『しん次元! クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』小林由美子(野原しんのすけ役)×こおろぎさとみ(野原ひまわり役)スペシャル対談[しんちゃん通信]
劇場版「クレヨンしんちゃん」シリーズ初の3DCG作品として公開され、シリーズ最高興行収入24.7億円を記録した大ヒット作が、早くもDVD&ブルーレイで発売決定! 今回は劇中でともに戦い、熱い絆を見せてくれた野原家のきょうだい、“嵐を呼ぶ5歳児”しんのすけ役の小林由美子さんと“野原家の宝”ひまわり役のこおろぎさとみさんにインタビューを敢行。小林さんに大根仁監督が語った意気込みや、こおろぎさんがひまわりを演じるときに行っている演技法、非理谷充への二人の思いなど、ディープな話をたっぷり伺った。
アフレコのときに聞いた大根監督の言葉
──『クレヨンしんちゃん』が3DCGになると初めて聞いたとき、最初はどのような感想を持ちましたか?
小林想像がつきませんでした。『クレヨンしんちゃん』は2Dでしか表現できない作品の代表格だと思っていたんです。しんちゃんが横向きに笑うカットとかを3Dでどう表現するんだろう? と思いました。
こおろぎ『クレヨンしんちゃん』が3Dになるんだ! とびっくりしました。あと、期間がこんなにかかるものだと知らなかったんです。最初にお話を聞いたとき、「(完成は)3年後です」と言われて、「少なくともあと3年間は野原ひまわりでいられるんだな」と安心しました(笑)。
──完成した映像を見たのはアフレコのときですか?
小林今回は収録を何回かにわけてやっていて、完成した映像を見たのは最終的なアフレコのときでした。その前に、絵コンテの段階で一度(声を)当てていますし、セリフだけ録ったり、ちょっとだけ動くパイロットフィルムに当てたりしたこともありました。計4回ぐらい録音していると思います。
こおろぎすっごい覚えてるね!
小林私、しんのすけ役を引き継いでから、わりとすぐの時期にこのお話があったんです。いろいろな『しんちゃん』を吸収したい時期だったので、よく覚えていますね。1回録ったと思ったら、また1年後にやったりとか。
こおろぎそうそう、忘れた頃にやってたね。最後は完成した映像に一気にアフレコをしたんです。
──大根監督とはどのようなやりとりがありましたか?
こおろぎ「いつも通りにやってください」と。なので、好きにやらせていただいた感じでした(笑)。
小林私は最終的なアフレコのときに初めて監督とお会いしました。「今までにないしんのすけを作ってみたいというのはあります。といっても、今までのしんのすけを壊すというのではないので、しんのすけはお任せします」という感じのことをおっしゃっていました。
──今までにないしんのすけを作ってみたい、と。
小林はい。しんのすけと充くんがいじめっ子たちと戦うシーンで「オラの仲間をいじめるな!」と叫ぶシーンが特にそうだと感じました。私には「これ以上外れるとしんのすけではなくなってしまう」という良い意味でも悪い意味でも「型」があったのですが、監督から「もっとやってください」「もっと叫んじゃってください」「今はしんのすけじゃなくなってもいいので、とにかく叫んでください」とご指導いただいて、何度もテイクをさせていただきました。「あ、やっちゃってもいいんだ!」みたいな感じでしたね。
──今までのしんのすけのトーンを超えて演じていたんですね。
小林「やりきり過ぎてもいいぐらいなので、とにかくやりきってください」とおっしゃっていました。すごく思い出深いシーンです。でも、そういうシーンは他になくて、あとは本当に『クレヨンしんちゃん』の世界観をものすごく大切にしてくださっていました。ほとんど何もダメ出しなどはありませんでしたね。
ひまわりを演じるときの“伝統芸”
──今回は原作コミックの「しんのすけ★ ひまわりのエスパー兄妹」がもとになっています。しんのすけとひまわりが協力して戦うという展開は、これまで劇場版でもあまりありませんでしたが、どのようなことを意識されましたか?
こおろぎひまはいつもお兄ちゃんと一緒なので、特別何かを変えることはありませんでした。心の赴くまま演じた結果がこれです(笑)。「お兄ちゃんが戦うなら一緒に行くわ」という感じですね。一心同体なんですよ。
──さすが、野原家のきょうだいですね。
こおろぎお兄ちゃんが危なければ一緒に戦うことは、ひまにとっては自然なことで、特別構えることじゃないんです。あまり深く考えなかったかもしれない。ひまわりは本能で生きているんです。
──とはいえ、本能の赴くまま演じるのも難しいのでは?
