葉耕市さんがやられていたので、あの人数のキャスト陣をしっかりとまとめられていて。
高松 今見直すと、池田秀一さんにこんなことをやらせているの? という感じもありますね。
アミノ 一方で、他の役者さんは良い意味で遊びのような気分のノリでやっていただけたと思いますね。あとは、やはり改めて考えると豪華な声優陣ですよね。当時は、「オリジナルのキャストでやる」というのが決定事項だったので、我々には選択肢は無かったんですが。
高松 異色作的な「ピキリエンタポーレス」(機動戦士SDガンダムMK-Ⅴに収録)もキャストの声にボイスチェンジャーをかけているのにオリジナルメンバーでやっていますからね。贅沢過ぎですよ(笑)。
──振り返って、お気に入りのエピソードなどはありますか?
アミノ イベントなどでは、「ピキリエンタポーレス」を挙げることがあるけど、最初に監督をした「転がるコロニー事件」(機動戦士SDガンダムMK-Ⅱに収録)が気に入っていますね。SDガンダムデビュー作として、「こういうのをやりたい!」というスタイルを見せた作品なので。
あとは、スケール感で言うと「SD戦国伝 最終空城の章」(機動戦士SDガンダムの逆襲に収録)とか。あれは劇場版ということで、アニメーターさんの力が結集したなという感じがするね。
高松 10分ちょっとですごく動いていますよね。後半の敵味方入り乱れての背景の動きとか、よくこんなの描いているなと思いましたね。
アミノ すごく派手だったね(笑)
高松 私は、やはり封印作品の「SDガンダム猛レース」ですね。監督という形で1本作ることができ、デビュー作と言ってもいいと思うので。
アミノ デビュー作が封印作というのは、ちょっと他に類を見ないね(笑)。
高松 「SDガンダム猛レース」は、SDガンダムと武者頑駄無と騎士ガンダムなどいろんなものが総登場して、さらにニセガンダムもこの作品にしか出てこない。多分、今後も復活するのは難しいでしょうね(笑)
──改めて、『SDガンダム』に携わったことに関しての感想をお聞かせください。
アミノ 何度も出ているワードだけど、玩具やカードとの連動はあったにしろ、縛りがなくて自由、悪い言い方をすると野放しなんだけど、それが人気の秘訣になったじゃないかと自己解釈しています。そういうのがあるからアニメーターも伸び伸びと出来たんだろうし。みんな、わりと喜んで参加してくれていた印象がありますね。そういう自由度が、SDガンダムというコンテンツが30年も続いている原点のひとつではないかなと思っています。
高松 普通のアニメの場合は、玩具の企画があってアニメを制作して欲しいと降りてくるんですが、『SDガンダム』は横井画伯に代表されるファンレベルのものから出てきて、盛り上がって商品化して、派生的にアニメができた。上から下へじゃなくて、下から上へ上がっていった珍しい企画だと思いますね。そこに加えて、自由度というか、やったもん勝ちみたいなところが面白かったです。当時の『SDガンダム』は、玩具はあるけど他には設定も物語もないというのが良かったと思いますね。
──今回、Blu-ray BOXという形で『SDガンダム』のシリーズを通しで観ることができます。BOXを手にしてくれるファンにメッセージをお願いします。
アミノ このBlu-ray BOXは、『SDガンダム』における、アナログから3DCGへと変わったアニメーションの歴史がわかる内容になっているのかもしれないです。好きな作品を見るだけではなく、頭から順番に観てもらって、アニメの歴史を味わってもらえたら、それは凄いことなのかと思います。ぜひ楽しんでください。
高松 時代を感じてくれればいいなと思います。80年代末から90年代にかけての「この時代は何だったんだ?」と。作品を観ることで、そういう時代があったんだということを感じていただければ嬉しいです。先ほども言いましたが、楽しい思い出ばかりなので、若い人にも観ていただけたらいいなと思っています。
PROFILE
アミノテツロ
アニメーション演出家、監督。『機動戦士SDガンダム』シリーズ、『SD戦国伝』シリーズには、作品に脚本と監督として参加。代表作は、『アイドル伝説えり子』、『マクロス7』、『屍鬼』、『虹色デイズ』、『いわかける! -Sport Climbing Girls-』などがある。
PROFILE
高松信司
アニメーション演出家、監督。『機動戦士SDガンダム』シリーズ、『SD戦国伝』シリーズ、『SDガンダム外伝』シリーズでは、演出、脚本、監督として多数の作品に関わっている。監督としての代表作として、『勇者特急マイトガイン』をはじめとした勇者シリーズ、『機動新世紀ガンダムX』、『銀魂』、『ぐらんぶる』、『RobiHachi』などがある。
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