こおろぎ演じてるって感じがないんです。つるんとした黄色い「ひまわり」という物体を飲み込んで、出た言葉がそのままひまの言葉になっている感じ。そういえば「声をこうしよう」とか「こう演じよう」とか考えたことって、今まで一度もなかったかもしれません。
小林だから、こおろぎさんはすっごくリアルな赤ちゃんを演じられるんですよ。
こおろぎいやいや、そうさせてくれているのは、まわりのキャストがすごいからなんですよ。本当に何も考えていなくてごめんなさい(笑)。
小林そもそも、こおろぎさんの声帯が赤ちゃんみたいなんです。電車で赤ちゃんが泣いていると「あれ? ひま?」と思ったりしますから(笑)。赤ちゃんは本能で生きていますし、わざと悲しい声は出しませんよね。悲しいから泣いちゃうし、嬉しいから笑っちゃう。だから、こおろぎさんの赤ちゃんはすごくリアルなんです。
こおろぎやっばーい。すごくうれしい~(笑)。
小林赤ちゃんってそこにいるだけで存在感がすごいじゃないですか。大人が演じてその存在感が出せるんですから、こおろぎさんは本当にすごいと毎回思うんですよ。
こおろぎ逆に大人の役ができないんだよ!(笑)
小林あと、ひまは「たやや!」とか「たい!」と言ってるだけなのに、ちゃんと「カンタムパンチ!」って聞こえるんですよね。セリフがちゃんと届くんです。
こおろぎあ、それはね、台本にちゃんと書いてるの、人間語を。
小林ええ! そうなんですね。
こおろぎ台本には「たあ、たあ」としか書いてないんですけど、その下にひまの気持ちを人間語で書いてます。こんな気持ちで言おうと思いながら、出る音はそのとき任せ。これは動物役が多かった歴代の先輩方に教えてもらった方法です。「さとみ、ここに人間語をこっそり書いとけ」って言われたんですよ。そのやり方は守っていますね。
小林伝統芸みたいですね! 技術がすごい。
こおろぎそうだよね(笑)。赤ちゃんや動物の言葉に命を入れるには、まず自分の言葉で書いておきます。そうしないと、ただ「たあ! たあ!」と言うだけになっちゃうんです。
──こおろぎさんから見て、ふざけているけど真剣なところもある今回のしんのすけはいかがでしたか?
こおろぎそれがウチのお兄ちゃんなので。もう、あのまんまです。時期的に(小林さんがしんのすけ役を)引き継いで間もない頃だという話がありましたけど、引き継いでくれたときからぜんぜん違和感がなくて。何も不安になることはなく、ついていっている感じですね。
小林テレビアニメの最初の収録はものすごく緊張していて、それこそ2、3日前からほぼ眠れないぐらいだったんです。
こおろぎあの回は覚えてる! 最初に二人でずっと絡む場面があるんだよね。(「ソフトクリームはおいしいゾ」2018年7月6日放送)
小林スタジオに入ったとき、こおろぎさんが「待ってたよー!」と抱きしめてくれて。私、それで涙が出ちゃうぐらい嬉しくて! ひまが迎え入れてくれたから、やれる! みたいな気分になったんですね。
こおろぎ嬉しかったのはこっちだよ! ちょっと待って、私が泣きそうなんだけど(笑)。
小林ひまには(役を引き継いだ)初日からずっと支えてもらっていますね。妹だけど、すっごい頼りにしています。あの日のことは一生忘れません。
こおろぎ私も一生忘れない! でも、たまたまそのときいたのが私であって、キャスト全員そういう気持ちだったので。みんな、「ありがとう」の気持ちだったから。
小林本当にありがたい現場でしたね。
──しんのすけとひまわりの絆の強さを感じますね。
こおろぎやっぱり同じ家で、同じ風に育ってきたきょうだいは、同じ方向を見るんじゃないでしょうか。「絶対に守る」「絶対に裏切らない」っていう強い絆があると思うんです。劇場版だけではなく、毎回アフレコのたびに思います。きょうだいっていいな、と思う。
小林ひまとの掛け合いってすごく楽しいんです。ひまの返しがめちゃくちゃ面白いんですよ。
こおろぎ「たあ! たあ!」としか言ってないのに、全部わかってくれているんです(笑)。そこがきょうだいですよね。
みんな、心のどこかに非理谷くんを抱えてる
──話をぐぐっと『しん次元』に戻させていただきます。非理谷充というキャラクターについて、どうご覧になりましたか?
小林彼の年齢が30歳というところがすごくリアルだな、と思いました。パッと見はちょっと幼くて、18歳か19歳ぐらいに見えるんです。でも、中身も幼いんですよね。いつも誰かのせいにしているように見えます。どうしようもない状況に陥っているわけではなく、推しのアイドルにお金をつぎこめる余裕もあるのに、何だか上手くいかないと感じていて、「みんなが悪い」とまわりに当たり散らして暴走してしまう。この人物像がすごくリアルだと思いました。
──なるほど、非理谷は「幼い」んですね。
こおろぎけっこう身近にいそうな感じの人だよね。特別じゃないだろうな、誰にでも起こり得ることだし、誰のまわりにもあることなんだよな、っていう。
小林多くの人たちが、何となく上手くいかないことを誰かのせいにしてますよね。でも、しんちゃんと出会うことが、過去にいろいろあったことを乗り越えられるきっかけになればいいな、と思います。
こおろぎみんな、心のどこかに非理谷くん的なものを抱えていると思うんです。だけど、それを乗り越えて頑張っている人も多いんですよね。
──非理谷のような状態になっていた時期って誰にでもありますよね。
小林そうそうそう。
こおろぎ今だって全部他人のせいにしたくなったりするし、「もう、◯◯のせいで!」と思っちゃったりもするけど、「……いけない」と思いながら、みんなも日々闘っているんじゃないのかな。だからこそ、非理谷くんを見て「そうだよね」とわかってあげられる心もあるし、「頑張れ」と思う心もあるし。
──ひろしが非理谷にかけた「頑張れ」という言葉は、どのように受け止めましたか?
小林単純にエールだと感じていました。けっして上から目線ではなくて、下から押し上げていくような感じで。まだまだ伸びしろはあるし、これからなんだって自分でやれる力を持っているし、すごく未来のある青年に向かってのエールという感じですね。「頑張れ」にはいろいろな捉え方があると思いますが、少なくとも私たちはエールという形で伝わっていたら嬉しいと思います。
──劇中には「もういいことなんか何もない。暗い時代だ」というセリフもありましたが、そんな中で「頑張れ」という言葉は、非理谷だけじゃなくて、映画館に来ている子どもたちにも向けられているように感じました。
こおろぎ『クレヨンしんちゃん』って、ちゃんと言ってくれますよね。「未来はすごくいいものだぞ!」なんてきれいごとばかりじゃなくて、「辛いこともあるかもしれない。お先真っ暗かもしれない。だけど……」というところからエールを送ってくれるから、「信じてもいいんだ」って気持ちになるんです。子どもにはそういうものが必要なんじゃないでしょうか。きれいなことばかりじゃなくて、悪いことだってあるんだよ、って。
小林この時代の中で鬱々としている人が『しんちゃん』を観て、「『しんちゃん』面白かったな!」と笑っていただけるだけですごく嬉しいですし、何回か観るうちに何かを感じ取ってくれたらそれも嬉しいですね。子どもたちが10年後、20年後に「あのときはこんな風に思ってたな。何かのきっかけになったな」なんて思い出してくれると本当に嬉しいです。
こおろぎ長く続いている番組のいいところだよね。いつもそばにいてくれる感があって、子どもたちも安心するかもしれない。
小林親子二代で観ている人もいるでしょうね。
こおろぎもっとだよ! 私たちだって、始めたときはみんな20代だったんだから!(笑)
小林30年ですもんね!
こおろぎびっくりだよ~。ありがたいことだ。
──では、最後にファンの方たちへのメッセージをお願いします。
こおろぎ本編の父ちゃんのセリフにあった「誰かを幸せにすることが自分を幸せにするんだ」というのは、本当にそうだなと思います。困ったときは一人ぼっちで落ち込むのではなく、まわりを見回してみたら、助けてくれる人って案外自分が思うよりたくさんいてくれるんじゃないでしょうか。
小林映画を通して「いつでもオラたちは一緒にいるんだぞ!」と伝えていけたらな、と思います。野原家もカスカベ防衛隊もカスカベのみんなも常にみなさんの近くにいて、思い出したらいつでも一緒に遊べるお友達として寄り添っていきたいと思います。ぜひ、手巻き寿司を食べながらご覧ください!
<発売情報>
『しん次元! クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~』
2024年3月6日発売
Blu-ray【特装限定版】
税込価格:¥7,480
品番:BCXA-1882
Blu-ray【通常版】
税込価格:¥5,280
品番:BCXA-1860
DVD
税込価格:¥4,180
品番:BCBA-5148
映画 クレヨンしんちゃん 公式サイト
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©臼井儀人/しん次元クレヨンしんちゃん製作委員会